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今は神祝ぎの時代につき

とっくに知っている常識のことだろうが、知識の再確認や復習として聞いてくれ。前置きを一度置いて、イノーニによる歴史の授業が幕を開けた。


「今、我々が居るのは神祝ぎの時代とされる」


原初の時代、不信の時代、再信の時代。3つの時代区分を経た現代を信仰の時代と呼んでいる。


まずは原初の時代。この時代、神と人間は互いに固い信頼で結ばれていた。人間は神を信仰し、神もまた恩寵という形で人間に信頼を返した。とても尊い時代だ。武具もこの時代に発明されたという。

ちょっとした家事でも武具を用いるほど魔法というものがありふれていた。魔力を込めれば発火する武具を調理の火起こしに使っていたのだ。今では信じられないほど神秘的で魔法的で、しかし原始的だった。


「其の神々と人間の相互信頼の時代は魔女により崩壊を迎える。――"大崩壊"だ」


"大崩壊"と呼ばれる災厄が世界を覆った。"灰色の魔女"による凶災は世界をことごとく潰した。大陸を半分消し飛ばすほどの大厄災によって神々は殺され、魔法の時代は終わった。

殺害に耐え、かろうじて生き残った神々は世界を放棄して立ち去った。そこからは神々のいない時代、不信の時代と呼ばれる。


不信の時代は神々と人間の関係が断絶された時代だ。人間は神や魔法に頼らず世界を建て直す必要があった。

当時は"大崩壊"の仕組みなど解明されていなかったので、神がその厄災を起こしたのだと信じられていた。そのせいで魔法は唾棄の扱いを受け、武具も失われた。武具は変わり者がコレクションするアンティークとされた。

魔力は神々による祝福。ならば神無き世界に魔の力はなし。人間もまた、魔力を持たぬ者がほとんどとなった。時々先祖返りのように魔力持ちが生まれることはあったようだが。


「そうして人間の世界は行き詰まる。――次が再信の時代よ」


人間の手だけでの発展は限界があった。そこで神の時代に回帰しようという流れが起きた。それが再信の時代だ。

この世界を立ち去った神々にもう一度戻ってきてもらう。そのために捨てた信仰を取り戻す。

しかしそれでは都合が良すぎる。一度は捨てたのに困ったら縋るだなんて。そう返答した神々により、人間は改めて神の審判を受けることになった。

再信審判と呼ばれるそれは自身が神への信仰を証明する試練だったという。そうして神の審判によって赦された者が神の祝福を受ける。


人間が神々に再び信じてもらうための審判を受ける時代。それが再信の時代と呼ばれる時代区分だ。


「其の時、"大恩赦"が起きたとされる。其れよりは今、信仰の時代よ」


人間の信仰は窮した時に頼る上辺だけのものではなく、原初の時代同様に真のものである。そう判断した神々はこの世界に舞い戻ることを決めた。

その証明が"大恩赦"と呼ばれる出来事だ。不信の時代を経てもなお治らなかった"大崩壊"の傷跡を癒やすように、壊れた大地は復活した。不信の時代にあったものはすべて破棄され、改めて、神々に赦された者だけが世界を満たした。


そうして今、再び舞い戻った神々を信仰し敬う時代だ。

原初の時代同様に、神々の祝福を受けることができる最も尊い時代だ。人間は神々を信仰し、神もまた恩寵という形で人間に信頼を返す。


「だが、同時に最も忌むべき時代でも在る」


"灰色の魔女"のせいだ。"大崩壊"の原因であるその存在はまだのうのうと生きている。

魔女が起こした"大崩壊"により、原初の時代に数多いた神の大半が死んだ。かろうじて生き残った神々にとっては同胞を殺し、自身を殺害せんとしていた憎い存在だ。


それがなぜ、まだ生きているのだ。どうして生きたままでいるのだ。殺さないのは人間の怠慢だ。

そう神々は人間を責めている。魔女の存在ある限り、人間を赦しきることはできない。

人間にとっては神を信仰する尊い時代だが、神々にとっては憎い魔女がのうのうと生きている忌々しい時代であるのだ。


「よって我々は魔女を殺さねば為らない。難儀な事よ」


世界最強の魔法使いでもあるあの魔女を殺せという。そのために高等魔法院という魔女殺害の技術訓練場すら作って。

そうまでしなければならない。魔女の殺害は人間の義務だ。


「……あぁ、そう云うがしかし、魔女殺しが必須と云う訳では無い」


そこは勘違いしないように。魔女は殺すべきものだが、それだけが人間の義務ではない。

人間の義務は神々を信仰すること。そのためには神の恩寵である魔法の習熟もまた含まれる。むしろこちらがメインだ。そのために魔法院があり、高等魔法院がある。魔女とはいえ、人を殺すための技術を磨く場所だなんて認識されては困る。


「原初より人間は…………む、時間か」


イノーニが語ろうとしたところで、終業のチャイムが鳴る。どうやら今日はここまでのようだ。

話の続きはまた次回の授業にするとしよう。では解散、と夜のように深い漆黒のケープを翻して壇上を降りていく。


「ね、次何の授業だっけ?」

「神秘学だっけな、行こ!」


授業と授業の合間の時間は長めにあるとはいえ、早めに移動するに越したことはない。

まばらに出ていく生徒たちの流れに乗って、カンナとレコも教室をあとにした。


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