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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと決別の刻
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82.近づく崩壊の音

サンチェスシリーズ久しぶりに投稿を開始します。

予定では毎週土曜日の午後七時に定期更新していきたいと考えています。ですが、場合によっては登校時間などが変わる可能性がありますので、ご了承ください。その場合はあとがきにでも書きます。


さて、突然ですがサンチェスシリーズは本章で完結致します。

本当に突然の完結になってしまって申し訳ないのですが、本章の内容まで書いて完結、という流れは以前から決めていたことでしたので、心惜しくも完結とさせていただきます。


最終章「サンチェスと決別の刻」開幕です



 ◆◆◆



「こんにちは、サンチェスさん」


 そう言って、サンチェスの隠れ家に訪問客が入ってくる。

 本来ならば一般的な家屋に偽装されたこの隠れ家にサンチェスが住んでいる、と認識したうえで訪問してくる客などいるはずがない。しかし、今この瞬間にその前提は覆された。


 サンチェスは、玄関の扉が自らの与り知らぬところで勝手に開けられた音を聞き、警戒態勢を引き上げた。本来ならば三駒と共にとる優雅なブレイクファストだったというのに、今ここは一挙手一投足さえも迂闊に取れない緊張空間の真っただ中だ。

 訪問者が誰なのか、サンチェスや三駒はまだ知らない。彼らが聞いたのは玄関の扉の開閉音だけであり、それだけで誰が訪問してきたのかを認識するような超能力は彼らになかった。


 コツリ、コツリと足音が近づいてくる。


 サンチェスは窓のついていない扉を一度閉じ、銃撃を避けた。 

 その扉が開けられた瞬間が戦いの火蓋の切られるときである。




「先ず、銃撃はない。そして、()()()()()()()()()()()()


 扉の先から、サンチェスに語り掛ける声が聞こえる。

 その言葉に連なるようにして、扉が数度コンコンと叩かれた。明確な訪問の合図。そして、そこで初めて訪問者の声を聞いて、サンチェスは相手が誰かを覚った。


「アポイントメントをとっていただければ歓迎できましたのに」

 サンチェスはそう言いつつ、突然の訪問者を迎えた。

 

 訪問者―――フィリアルが入ってくる。

 

「怪盗を相手にアポイントメントを求めるというのはおかしいのではなくて?」

「それもそうだ」


 お茶を準備し始めるサンチェスと当たり前のように椅子に腰かけるフィリアル。

 三駒はその様子を見て自分がおかしいのだろうか、と思った。


 三駒はそこまで口を出すわけではない。

 最近でこそサンチェスに時折言葉を掛けることが増えてきたが、サンチェスだけが知り合っているレオパルドなどを相手にして何か言葉をかけるようなことはない。自分が口を出しても結果としてうまくいかないのだろう、と諦めているからだ。

 フィリアル相手であっても、三駒はあまり声を出さない。フィリアルは以前、サンチェスを相手に惜敗さえ得られなかった。しかし、三駒は短い怪盗人生から彼女が圧倒的な実力者であることを見抜いている。サンチェスだからこそ対等に会話することが出来るが、自分では釣り合わない、と考えているのだ。



「ところで、今日はどのようなご用件で?」


「―――先ず、その口調から直しましょうか」


「と言いますと?」


「正直、警戒心丸出しで敬語で話されるとすごく怖い」


「成程、では止めよう」


「その方が良いわ」


 目の前に出された紅茶をカップの中で渦巻かせながら、フィリアルはサンチェスと会話する。

 サンチェスも、自分や三駒の紅茶をそれぞれカップに注ぎながら、フィリアルとの会話を紡ぐ。表面上だけではない。意外とお互いに馬が合うのか、それぞれあまり力むことなく会話が弾んでいるようだ。しかし、だからこそ三駒はあまり会話に入ろうと思えない。




「さて、用件だけど……アレキサンドラ脱獄は知っているでしょう?」


「…………」


 サンチェスと三駒の口が強引に閉ざされた。

 閑古鳥さえ泣かないほどの静寂。数日前、レオパルドから言われたことである。知らないわけがない。そして、サンチェスにしろ三駒にしろ、その話題は最近の注目を一身に受けていた。

