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さよなら私の恋心

この後どうしようか。そればかりがカンナの思考を占める。

レコは何も言わず寄り添うだけだ。気分転換を提案することもないし、とりとめもない迷いに答えることもない。一見突き放すような感じだが、むしろその放置が今はありがたい。必要と判断すれば声をかけてくるし、放置しているからといって無視もしていない。レコの意識は常にカンナに注がれている。


自分が飲みたくて淹れたからついでに、と紅茶のカップをカンナに渡し、隣に座ることもせず、レコはソファにどっかりと座って彫金術の本を読み始めた。


「いいのかよほっといて」

「いいのよ。そういう時間も必要でしょ」


親友をうたう割には構わなさすぎでは。指摘するベルダーコーデックスへ、紅茶を飲みながらレコが答える。

そもそもそういう役割ならベルダーコーデックスのほうが適任だろうに。後付で色々と能力がついたとはいえ、本来なら寂しい老人の話し相手として作られたのだ。


「やだね。オレはお悩み相談室じゃねぇんだ」

「素直じゃないなぁ」


つまりお悩み相談以外の、湿っぽい話じゃなければ話し相手になってやるということか。揚げ足を取れば、違うとベルダーコーデックスが表紙をばたつかせて抗議してきた。


そんなやり取りを遠くに聞きつつ、カンナはじっと紅茶の水面を見つめて思考に沈む。


本当は殺したいほど疎まれていた。それはそれでショックだが、そのことに落ち込むよりもこれからのことを考えよう。気分は後ろ向きだがせめて思考は前向きに。

疎まれていたので身を引いて距離を取り、もう関わらずにいればいい、というわけではない。判明がもっと早ければそれでよかっただろう。だが今の状況でそれはだめだ。アルヴィナの自殺が自殺ではなくハルヴァートが仕組んだことであれば、引き下がる以前の問題だ。アルヴィナを殺した責任を取らせなければ。


仇討ちというほど高尚でもない。ただ納得がいかないだけだ。この期に及んでまだハルヴァートを信じたい気持ちが足を引っ張る。納得して、諦めて、そうして初めて仇討ちだの何だのを考えられる。今のカンナはその判断をする前の段階にある。


真実に完膚なきまでに叩きのめされても、それでもまだ一筋だけでも否認できる余地があるのなら信じたい。そうでなかったと諦めて捨て去るにはこの恋心はあまりにも長く引きずりすぎた。未練がありすぎる。その未練がいつまでも足を引っ張って気持ちに区切りがつかない。

ずっと思考が堂々巡りでどうしようもない。気分転換をしようにも、ふとしたことでまた気持ちがそこに戻っていってしまう。

こういうのは時間が解決してくれるものだが、時間が経過していないので寛解できない。時間という薬がまだ効かなくて苦しみに悶えている。なんともどかしくて苦しいのだろう。


少しでも胸の中の鉛を飲み下したくて紅茶を一口飲む。紅茶と一緒に飲み込めてしまえばいいのに。

ふぅ、と息を吐く。ふわりと漂う紅茶の香りが落ち着く。確かこの紅茶葉には魔力を回復させるという効果もあったはずだ。促進するだけで即時回復とはいかないのだが、これを飲ませるとはレコもそれなりに焦れているのだろう。さっさと全部洗いざらいぶちまけて一切の反論の余地なく断定して真実を確定させてしまおうと。

友達がいつまでも落ち込んでいるのは気がかりだ。ならその悩みを取り除く手段を求める。困ったことに、悩む友人と悩みを取り除く手段を持つ人物が同一人物なのだが。


「ん。レコ。これ飲んだらやるね」

「え。いいの?」

「いいよ」


温かい紅茶で気分がほぐれた。ということにして進まなければ時間による寛解もうまくいかない。

レコが促すとおり、さっさと断定して確定させてしまおう。真実を覗き見る材料は多々ある。今なら少ない魔力でも見たい真実は見られるはず。


もう楽になりたいのはカンナも同じ。引きずりすぎて大きくなってしまった感情をやすやすと下ろせないのなら、やすやすと下ろせるようとどめを刺す。


さよなら私の恋心。


「解読開始」

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