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これにて終い

おいで。タイミングの指示をするために指を鳴らす。ぱちんと高らかに鳴った指の返事は自動人形の駆動音ではなく、しんと静まり返った沈黙だった。


「……カマリ?」


おかしい。どうして。カマリエラ・オートマトンは主人の命令に絶対忠実であり、指示を無視することはありえない。動けと言ったら動くはずだ。

それなのにどうして。ハルヴァートの表情が驚愕と困惑に彩られる。


「これかしら?」


割り込んできた声と、ハルヴァートの目の前に落ちた何か。がしゃんと音を立てて地面に落ちたそれは、壊れたカマリエラ・オートマトンの腕だった。

ハルヴァートがそれを視認すると同時、ハルヴァートの首元で銀が割れる音がした。ハルヴァートの首に巻かれていた銀色のチョーカーから銀色の破片がぱらぱらと落ちる。


「なん……?」


一体何が。問いかける前にハルヴァートの周囲に光の柵が構成される。柵は磁力に引っ張られるようにお互いに結合し、檻となってハルヴァートを捕らえる。拘束魔法だと気付く頃には捕獲が完了していた。


その様子をカンナは茂みの影からじっと見ていた。

あれは武具破壊と呼ばれる現象だ。文字通り武具を破壊する、ないしはさせる行為をそう言う。武具は魔法を起動させるためのもの。武具によって発動された魔法が正面から打ち破られた時、武具は破壊される。あるいは逆に、魔法を止めるにはその起動装置となっている武具を破壊すれば止まる。

この場合、カマリエラ・オートマトンを完膚なきまでに破壊し尽くしたので、カマリエラ・オートマトンを召喚し使役する武具が破壊された。再召喚はかなわない。


では誰が壊したかというと、彼女だ。世界の終焉のような黒い衣装をまとうリグラヴェーダを見上げる。

ものすごかった。というより何が起きたのかさっぱりわからなかった。カマリエラ・オートマトンが四方から飛びかかってきたと思ったら、次の瞬間、ばらばらに砕けていた。リグラヴェーダが、ぱん、と手をひと鳴らししただけでカマリエラ・オートマトンはすべて粉砕されていたのだ。


「はい、そこまで」


カマリエラ・オートマトンを一瞬で破壊し、ハルヴァートを魔法で拘束したリグラヴェーダがにこりと微笑む。子供の喧嘩を仲裁するかのように軽い口調で、極悪な重罪人を見つめるように冷ややかな視線で。


「くだらない妄想は終わりよ。反省なさいな」


どうしてこの場所がわかっただのどうやってカマリエラ・オートマトンを破壊しただのそういう質問に一切答える気はない。ぱちんと指をもう一度鳴らして転移魔法を発動させる。発動対象はハルヴァートだ。刹那、ハルヴァートの姿は彼を捕らえた檻ごと消えた。


「もう大丈夫。終わったわ」


これで諸々片付いた。一件落着ということになる。

ご苦労さま、とリグラヴェーダがカンナとレコを振り返った。いいところだけ取ってしまったが容赦してほしい。あれを止めるには一瞬で粉砕するしかなかったし、生徒を加害してはいけないというルールに抵触している違反者を現行犯で拘束する必要があったので。


「ありがとうございます、先生」


もう大丈夫。一件落着。レコはきちんとリグラヴェーダを呼んでくれたようだ。

ありがとうとレコにお礼を、それからリグラヴェーダにも厚く感謝を述べる。どういたしまして、と両者から微笑みが返ってきた。


「あの……ハル先輩は……?」

「監獄へ。しかるべき処分のためにね」


監獄とは言うが、平たく言えば生徒指導室のようなものだ。校則違反をした生徒はいったんそちらに転送させられる。転送先は校則違反の度合いに応じて変わる。

面談をして反省文一枚書けば終わるような校則違反は浅い層にある面談室で面談を。重大な校則違反は文字通り監獄のような物々しい深層にて収監される。

今回はことがことなので監獄の中でも一番深い層に転送した。あとは監獄の獄卒が規定に沿ってハルヴァートの処遇を決めるだろう。


「……処刑ですか?」


アルヴィナを殺した件がある。殺人者にくだされるのはだいたい死刑だ。

もしかしたらハルヴァートは死刑になってしまうのでは。その可能性を口にするカンナに、どうかしら、とリグラヴェーダが肩を竦めた。


「更生の余地がなければね」


反省し、悔い改めるならしばらくの禁固と労役になるだろう。しばらくは取り調べや更生の余地の有無をみるため拘禁される。どちらにせよ、二度とカンナの前に姿を現すことはないだろう。当然、高等魔法院からも除籍だ。本当に文字通り、これでこの騒動は幕を閉じたのだ。


「後は任せてもう帰りなさい。ね?」


残る後始末は教師であるリグラヴェーダの役目。詳しい経緯の聞き取りのために呼び出すことはあるかもしれないが、それ以外ではもうハルヴァートのことでカンナやレコの手間を取らせることはない。

終わった、エンディングだと胸を張って帰るといい。


「わかりました。……カンナ、行こ」

「う、うん……」


ばいばいと手を振るリグラヴェーダに一礼して、寮への道を行く。二人の背中をリグラヴェーダは微笑みで見送り、さて、と肩の骨を鳴らした。

これから報告書作りだ。事務仕事はまったく面倒臭いことこの上ない。事態の収拾と解決以上に後始末が一番手間がかかるのだ。損な役回りねぇ、と教師である自分を嘆く。はぁと溜息を吐いて俯いた顔を上げついで、頭上を見上げる。


「仇は取ったわよ、これでよかったかしら?」


ばさりと鳥が一羽、大空に飛び立った。


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