9 部活
その後、委員長からの自己紹介を要約すると、
1、5歳からサッカーをやっている事
2、そのため、サッカーにも力を入れているこの私立中学校に入学した事
3、親から成績上位を条件に私立へ入る事を許された事
を改めて説明された。
「そんな条件でよく委員長なんて、面倒くさい係に立候補しましたね」
私は委員長からもらったサンドイッチ(2個目はプリンが挟まっていた)を食べながら、感心していた。
「委員長ってなんか頭いいってイメージがあるじゃねーか」
「前言撤回、その発想が頭悪いですよ」
「もちろん、それだけが理由じゃねーよ。その他にも得点があるんだぜ」
「そーねー」
弁当を食べ終わったお嬢様は唇を舌でなめながら、私達の会話に混ざってきた。
「この学校はテストの点だけじゃなくて、普段の委員会や部活にどれだけ貢献できたか、学校外の慈善事業に熱心参加したか等々が追加されてー成績がつけられるし、上位の成績を取った人にはー特待生として、付属の高校に進学する権利がもらえるしねー」
「それは私も知ってはいますが」
ちなみにハカセはテストの点と部活動(科学部)の貢献度で特待生の権利を渡されたが、「学校は義務教育まででいい」との一言で蹴っている。
「それでも、ここの学校の生徒は大企業や大物政治家の親がほとんどのくせのある人達ばかり、なんですよ。そんな人達の手綱を引く委員長なんて役職大変なんてものじゃないと思いますが」
「私もそれは分かってはいるが、うち貧乏な上、私立の中学校に進学させてもらっているからな、そこまで私も頭がいいわけじゃねーから、特待生になるためには何でもやんねーと思ってんだ」
「いい子だねー」
とお嬢様は立ち上がり委員長の頭をぐちゃぐちゃに撫でまわした。
「お嬢様!クラスメートでも男子にそんな近づいちゃいけませんよ。離れてください」
俺はお嬢様の肩を掴み、委員長から引き離した。
「えーだって、委員長とってもいい子なんだもん。褒めたくなっちゃってー」
「だったら、褒めるのは言葉だけにしてください。お父様からお嬢様の暴走を止めてくれとの指令もあるんですから、常識をもった行動を心がけてください。」
「私達も負けてられない。速いとこ部活の見学にいこー」
「仲良くていーな」
と委員長は右手にはサンドイッチを左手は自分の髪を直しながら、続けて言った。
「だけど、今日からしばらく、部活動は禁止だぜ」
「「へ」」
私とお嬢様は間抜けな声を出してしまった。
「おいおい、セバスはともかく、お嬢様はさっきの先生からの連絡で聞いてたはずだけど」
「何か、連絡があったんですか、委員長」
「まず、この教室の状況を見て、何かおかしいと思わねーか」
と委員長に促された私は教室を見渡してみた。言われてみれば、入学式とはいえ、時間は13時過ぎ、3人を除いて教室には誰もいない。さっきも委員長もみんなが帰るなか、お嬢様は待っていてくれたと言った。少しくらいは雑談してから帰りそうなものなのに。
「学校からの連絡でな、しばらく、部活動と放課後の居残り禁止が決まったみたいだぜ」
「禁止!」
「ああ、今日ここの学校の生徒が無断欠席をして、先生が電話をしたけど、家の電話には出ず、親との連絡も取れない不審に思った学校は手の空いている先生がその生徒の家に行ってみたら、両親ともに血まみれになってたみたいだぜ」
「その生徒はどうなったんですか」
「先生がすぐに救急車を呼んで、両親ともに重症だけど、命に別条はないってさ。ともかく、学校側は安全を考慮して部活は禁止、放課後に残るのも禁止、たぶん、そろそろ先生が帰れって見回りにくるんじゃねーの」
「委員長はなんで、残っているんですか」
「私は弁当のサンドイッチの処理と聞いての通り、委員長だからな、生徒が全員帰るまでは教室に残ってやろうとおもってよ」
「それはご苦労な事で」
委員長ともなると、色々と大変なんだなと感心しているとお嬢様が妙に静かになっている事に気が付いた。お嬢様の肩を
(掴んだままだった)揺すりながら、呼びかけた。
「お嬢様どうしたんですかなんか神妙にして」
「ん、別にー剣道部見学しようと思ったら、禁止だって言われて、残念だっただけ、そんな事より、先生が見回りにくるならー速いとこ帰ろー」
といったと思ったら、位置を入れ替え、教室の入口へ背中を押されていった。
「待ってください。帰るのは賛成ですけど、鞄とか取らせてください」
「いいじゃん。世の中財布と携帯があれば、何とかなるよー」
「それは本当に必要最小限のものだけじゃないですか。明日の予習もあるですから、教科書ぐらい持たせてください」
「いいから、いいから、勉強を一日ぐらいさぼったてー問題ないよー」
「それはお嬢様だけに当てはまることでしょ。えっちょっとほんとに帰るんですか、せめて、鞄をーーー」
「仲良くていいじゃねーか。二人ともまだ、外は明るいけど、帰り道には気をつけろよー」
委員長に手を振られるのを目の片隅で捉えながら、帰宅の途につくのであった。それと同時に持ち物がポケットに入っている財布と携帯に決定した瞬間でもあった。