ダンジョン
「よう、ウール。これ食うか?」
ダンジョン攻略の休憩中、パーティーメンバーの信楽がウールに肉を投げる。
それに向かって跳んだウールは見事に空中で咥えて美味そうに平らげた。
「気に入ったみたいよ」
「このまま信楽に鞍替えするんじゃない?」
「ありえないな」
宇津宮と時雨にそう返してウールに手を伸ばす。
それに気付くと向こうから頭を撫でてくれと擦りつけてくる。
要望に応えてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「おしゃべりはそこまでだ。休憩は終わりにしよう」
リーダーの箕輪が手を叩き、俺たちは腰を上げる。
ダンジョン攻略再開だ。
「魔物の気配はどうだ? 梶木」
「今のところはなさそうだ。ウールも反応してないし」
「そうか。そろそろ奴の住処だ。気を抜くなよ」
「りょーかい。リーダー」
箕輪にそう返事をして、ウールと共に先頭を歩く。
通路を抜けた先に広がるのは、第十一階層である荒れ地だ。
天井の色なのか、空がくすんで見えている。
地面は荒れ果てていて、葉のついていない木々と背の低い植物が点在するのみ。
石と土ばかりのここにはガーゴイルの住処がある。
「ガーゴイルの岩の肌に牙や爪が通るの? ウールって」
「もちろん。うちのウールを舐めるなよ、宇津宮。なんなら鉄でも食い千切れるぞ」
「ワン!」
「いったい何の魔物なのかしら? 不思議」
「まぁ、これだけ強いんだから名の知れた魔物の幼体だよ、きっと。そのうちわかるって」
「時雨の言う通りかもね。ウールー」
名前を呼び、宇津宮が歩きながらウールを撫でる。
「そろそろだ。気を引き締めておけ」
箕輪がそう告げた、次の瞬間地面が震動する。
亀裂が走り、盛り上がり、地中から這い出てくるのは、標的のガーゴイル。
石の肌に石の翼を持ち、凶悪な牙を生やす悪魔のような動く石像。
尻尾を振るい、大口を開け、全方位に向けて咆哮を放つ。
それに耳を塞いでいると、信楽が単身で討って出た。
「俺の出番だ! ウールには待てって言っとけよ!」
「あぁ」
出たがりの信楽に続き、ほかもガーゴイルへと向かう。
スキルで地面から鉱物を引き寄せ、無骨な大槌を作った信楽が跳ぶ。
大振りな一撃を空飛ぶガーゴイルへと見舞い、叩き付けるように撃墜した。
「よくやった。宇津宮、時雨」
「はーい」
「僕の出番だ」
時雨のスキルで水が沸き上がり、宇津宮のスキルがそれを凍らせる。
氷の牢獄に捕らわれたガーゴイルは身動きが取れず、箕輪に攻撃を許す。
「まずは一体」
雷を帯びた剣が氷ごとガーゴイルの硬い首を断つ。
血飛沫が上がり、それもやがて凍て付いて赤い氷と化す。
その頃にはガーゴイルも事切れていた。
「お見事。俺たちの出番はなかったな」
「まぁな。だが、まだまだ狩らなくちゃならないし、また出番があるだろ」
そう信楽が告げた直後、再び地面が震動する。
現れる亀裂は幾つもに渡り、這い出てきたガーゴイルは複数体。
少なくとも二桁はいて、それらに取り囲まれてしまう。
「……ウールの出番だぞ」
「みたいだな」
四面楚歌の状況化でも、俺に不安はなかった。
ガーゴイル如きにウールが負けるはずない。
「行け! ウール!」
「ワウッ!」
勢いよく地面を蹴って跳ね、弾かれたようにガーゴイルへと飛び掛かる。
その牙は正確に喉笛を食い千切り、あっという間に一体を仕留めた。
それだけでは終わらない。
沈むガーゴイルの死体を蹴って次の標的に牙を向く。
石の翼を噛み千切り、岩の肌を斬り裂き、尻尾を切断し、顔を潰す。
次々にガーゴイルは地に落ち、その命を散らしていく。
そうして瞬く間に戦況は覆り、ガーゴイルはすべてウールによって仕留められた。
「流石だ! よくやったぞ、ウール!」
「ワン!」
駆け寄ってきたウールを抱き留め、その毛並みを豪快に撫でる。
今日もまたウールのお陰で目標を達成できた。
「本当に強いなウールは」
「だろ?」
「あぁ。強いのはウールだけだ」
そう聞いた直後、背中から異物が入ってくる。
最初にしたのは不快感、次に自分の何かが流れ出ていく感覚。
腹が熱くなり、ビリビリと痺れ始めて、ようやく理解する。
「邪魔なお前にはパーティーを抜けてもらう」
「み……のわ、てめぇ」
箕輪に刺された。
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