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魔女の最後の仕業

「ハル先輩を止めないと」


このままハルヴァートをのさばらせてはいけない。カンナが身を引けばいいという話でもないだろう、これは。

誰かが止めないと。でなければ妄想に駆られたハルヴァートがどんなことをするのか。もうカマリエラ・オートマトンを使って殺人まで犯したのだ。止めなければどんどん凶行は広がっていく。


「でもどうする? 名指しで言ったって信じてもらえねぇだろ」


ベルダーコーデックスは真実を読み取る本です。それを用いて真実を知りましたでは物的証拠がなさすぎる。揃っているのは状況証拠のみ。精霊に証言してもらってもだめだ。精霊が証言できるのは精霊郷への誘拐だけ。その他の殺意やアルヴィナの件については何も言えない。

そんな状況で告発したところで言いがかりと片付けられるだけだ。アルヴィナを失った悲しみでおかしくなってしまったんだとハルヴァートが言えば周囲はそれを信じるだろう。だってあまりにも突拍子がなさすぎる。


リグラヴェーダに話せばことは進むかもしれない。だが、それでは遅い。

きっとリグラヴェーダは真実にたどり着き、必要な証拠を揃えてくれるだろう。ハルヴァートの凶行が晒されるのも時間の問題。だからこそハルヴァートだってカンナの始末にかかるだろう。殺してしまえば後はどうとでもなると信じているからこそ躍起になって。

ハルヴァートがカンナを殺すか、リグラヴェーダが摘発するか。どちらが早いかだ。そのレースが決する間、カンナは危険に晒され続けるだろう。


「でもさ、話さないわけにはいかないでしょ」

「それはそうだけど……」


レコの言うとおり、黙っているわけにはいかない。ベルダーコーデックスが真実の書であることがわかればリグラヴェーダはカンナの言い分を信じるだろう。真実の書が間違いを言うはずがないので。

結局狙われているのは変わらない。なら。


「カンナさん! いますか?」

「ふぇっ!?」


とんとん、とドアがノックされた。この声は寮長だ。一体何の用事だろう。事情は知っているので今日はそっとしておくし、寮外の生徒の宿泊も特別に許すと言われていたのだが。

慌ててドアを開ける。黒髪のおさげの寮長がメモ用紙を手に立っていた。


「こちらを。手紙……というよりメモなのですけど……これを渡すようにと頼まれたので」

「ありがとうございます。あの、差出人は?」

「ハルヴァートさんですよ」

「っ、そうですか……ありがとうございます」


ぺこりと一礼してドアを閉める。部屋の中に戻り、折り畳まれた紙片を開く。そこには今すぐ来てくれという旨の文章と、場所を指定する地図が描かれていた。


とんでもない爆弾が来たなぁ、とベルダーコーデックスが呟いた。

手紙の内容など予想がついていたし予想通りだった。どこかに呼び出し、そこで事に及ぶつもりだ。魔女という第三者で偽装せず名前を出しているということは、カンナを殺すことができ、なおかつ言い訳が立てられるように工作してあるということ。

きっとこれが最後の決着となるだろう。


「アイツの自動人形は戦闘特化だろ、どうすんだ?」


おそらくカマリエラ・オートマトンを使って殺害に及んでくるだろう。で、どうする。

ベルダーコーデックスはこの通り戦闘には向かない。分厚い本のなりを利用して鈍器代わりに殴ることくらいしかできないだろう。真実の書は万能ではない。


レコもまた同様だ。彫金を学ぶ彼女の武具は熱を操る。だがそれは対象に触れていないと効果を発揮しない。戦闘という激しい動きを要求される中で触れ続けるのは難しいだろう。分裂し、動き回る近接戦闘のエキスパートの自動人形をさばくなんてレコにはできない。


「リグラヴェーダ先生を頼るしかないと思う」


教師を務めているのだ。戦闘くらいできるはず。

それに校則がある。高等魔法院の生徒に危害を加えてはならないというルールは生徒同士にも当然適用される。ハルヴァートがカンナに危害を加えようとすればそれは立派な校則違反だ。ルールに抵触したハルヴァートは拘束される。

そのルールを利用させてもらおう。拘束役はリグラヴェーダに任せる。


「つまり」


つまりはこういうことだ。誘いに乗ってカンナが一人で呼び出しに応じる。レコにはその間にリグラヴェーダを呼びに行ってもらう。カンナがやるべきはリグラヴェーダがやってくるまで逃げて時間を稼ぐこと。


「それなら初めからついていってもらえばいいだろ。どこかに隠れておくとかよ」


わざわざ並行して呼びに行ってもらわずとも。初めから合流していればいい。

そう指摘するベルダーコーデックスにふるりとカンナが首を振る。


「二人きりで話したいことがあるから、ごめん」


聞かれたくない話がある。内緒話ではなく。

自分の決意を喋る場面で観客がいるのは無粋。二人きりだからこそ言える本音もある。

連れて歩く都合でベルダーコーデックスには聞かれてしまうが、そこだけでも大きく妥協しているのだ。できればベルダーコーデックスにも聞かれたくない。


「わかった、気をつけてね」

「うん」


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