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それでは解読を開始しよう

真実の書よ、その力を示せ。


詠唱に沿って魔力が風となって吹く。風に煽られてベルダーコーデックスの表紙が開いてページがめくれていく。

ぱらぱらとめくれていくページはやがて止まり、ひとつの項目を示す。開かれたページは淡い燐光に覆われていて視覚的には文字を捉えられない。だが頭の中に情報が流れ込んでくる。


***


ひとつめ。


排除しなければ。排除しなければ。どうやって。誰の手を借りて。

堂々と害すればルールを破る。犯人は俺であってはならない。誰かに押し付けなければ。

そうだ。精霊に任せよう。精霊がやったことにしよう。そうすればいい。精霊がやったんだから俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。

精霊郷に連れ去られればまず帰ってこられない。精霊が飽きるまで相手をさせられて、そのうち自我を失った化け物になる。俺は手を汚さなくていい。


そうだ。そうしよう。あの魔女を消し去ってしまえ!


***


ふたつめ。


あの魔女が死ぬようにしろ。意思なき自動人形にそう命令した。彼女はきちんとそれを実行した。

しかし手段がまずい。階段から突き落とすなんて。あんなずさんな方法では不幸な事故には見えない。誰かが故意にやった事件だと判断されてしまうだろう。

方法を細かく指定しなかったのは自分のミスだ。自動人形には計略がわからない。与えられた命令を最短距離でこなす。命令を受け、目標を見つけたのがそこだったから階段から突き落とした。自動人形にとってはただそれだけだ。

どう繕おうか。本人だって突き落とされたとはっきり自覚している。犯人探しをどう迷わせようか。


魔女をきちんと殺せるように、次はもっとうまくやらなければ……。


***


みっつめ。


空飛魚はオレンジを嫌う。においを感知すると暴れ始めて手がつけられなくなるという。

これの情報は使えないだろうか。空飛魚は一度暴れれば手がつけられないともある。柑橘の香りに反応して暴れる空飛魚に巻き込めば事故という形で処理できるかもしれない。

どうにかしてあの魔女に柑橘の香りを帯びさせれば。どうすれば……。


「アル、君って香水には詳しい?」


***


よっつめ。


嘘つきを食べさせよう。無毒な果実に見せかけた嘘つきの有害果実を食べさせてしまおう。

あのベリーの群生地には正直者(無毒)嘘つき(有毒)が半々。人も来ない。形の似た嘘つきを食べてしまって、誰かが見つけた頃にはもう手遅れ。そういう筋書きでいこう。

あの場所を教えた俺にも責任が飛んでくるかもしれないが、見分け方については恒例行事で指導される。注意しなかったゆえの不幸な事故はまれにある。

中毒を起こして昏倒する程度でもいい。それで恐れて近寄ってこなくなれば上々。最悪、死んでしまっても構わない。もう二度と追ってくることがなければ。


あの女の手を今振り切らないと、俺は一生このまま追いすがられてしまうだろう。


***


「…………は……ぁ……っ」


魔力切れ。同時に読めてしまった。真実はあまりにも残酷で衝撃的だった。

ありとあらゆる犯人がハルヴァートである、だなんて。入学からこのかた、自分の身に起きていたあれこれはすべてハルヴァートがそう仕向けたり仕組んだりしたもの。一歩間違えれば事故になっていた危険は偶然でも不注意でもなく、そうなるようになった必然。


冗談じゃない、どうして。

どうしてそんなことをと解き明かそうにも魔力切れだ。ベルダーコーデックスからこれ以上の真実は読み取れない。休息して魔力の回復を待たないと使用できない。


今読み取った光景が嘘であるということはありえない。ベルダーコーデックスは『真実の書』だ。そこには偽証も偽装もない。『そう』であるなら『そう』なのだ。

材料が足りない状態での解読は不十分な真実を誤読してしまうが、今回はそれもない。立てた推測と、推測に至るための材料は豊富なおかげで間違いなくあれが真実だ。


「……どうして……」


打ちのめされた気分だ。こんなことがあっていいのだろうか。優しさは犯人と断定されないための嘘だったなんて。本音では疎ましいと思われていただなんて。

この憧れが自己中心的な押し付けだっただなんて。本当は迷惑で、殺したくなるほど忌々しかったなんて。

振られたどころじゃない。何もかも否定された。それと同時、気付いていなかった自分の呑気さに愕然とする。


「アラ? ドウシタノ、ソンナ顔シテ!」


聞き覚えのある声がした。

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