 それほどに重要性が高い話題である。



「それについてよ」


「というと、奴の動向でも掴んだのかな?」


「実際、その通り。アレキサンドラは、また何かを企んでる」


 「また」と述べたフィリアルは、以前の事件についてあまり知らない。

 しかし、怪盗としてのフィリアルを一時的にでも復活させた事件のことである。詳しくは知らなくとも、記憶にははっきり残っていた。


「―――やはり、か」


「心当たりでも? まあ、愚問でしょうけど」


 フィリアルはアレキサンドラがその位を全く失い、その体制が崩壊した事件について、ある程度は知っている。そして、その事件にサンチェスが大きく関わったということも理解している。

 しかし、彼女は改めて尋ねた。サンチェスが、その人物なのか、と。


「まあ、ないと言えば嘘になるね」


「「いや、バリバリあるでしょう」」


 突然、声が重なった。

 フィリアルの声と三駒の声である。彼らはお互い、顔を見合わせ、あ、と口を小さく開く。

 三駒は突然声を出してしまったことに対してか、少し気まずそうに視線をずらした。


「貴方の新人さん、いいツッコミしてるわね」


「うぅん……ツッコミというのは日本にありがちな文化だから、そこは通ずるのかな?」

「というか、特に関西ね」

「あまり、地域区分には詳しくないけど」


「そう言えば、僕は一時期関西地域で暮らしてましたよ」

「私も! やっぱり通じるところあるのね」


 あまり会話にはいれていなかった三駒だが、偶然にも一時期関西地域に住んでいたという珍しい共通点を見つけ、フィリアルとの精神的距離が少し縮まる。

 いや、本当に一時期関西地域に住んでいて怪盗業の経験があり、現在はスペインに住んでいる日本人、というのもおかしな共通点なものだ。それこそ、この二人くらいのものだろう。

 

 突然関西地域の話になって、逆にサンチェスが会話に入れなくなる。

 もともとはアレキサンドラに関わる比較的シリアスな話だったはずなのに……とサンチェスは頭を傾げる。どこからどうなったら関西地域の話になるのだろう。



「ふぅ、満足した……。では、本題に戻りましょう」


「長かったね、軽く十分くらい?」


「まあ、ここで同郷の人間なんて殆どいないもの」

「そりゃ、ここスペインだからね」


 一通り場が和み、フィリアルが関西地域話に満足して丁度紅茶を飲みほした頃、やっと会話が元の本筋に戻って行った。



「アレキサンドラのことだけど……、―――」


 フィリアルの話は、踊らなかった。



  ◇



 国家警察でも同様に、アレキサンドラの脱獄の話題で持ちきりだった。

 アレキサンドラも既に歳である。今更脱獄などは出来ないだろう、そしてするわけもないだろう、という判断が下されていた。そもそも、脱獄などを前提に考える警察などいないのだ。

 

 しかし、アレキサンドラの脱獄が事実起こってしまったのだから、国家警察としても対応に追われるのは当然であった。



「情報統制を敷け!! 国民に必要以上の恐怖感を与えるな!!」


「アレキサンドラの足取りを追うぞ!!」


「資料はどこだァ!! アレキサンドラの脱獄当日の監視カメラ映像を全部集めてこい!!」


 特に、アレキサンドラの犯した罪の大半を占めていた犯罪の担当である国家警察知能犯担当部署の刑事たちは大忙しだった。

 その中にはセフェリノ警部なども含まれる。

 

 当時はレオパルドやサンチェスと裏で同盟のようなものを組み、協力することによってアレキサンドラを逮捕することに成功したセフェリノ警部だったが、実際脱獄するなどとは想像もしていなかった。

 アレキサンドラ脱獄の報せを聞いてから、セフェリノ警部は落ち着いていられない日々が続いていた。アレキサンドラを逮捕することが出来たのは結果だ。しかし、それまでに自分たちの自宅が特定され、実際に爆破された、という過程も存在する。

 アレキサンドラは、自分の目的の為ならば全くもって無慈悲な行動をとることが出来る、ということはセフェリノ警部ら当事者が最も理解することが出来ていた。



 いつ、アレキサンドラ―――改してヴェンガンザの復讐劇が始まるのか、と当事者たちは怯える毎日だ。しかし、それだけではない。

 国家警察のセフェリノ警部、アレキサンドラ逮捕に貢献した探偵のレオパルドと怪盗のサンチェス。彼らは、怯えるだけで済ませるわけもない。今も、アレキサンドラの動向を探りつつ、もう一度牢獄に入れなおす方法を探していた。


 

 ここに、復讐劇が幕を開ける。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


知り合いなどに勧めていただけると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。


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次回投稿

「聞こえ来るは謀略の音」

2月3日午後7時投稿予定です。

ご期待ください。

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