4 散歩
「痛てて、お嬢様め、本気で掌底を打ちやがって内臓が破裂するかと思いましたよ」
と私は腹を擦りながら、起き上がった。
「つーか、お嬢様はなんで、」
「なんで、こんな深夜に制服を着ていたんだ?まあ、だいたい想像はつくが。」
場面変わって、10分後玄関前
「おおー来たねー。ちゃんと制服も着てて、関心関心。」
「お嬢様が制服を着ていましたからね。合わせないとまた、掌底を食らうかと思いまして。」
「まあー、そんなどうでもいい事は置いておいて、」
「人の内臓にダメージを与えて、どうでもいい事ですか、」
流石に私も肩を落として、不満げに言う。
「私のこの制服の初お披露目に関して何か言う事は何かないのー。」
と何かを期待するように私を見下ろしながら、お嬢様はくるっと一回転した。
「そうですね。」
その言葉を受け、私は改めてお嬢様のセーラー服姿を眺めた。実は、お嬢様は初お披露目とは言ったが、今から1ヶ月前から入学準備だと言ってあちこち連れ回された時に服自体は見せびらかされているのだ。(この時も店に強盗が入ってきて、お嬢様がそれを開始1分で叩きのめすという事もあったのだが、本当にお嬢様はトラブルメーカーだなと感じた一幕だった。)
「そうですね。セーラー服てのは、長髪の大人しい女の子にしか、似合わないと思っていましたが、お嬢様のようなショートカットで活発なハンサムな女の子にこそ似合うと思いなおしましたよ。お嬢様の胸元にあるリボンもチャーミングですし、
長めなスカートから伸びる足も健康的な魅力を醸し出して、セーラー服の白さと小麦色の肌とのコントラストが可愛いを演出しています。勝気そうなパッチリした目からは「ちょっと待って」
と私の正直な感想を言っているとお嬢様が手で顔を抑えながら、肩を掴んできた。指の間からは赤くなった肌が見えている。
「どうしてたんですかお嬢様のハンサムで可愛い描写を完璧には言語化出来ていないのですけど、」
と私はお嬢様の顔を見上げながら、話した。
「いやなんか、予想よりも、褒められたからさーそれ以上は恥ずかしくなってきた」
「いやいや、褒めているんじゃなくて、事実をありのまま話しただけで、」
「もういい、分かったそれ以上は軽く死ねる、復活するまでちょっと待ってー」
とお嬢様は顔を両手で抑えながら、蹲ったのであった。
「さて、気を取り直して、出発しますかー」
「一応聞きますけど、どこへ、何をしに行くんですか」
と聞いた。まあ、まだお嬢様の赤面している所は取れていないが、そこには触れないでとの雰囲気が伝わってきたので、スルーしておく。
「それは勿論、学校へ探検しに行くに決まっているでしょうー」
「決まってはいないですし、深夜の4時ですよ。朝食も作るために昨日も一緒に買い物もしたじゃないですか」
「私が良ければすべてよし」
「何処の名探偵ですか、あなたは」
溜息をつきながら、お嬢様の後ろをついていった。
「だって、せっかくの人生に1度しかない、中学校の入学式なんだよー。誰よりも早く入って目に焼き付けておきたいじゃない」
「そういって小学生の頃昼休みに突然校庭に入ってミステリーサークルを書いて、こっぴどくお父様に叱られたのを忘れたんですか」
「忘れたし、今度はあんな痕跡を残すようなへまはしないよー。それにこういう事はばれなきゃ問題にはならないのだよー」
「発想が犯罪者のセリフですよ。まったく」
「それにー」
前を歩いていたお嬢様は振り返りながら、こう言った。
「例え、怒られたって、セバスがいてくれたら、何があったって楽しいしねー」
と満面の笑みを浮かべていた。
「そのあだ名、私は正真正銘の日本人なので、出来ればやめて頂きたいのですが」
「セバスがお嬢様じゃなくて、本名で読んでくれたら、考えてあげるー」
と私とお嬢様はまだ、薄暗い道をどうでもいい話をしながら、歩いて行った。