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駆動する自動人形

しばらく魚料理が続きそうだ。影響されやすいなと笑うベルダーコーデックスを叩いて黙らせ、翌日。


空飛魚の実習とそのレポートの提出完了。ふぅ、と息を吐いて教室を出る。

空飛魚は入門用で初歩の初歩。次はもう少しステップアップするそうだ。名前だけは教えておくと告げられたのは雪鹿フルゴル。次の授業までに概要を予習しておかなければ。さて。


「……ん?」


風に乗って金属がぶつかり合う音が聞こえる。何だろう、と疑問に思い、カンナはその音の発生源を探りに向かった。

音は森の中から聞こえてくる。校舎の裏手に広がる鬱蒼とした森だ。そこから重い金属が叩きつけられる音と軽い金属がぶつかる音がする。


近づいていくほど音は鮮明になっていく。これはどうやら剣戟のようだ、と判別がつく頃には木々の隙間から音の正体が見え始めていた。やり取りも聞こえてくる。


「どうした、この程度では一本も取れないぞ!」


挑発的に煽るのは大斧を振るうスヴェン教官だ。重い金属音の正体は彼女の大斧のようだった。

対する軽い金属音の正体はというと、刃を手にするカマリエラ・オートマトンだ。ナイフというよりは大きく、剣というには小さいサイズの刃物を手に、二刀流でスヴェンの大斧に立ち向かっている。

そのカマリエラ・オートマトンの背後に立っているのはハルヴァート。カマリエラ・オートマトンに動きを指示することはなく、ただじっと成果がもたらされるのを見守っている。


森を拓いて作られた場には流れ弾防止の結界が貼られている。薄く透明な八角形の板を並べて組み立てたそれは流れ弾を防止するためのものだ。

これらの様子を見るに、スヴェンとハルヴァートの手合わせのようだ。一本取る、というスヴェンの言葉から察するに試験か何からしい。


「カマリ」


このままでは分が悪い。そう判断したハルヴァートがカマリエラ・オートマトンに告げる。大きく後ろに飛び退って距離を取ったカマリエラ・オートマトンは振り返ることなく主人の指示を聞く。


トゥリトス(第3)


是。カマリエラ・オートマトンが動く。一度離した距離を再度詰め、スヴェンに肉薄する。右手に持った刃を振り下ろす。空振り。一瞬の間も置かずに左手に持った刃を。ヒトならざる動きで振り抜く。

自動人形だからこそできる動きだ。だがスヴェンは驚きもせず、冷静にその刃をさばく。ヒトならざる動きで振り抜かれた左手の刃を大斧で受け止める。ぎぃん、と高い音がした。

大斧とサイズが違いすぎる。このままでは押し切られるだろう。というところでカマリエラ・オートマトンの肩甲骨が不意に盛り上がった。真っ白なエプロンドレスを引きちぎり、内部から爆ぜるように飛び出たそれは第3の腕だった。右の肩甲骨から生えた第3の腕はスヴェンを捕まえようと手を伸ばす。


「は、隠し玉か!」

「まぁそうですね。テルタトス(第4)


もう1本。左の肩甲骨から生えた第4の腕がスヴェンを捕まえる。第3の腕を躱そうとしたスヴェンの手首を掴んでその位置に押し止める。強引に振り切ろうとしたところにハルヴァートがペンプトス(第5)を告げた。

カマリエラ・オートマトンの右脇腹から腕が出現した。第5の腕にはすでに鉈が握られており、それをスヴェンへと真っ直ぐ突き出す。


この間、一瞬。


「……っ!!」


このままでは第5の腕が握る鉈がスヴェンに直撃する。


がん、と大きな音。金属がぶつかる音でもなく、鉈が肉を裂く音でもない。カマリエラ・オートマトンが腹を蹴り飛ばされた音だ。

両腕を掴まれても足は動く。斧が振るえないなら格闘術で。腹を蹴って吹き飛ばし、迫る凶刃を跳ね除けたのだ。


「この調子だと第6もありそうだな」

「えぇ、まぁ」


隠しても仕方がないので。エクトス、とハルヴァートが呟くとカマリエラ・オートマトンの左脇腹から第6の腕が出現した。ぎぎ、と球体関節が軋む音がする。


「第7は勘弁してくれよ」

「それはどうでしょうかね、教官」


言い放つハルヴァートが不敵に笑った。


さて、どの程度この自動人形の機能を晒そうか。一から十まですべて手の内を見せるわけにはいかない。

この手合わせは試験だ。勝てなくてもいいが、自身の武具を使いこなせることを示さなければならない。使いこなせているかが評価の分かれ目だ。だからといって合格点のために全部を出し尽くしてはこの先が思いやられる。手の内を隠しつつ、それでもスヴェン教官の眼鏡にかなう程度には実力を発揮しないといけない。その匙加減が難しい。


第6の腕(エクトス)までは出した。スティソス()ゴナト()までは要るだろうか。

ズィオ(2つ)トリア(3つ)は。合格点をもらうだけならばエカト(100)までは不要だとは思うが。


「困ったな、観客にいいところを見せないといけないし」


膝に土をつける無様は見せられない。そう言って、ハルヴァートはちらりと横目で結界の向こうにいる観客を見た。



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