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自動人形機構解説

いいところを見せるから見に来いとの指示通り、ハルヴァートの試験の場に向かう。

そこには先客がいた。


「あら、どうも」

「アルヴィナ先輩」

「あなたもハルの試験を見に?」


アルヴィナの問いに、いえ偶然です、と返す。そう、とアルヴィナが頷いた。よく考えれば、わざわざカンナを呼ぶ理由がない。偶然と言うなら偶然だろう。

そこにはあまりこだわらず話を流して視線をハルヴァートへ向ける。どうやら第6の腕までは出したようだが、さて、どこまで能力をお披露目する気だろうか。


そう言うが、アルヴィナ自身カマリエラ・オートマトンの能力をあまり把握していない。肩甲骨にある第3と第4の腕、脇腹の第5と第6の腕の他には胸部の圧殺機構と膝の射出機構しか知らない。あの真っ白なドレスの胸部が左右に裂けて飛び出した肋骨が対象を捕らえ、抱き潰すさまは恐ろしい。翻るスカートの裾から射出された鋭く尖った棘は分厚い鉄板すら射抜く。


しかもカマリエラ・オートマトンはその動きをヒトのそれとは違う動きで繰り出す。自動人形であることを大いに活かし、ヒトではおよそできない動きと速度で放ってくる。与えられた命令を最短のルートで実行するのだ。


そして自我のない自動人形なので痛みも感じない。人間ならば多少痛めつければ動きは鈍るが、彼女は自動人形なので痛みで怯まない。負傷をものともしないで突っ込んでくる。

仮に足を叩き折っても、第5と第6の腕で体を支えて這い寄るのだ。動きは一切鈍らない。


そんな怪物ともいえる自動人形を正面から打ち倒すのは難しいだろう。武器を用いた戦いならなおさら。幸いなのはカマリエラ・オートマトンが剣や棍棒などの単純な武器しか使えないことだ。彼女自身が武具であるため、武具を使うことはない。


与えられた命令が完遂されるまで止まることはない。止める方法はただひとつ。術者であるハルヴァートが止まるよう指示することだ。


「つまりそれは術者を狙えばいいわけ……ですけども」

「カマリエラがそうはさせない、ってことですね」


ヒトならざる動きと速度で活動する自動人形は主人への攻撃に敏感だ。ハルヴァートに害が及ぶと判断すれば身をもって盾になる。それをかいくぐって攻撃することは難しいだろう。


「わざわざ解説ありがとう、アル」


観客ふたりのやり取りに口を挟む。後輩と恋人が顔を見合わせた。

試験の真っ最中でも観客に口を挟む余裕がある。カマリエラ・オートマトンは命令さえ与えればあとは見守るだけでいいからだ。スヴェン教官を打ち倒せ、ただし殺すな怪我をさせるなと命じるだけでその後は何もしなくていい。

操り人形のように細やかに操作する必要も、都度動きを指示する必要もない。最初に命令を伝えるだけですべてカマリエラ・オートマトンが実行してくれる。

ハルヴァートが気をつけるべきことは術者狙いの攻撃を回避することだ。不意打ちが来ないよう気を配り、身を守ることに集中する。必要であれば自身の身を守るようカマリエラ・オートマトンに命令すればいい。


難点があるといえば自我がなく、コミュニケーションの相手に向かないくらいだ。何を言っても答えることがない。

自我がないものでも話しかければいつかは自我に目覚めるというお決まりの展開は存在しない。ハルヴァート曰く、すでに試したが自我には目覚めなかったそうだ。


「よし、そこまで!」


観客の解説も一段落ついたところで。もう試験は十分だろう。欲しい情報は得られた。

よし、とスヴェンが手合わせの終了を言い渡す。途端、カマリエラ・オートマトンがヒトならざる動きの途中で不自然に止まった。ぎぎ、と球体関節が軋んで武器を下ろす。第3以降の腕が元通りに胴体に収納されていく。


「試験はここまでとする。結果は追って通達する。いいな?」

「はい。スヴェン教官。ありがとうございました」

「よろしい。では」


大斧を戻し、ついでに結界も解除する。まったくとんでもない自動人形だ。この自動人形が存分に動き回れるだけの動力を与えるハルヴァートの魔力量もなかなか。合格点を与えるにふさわしい。


「アルヴィナ、お前は明日だったな。用意はいいか?」

「はい。大丈夫です」

「そうか。期待している」


頑張るように、と告げ、スヴェンがその場を立ち去る。あとには3人と1体の自動人形だけが残された。


「アル。俺、不公平だと思うんだけど」

「……はいはい」


ハルヴァートが言いたいことを察し、アルヴィナが溜息を吐く。カマリエラ・オートマトンについて長々とカンナに解説を垂れたので、次はアルヴィナの武具について明かさなければ不公平だ、と。


隠し立てするものでもない。鴉の羽を使ったケープに埋もれた胸元から銀色の笛を出す。細く短いそれは鳥を操るための笛だ。


「"トレックフォーレル"と言いますの」


能力はこの通り。頭上を見上げ、空を飛ぶ雀に向かって笛を吹く。ぴぃ、と高い音がした。

すると不思議なことに、雀が群れから離れてアルヴィナの元へ飛んでいく。アルヴィナが手をかざせば、そこを止まり木にして降り立った。


「この通り、鳥を操る……それだけですわ」


武具で鳥を召喚するわけではない。ただ、そのあたりにいる鳥を一時的に飼い慣らして使役する。対象の体格によって消費する魔力量が違う。

説明できるのはそれくらいだ。隠しているというわけではなく、それがすべてなのだ。カマリエラ・オートマトンのように複雑な能力も持たない。鳥を操るだけだ。一応、武具のスペック上は鳥型であれば神の眷属さえも使役できるというが、残念ながらアルヴィナにそこまでの才能はなかった。


「なるほど……」


ということは、やっぱりあの花の差出人はアルヴィナなのだ。鳥を操る武具ならば、鳥をメッセンジャーに使って目的の人物へ花を届けることができる。そうやって今までメッセージを送ってきたのだ。確信をさらに強めた。


「明日の試験、大丈夫かい?」

「えぇ。おそらくは」


神の眷属を使役させるほどの才能は自分になかったが、できることはやろう。

例えばそう。空を覆うほどの無数の鳥を呼び寄せてみるとか。


試験はどの程度武具を扱えるかをみるためのものだ。スペックを限界まで引き出せていなくても不合格とはならない。

きっと大丈夫だろう。さて、明日に備えてやるべきことがある。


「パンくずを撒いておかないと。でないと呼べるものも呼べませんわ」

「地味な努力だなぁ」



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