表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/73

魔女の末路は如何にして

時々レコの補足を挟みつつ、カンナから事情を聞いたリグラヴェーダは、そう、と頷いた。


「もしそれが本当なら重大な違反よ」


高等魔法院の生徒に危害を加えてはいけない。それは世界のルールだ。自由奔放で傲慢かつ自己中心的な精霊ですらそのルールの前に膝を折る。それくらい重要な世界法則だ。

魔女の存在が本当なら、その魔女とやらは重要な違反を犯している。ただちに魔女とやらを突き止めなければ。


「本当ですか!?」

「ええ」


ただし、カンナが語るそれとは少し違うが。


魔女とやらが本当にいるとしよう。しかしそのルール違反は、ハルヴァートへの行為ではなくカンナへの被害に適用される。

正体不明の素性不明のストーカーが存在をアピールしてストレスを長年与えてきただなんてことは些細なことだ。ハルヴァートへのそれはルール違反に当たらない。該当するのは、カンナへ及ぼした諸々だ。怪談から突き落とした話が本当ならば、それは立派な加害でありルール違反だ。


「正体はわからないのね?」

「はい。それを私たちで探そうってことになっていて……」

「そうだったのね」


自分たちで解決しようと努力するのはいいことだ。だがこれは少し自分たちの手には余ると思わないのだろうか。

まったく。そんな大事が生徒の間で起きていただなんて。気づけないとは教師失格だ。自省しつつ、その反省時間は後回しにしてリグラヴェーダが話を続ける。


「このことは私が預かるわ。いい?」

「え、でも、ハル先輩に……」


リグラヴェーダに勝手に話を広げた挙げ句、勝手に話を預けてしまったとなると。

それはまずい気がする。勝手に話を進めてしまうのはよくない。精霊郷に連れ去られたことも含め、まずはいったんハルヴァートと話しておきたい。それからハルヴァートを交えて話すべきだ。

渦中の人物を置き去りにしてぽんぽんと話を進めてしまうのは気が進まない。そう主張するカンナへ、そう、とリグラヴェーダが頷いた。確かに大本がハルヴァートのことなのだから彼を交えるべきだ。


「なぁ。ひとついいか?」

「なぁに?」


黙って話を聞いていたベルダーコーデックスが問う。

もし魔女が見つかった場合、魔女はどうなるのか。これまで散々、高等魔法院の生徒に害をなしてはいけないというルールの話はされたが、それを破った者に対する罰なり刑なりの話はされていない。

仮に魔女を捕らえたとして、その後、その魔女はどういう扱いになるのだろう。


「そういう法律があるわけじゃねぇだろ? 聞いたこともねぇ」

「そうね」


明文化されて法律として制定されているわけではない。

そもそもそのルールは暗黙の了解だ。神々は"灰色の魔女"の死を望んでいる。高等魔法院を卒業するほどの手練ならばそれも叶う。ならば将来の芽を保護しよう、というのは世界共通の認識ではある。

しかしその認識を文章としてはっきり記しているのは高等魔法院の校則だけ。どこの土地もそのルールを法律として採用していない。高等魔法院の生徒に害をなしたところで裁判にかけられることはないのだ。将来の芽を摘む真似をするなと神々や精霊の不興は買うかもしれないが、そこまでだ。その不興を買った後のことが怖いのだが、まぁ法律としての話としては何も無い。


「校則違反っつーだけだろ。校則も法律ほどしっかりしたモンじゃねぇ」


そう。神々や精霊の不興を買うかもしれないということを除けば、公的にはたかが校則違反なのだ。そんな緩いものでどれほどの効力があるのか。ないだろう。スカートの丈が短いくらいで禁固刑にならないように。


「せいぜい反省文くらいじゃねぇのか?」

「……あぁ。主人の心配をしているのね?」

「ちげぇよ!」


カンナが階段から突き落とされて下手すれば死んでいたかもしれないのに、犯人は反省文一枚で軽い処罰で済むかもしれない。だから突っかかってくるのか。

そう推理したリグラヴェーダに、違うとベルダーコーデックスが牙を剥く。本に牙はないが、雰囲気として。


「そのルールにどの程度の拘束力と説得力があるってんだよ、っつぅ話だよ」

「処罰の根拠が軽い、と?」


成程。スカートの丈が短いくらいで裁判にかけるような真似ではないか、と。

まぁそれもそうだ。確かに。法律として制定、施行されているわけではないので。だが。


「簡単よ」


法ではない。だから裁判にはかけられることはない。神々や精霊の不興を買うかもしれないということを除けば。

それがこの話の筋で、それ故に法的拘束力がないとベルダーコーデックスは憤慨している。


「除けば、と言ったことが除けないからよ」


除けば。だが。それは除けないのだ。

神々や精霊の不興を買う。将来の芽を摘まれかねない行為に神々や精霊は怒るだろう。怒った結果がどうなるかは歴史が証明している。『末代まで祟られる』なんて可愛いものじゃない。末代どころか当人が生活する地域とそこに済む人間までも対象となる。連帯責任という言葉だってここまで拡大しないだろうというほど範囲は広い。

次第によっては、この世界に生きる人間全員が呪われてしまうかもしれない。それくらい神々の怒りというものは根深く、相手を選ばない。理不尽だ。


「"灰色の魔女"のようにね。……さて」


話が逸れた。不興を買った末に呪われるかもしれない。些細なことで世界全体が呪い殺されるなんてまっぴらごめんだ。

なので、争いの種になりそうなものは早急に刈り取らねばならない。法ではなく道徳として。使命として。理不尽に呪われることを避けるため。


「そういうわけで、魔女はどうなるかという話だけれど……」


質問の答えをようやく返そう。魔女がいたとして、それを捕らえた後、魔女の身柄はどうなるか。

捕らえた時の状況次第だが、幽閉して行いを反省してもらうか、浄罪の旅を課して悔い改めてもらうか、どうにもならなさそうなら処刑のどれかだ。神々や精霊から通達があればそれを反映させるが、神々や精霊が関わる大事でもないだろうからまずないだろう。


「はん、つまり落とし前はつけるってわけだ」

「そうね」


これ以上神々を絶望させ憤怒させ悲嘆させてはいけないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