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裏で動いていたんだよ

ともあれこのことをハルヴァートにも報告しないと。リグラヴェーダの温室を出て、カンナはレコと一緒にハルヴァートを探しに出た。

精霊祭の最中ではあるが、特に何か出かけるとも聞いていないのできっと校内にいるだろう。寮の自室か、自習室か。よくいる場所をひとつずつ当たっていく。


「あ、いた! ハル先輩!」


センターの休憩スペースでアルヴィナとささやかな祝杯代わりの菓子をつまんでいる。精霊祭の祝祭に合わせてのちょっとした贅沢だ。テーブルの傍らには精霊祭の象徴である感謝の花(アランカラス)が置かれていた。


祝祭とデートを兼ねてるぞとレコの冷ややかな視線をよそに、カンナが真っ直ぐテーブルへと駆け寄る。呼ばれたハルヴァートが顔を上げ、そして、カンナを見て目を見開いた。

驚愕の表情のハルヴァートへ、どうしたのよ、とアルヴィナが問う。何をそんなに驚いているのやら。


「あ……あぁ、ごめんね。精霊に何かされたと聞いていたから……」

「あれ? ハルヴァート先輩にもメッセージが?」


精霊郷に連れ去られればよほどでない限り脱出は不可能で、まず帰ってこれない。カンナが精霊郷に連れ去られたというメッセージを見て諦めていたところに本人登場で驚いているのだろうか。

ということはハルヴァートにも件のメッセージカードが届いていたのか。そこまで考えて、何かおかしいことに気付いた。


「メッセージを送ったのはアルヴィナ先輩じゃないんですか?」

「メッセージ? 何のこと?」


そもそも、今ハルヴァートが口走った『カンナが精霊に何かされたらしい』ということも知らない。どういうこと、とアルヴィナが首を傾げる。妙な話だ。


「カンナ、あなた精霊に何かされたの? だったら……」

「メッセージなら俺だよ。色々ややこしすぎたかな、ごめんね」


疑問を口にするアルヴィナを遮ってハルヴァートが白状する。そのメッセージカードは自分だ、と。


ハルヴァート曰く。ふと机を見てみたらそこにメッセージカードが届いていた。差出人は間違いなく魔女だ。

内容が内容なので、カマリエラ・オートマトンを使ってメッセージカードをレコの元に届けた。命令が雑だったせいで窓にメッセージカード入りの小袋をぶつけて呼ぶという手段で。


「きちんと届けさせればよかったんだけど、寮の入り口で寮長と取り合う時間がもったいなくてね」


ここの寮生に届け物があるのでカマリエラ・オートマトンを通してくれと伝言を届ける手間を惜しんで窓に投げ込むという手段を取った。

そうしてメッセージカードを届けてカンナの危機を伝え、後の事態をレコに預けたのだ、と。


「で、その後私がカンナを助けに……ってことね」


成程、時系列は了解した。なんともまぁややこしいことを。


「んで? 当のテメェは悠々とデートか?」

「ではないよ」


こちらはこちらで色々と探っていたのだ、とハルヴァートは弁解する。


人間を精霊郷に連れ去るなんて精霊でなければできない。武具の力をもってしても、どんな転移魔法を使っても人間の手では人間を精霊郷に飛ばせない。

だから、あの人間を精霊郷に連れ去ってしまえと精霊に頼む必要がある。精霊に頼み事をするなんて相当だ。気まぐれで傲慢で自由奔放な精霊に頼み事を達成させるだなんてよほどのこと。言うことを聞いてもらうためには相応の代償が必要だったはず。

代償として一番わかりやすいのは捧げものだろう。特に今は精霊祭だ。捧げものをすること自体は目立たない。だが量が目立つはずだ。


つまり、派手に祝って大量の捧げものをしているやつがいれば、そいつが魔女だ。


そう推理して、デートを装って見て回っていたのだ。結果は空振りだったが。


「アルには一連のことをまだ黙っておこうと思ってて……裏目に出たなぁ」


事態を知って周囲を注視するハルヴァートと、何も知らないでいるアルヴィナで周囲への違和感を比較するために。何も知らないからこそわかることがアルヴィナにあるかもしれないと思ってのこと。

こんなにややこしくなるなら最初からアルヴィナにも事態を伝えておくべきだった。


「そうでしたのね」


成程、とアルヴィナが頷く。自分で何でもやろうとして、かえって事態をややこしくするのはハルヴァートの悪い癖だ。知っているので咎めない。仕方のないひとだと苦笑いするだけだ。

何も言わないのは自分のことに他者を巻き込みたくないからだ。自分が池に遊びに行こうとさえ言わなければあの子は池に落ちて溺れて死ぬことはなかったとトラウマを抱える故に、大切な人ほど遠ざけようとする。

優しい人なのよとフォローをしてから、そう、とアルヴィナは改めて事態を咀嚼する。


メッセージカードのくだりは嘘だ。確信を持って言える。


届くわけがないのだ、それは。

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