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露見するは残酷な

カンナが階段から突き落とされたのも、精霊郷に誘拐されたのも。

すべてはハルヴァートの工作であり自作自演。


「……だ、だとしても、アルヴィナ先輩があんなことになるはずが……」


どういう理由かは知らないが、カンナが疎ましくて排除したいだけならアルヴィナがあんなことにならなくてもいいはずだ。自殺を選ぶ理由もないし、自殺に見せかけてハルヴァートが殺さなくてもいい。

殺す必要はまったくない。カンナたちにそうしたように架空の魔女の存在を吹き込んで追わせればいいし、自作自演の共犯者に引き込んだっていい。殺す必要はないのだ。唯一を除いては。


――邪魔になりさえしなければ。


「今オレらが驚いてるみたいに自作自演がバレたか、あるいは仲間割れか……どっちかだろ?」


それがすべての真実だろう。これで全部つながった。ハルヴァートはカンナを排除しようとして工作して、糾弾されたか仲間割れをしてアルヴィナを自殺に見せかけて殺した。


「きっと明日あたりにこう言うぜ。あの自殺は魔女がそう見せかけた工作だ、ってな」


そうすれば自分は恋人の復讐に燃える被害者の顔をできるし、カンナもそれを信じて魔女を追おうとするだろう。今まで通り。


「で、でも……まだそうと決まったわけじゃないし……」


それでも、とカンナは言い募る。その真実を信じたくない。

魔女はきっと実在している。ハルヴァートはカンナを排除しようとして工作して、糾弾されたか仲間割れをしてアルヴィナを自殺に見せかけて殺した、という結論にたどり着いて仲間割れを誘おうとする魔女の工作かもしれない。


だって、あんなに優しいハルヴァートがそんなことをするなんて信じられない。ありえない。だって小さい頃から知っている。ハルヴァートは村の子供たちの中でもずいぶん自立した少年で、その背中に憧れる子も多かった。女の子は誰もがハルヴァートを好きになったし、カンナもその一人だ。村の男の子たちはそのモテっぷりに張り合うことを諦めていっそ清々しく魅力的だと認めるほど。

女子からの人気と男子からの肯定で村の子供たちをまとめ、大人たちにも一目置かれて信頼された。


頭も回る賢さも面倒見の良さも。何をとっても完璧なハルヴァートがどうしてそんな。

提示された推理を真実だと信じられないし、ハルヴァートを信じたいカンナは言い募る。


ありえない。ハルヴァートが自分を排除したいだなんて理由が思いつかない。強いて言うなら、『慕われて鬱陶しい』くらいだろう。だがそれで階段から突き落としたりするだろうか。鬱陶しいならそう言えばいいし、言えなくたってそっと離れればいいじゃないか。


「…………テメェよぉ」


あまりにも馬鹿だと嘲笑しがいがない。そう言いたげにベルダーコーデックスが溜息を吐く。


()()()()()()()()()()()()()()


「あ…………!!」


あ、とカンナが息を呑む。ベルダーコーデックスの一言で気付いてしまった。

自分はもう、すでにハルヴァートに拒否された後じゃないか。自分が鈍くて気付かなかっただけで。


魔法院の頃。勉学に打ち込むハルヴァートに同郷ならもっと気にかけてとアピールを重ねた時。ハルヴァートになんと言われたか。突き放すような言動をされたではないか。

さらにはわざわざ魔法院から遠いヴァイス高等魔法院への進学。それによって距離を取ろうとしていたじゃないか。


それなのに追いかけたのは、誰だ?


「なら……じゃぁ……!!」


理由も原因も含めて全部。つながってしまったじゃないか。

同郷だから、好きだからと好意を押し付けてきて。拒否して距離を置いても追いかけてきて。鬱陶しくてたまらない。だから力ずくで排除するしかないと結論づけてしまったのなら。それを計画し、実行してしまったのなら。その末が諸々の事件なのだとしたら。


()()()()()()()()


「カンナ。……もう、読んではっきりさせよう」


ここまで情報が出揃っている。推測も推理も筋道立って構築できてしまった。

ならあとは、ベルダーコーデックスに真実を読み取らせて答え合わせをすればいい。

それでもうすべてが判明する。こうして疑惑を前に、信じられない、信じたいと理性と感情で言い争いをする必要もない。


そうでしょ、とレコが言う。

ひどいことを言っているのは自覚している。判明した真実によってはカンナの理想は大きく崩れ去り、失望に深く傷ついてしまうだろう。アルヴィナの死を深く悲しみ、そして浮かんだ疑惑によってその死の遠因が自分のせいかもしれないという恐怖に打ちのめされている今だというのに。

アルヴィナの死者蘇生という愚かな考えを完膚なきまでに打ち壊すために悪し様に言ったベルダーコーデックスに言い方を考えろと言っておいてなんてざまだ。今一番カンナを追い詰めているのは自分だ。


だが必要なことだ。このまま沈鬱な雰囲気を長く引き伸ばすわけにもいかない。とどめを刺そう。

もういっそ全部ぶちまけてしまってすっきりさせよう。


「……ベルダー」

「おう」


あのいけすかないやつの汚い面が見られるなら歓迎だ。にぃ、とベルダーコーデックスが笑う。

その清廉潔白ぶった表向きを剥がしてやる。笑うベルダーコーデックスに魔力を流し、覚悟を決めたカンナは静かに言い放つ。


「――解読開始」


真実の書よ、その力を示せ。


さぁて、どんな『真実』が待っていることやら。


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