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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと全面戦争
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81.衝突後・捌

衝突後・捌



 意図的に持たないようにしていた、無線機から声が聞こえる。

 それは、エドワード警視を悪夢に(いざな)う魔の使徒だった。



『―――警官の皆さん、聞こえていますでしょうか』


 サンチェスの声だった。

 先ほどまで、エクトル警部に変装していたであろう、サンチェスの声だ。


『今回の全面戦争、これにて終戦となります。お疲れ様でした』


 自分が始めたことだろうが、とエドワード警視は悪態をつきたくなる。

 しかし、周りに誰もいないとしても、それは控えた。


『ところで。()()()()()()()()()()()()()()()()()、皆さんご存じですか?』


 エドワード警視の方がびくりと震える。

 サンチェスの言葉が、それ以降を語るのをエドワード警視の脳が拒否する。

 しかし、サンチェスの言葉は続いた。


『今回の国家警察の最大の目標は私たちを逮捕することではありません。本当の目標は―――』




『過去の隠蔽の続きです』




 その言葉が、サンチェスの口から紡がれた時、エドワード警視は膝から崩れ落ちた。

 これまで、自分の正義感を押し殺してどうにか耐えてきた極秘任務だったが、それもここまでだ。総てがバレてしまったのだから。


『過去、国家警察が逮捕した強盗犯がいました』


 まるで、昔話を語る老爺のような優しい口調で、サンチェスは説明を始める。

 それは、エドワード警視に対する死刑宣告のようでもあった。


『その強盗はそれまでに様々な宝石店を襲い、高額な宝石を多く所有していました』


『逮捕された強盗は、交渉を持ち掛けたのです』


『最も高額な宝石を国家警察に譲る代わりに、自分の刑を無くしてほしい、と。そして、それは叶った』


 滔々と、国家警察の過去の罪が暴かれていく。

 これは、国家警察の唯一かつ、最大の汚点であった。

 収賄によって糾弾された国家警察の上層部は居た。しかし、この時まで犯罪者からの賄賂を受け取ったことはなかった。

 しかも、国家警察の上層部は全員が、その事を黙認した。


 と言っても、全員が全員、心からその事実に納得したわけではなかったようで、一部の上層部は隠蔽された事実を資料として残したのだ。

 サンチェスはその資料をもとに情報を手に入れたのである。


『今回の国家警察の目的は、その時に国家警察に譲られた宝石を私に奪取されず、その事実を隠し通すこと―――エドワード警視、間違いはありませんか?』


 エドワード警視の周りに、警官はいない。

 しかし、エドワード警視の表情は重かった。

 今のサンチェスの言葉で、隠蔽工作にエドワード警視が関わっていたことが明らかになった。総て、国家警察の上層部の責任ではある。それでも、責任追及は免れないだろう。


『私たちは、正義ではない。それでも、正義を主張する』


 それが、サンチェスの最後の言葉だった。

 その言葉を最後に、無線機からの声は聞こえなくなった。

 エドワード警視は、膝をついたまま、そこで動かなかった。




  ◇




 エドワード警視に対する囮として役目を果たした三駒と合流して、サンチェスはオルムンド城の隠し通路を使いながらオルムンド城外へと脱出した。

 やはり、国家警察の過去を暴露したことによってエクトル警部やプロフォンド警部補、そして何より、エドワード警視の戦意を奪うことが出来たのが大きかった。


 警官たちも、サンチェスが言ったことが本当なのか、とエクトル警部などに詰め寄り、結果としてサンチェスの包囲網として成立していたのは数少ない警官たちだけだった。


 国家警察を構成しているのは何も感情を持たないロボットたちではない。人間である以上、好奇心に勝てない時はある。

 正義感よりも任務を優先してしまうことだってあるだろう。

 人間の弱さを利用して、サンチェスは全面戦争を制したのである。




「―――と、ナレーションをつけてみたのだけれど。どうかな?」


 闇夜の中、月夜に照らされて、男が姿を現した。


 サンチェスがすぐに警戒態勢に入る。


「これは驚いた。レオパルド、今回はお休みなのかと思ったよ」

 本来ならば、ここに居ないはずの人物。

 サンチェスとの関係性の深さからサンチェスの思考を読むことにはだれよりも長けている、サンチェスの幼馴染であり、大きな壁―――レオパルド・アルバ・モンテスがそこにいた。

 

「いやぁ、流石にオルムンド城のような場所を舞台とするなら、一般人は入り込めないんだよ。まあ、その代わりに、とこうやって君を待っていたわけだけど」


 レオパルドはなんてことのないように言う。しかし、本来ならば、そんなことは不可能なはずだった。オルムンド城から帰還するサンチェスが、どこに来るのかについては、全く予想できるはずもない。海岸線に沿って、どこに帰ってくるのかは分からないのだ。

 それこそ、海岸を全体的に包囲するようにして警官隊を配備するなどしなければ無理だ。しかし、情報統制の為にもそれは出来ない。ここは住宅地からも近い所だからだ。

 そして、実際にレオパルド以外の警官は見当たらなかった。




「と言っても、今日は君を捕まえるために来たわけじゃない」

 ふと、レオパルドの声が冷たくなる。

 逮捕しようとしているだろうと予想された時の方が、もう少し柔らかい声だった。

 サンチェスの表情も硬くなる。



「アレキサンドラが、脱獄したと報せが入った」



 レオパルドの口から紡がれたは仇敵の名前。

 全ての元凶であり、サンチェスに関連する悪の根源。

 

 アレキサンドラ・アルバレス・バジェステロス。



「だから何だ、という話ではある。だが、何があるかは分からない。十分に気を付けてくれ」


「犯罪者相手に心配の言葉をかけていいのか?」


「君は犯罪者である前に僕の幼馴染であり、親友だよ」


 サンチェスの揶揄いに、レオパルドははっきりと断言を返す。

 サンチェスが声を詰まらせた。まさか、ここでそんな言葉が返ってくるとは、サンチェスも予想できていなかったのだ。


「何にせよ、だ。気を付けた方が良い。アレキサンドラは、何をするか分からない。今までのどんな相手よりも、気を付けるべき要注意人物だ」


 レオパルドの表情が、更に厳しいものとなる。

 彼は、これを伝えるためだけにサンチェスを待ち伏せしていたのだろう。

 

 三駒は、レオパルドが何者なのか、あまり知らない。それでも、今この場でとても重要な話がなされていることは理解できた。

 

 アレキサンドラが脱獄し、サンチェスを狙うとなったとしても、会社も取り潰され、総ての配下を失ったアレキサンドラに何かできるのだろうか、とは思う。

 しかし、アレキサンドラは以前にサンチェスやレオパルド、セフェリノ警部の家を爆破した人物でもある。注意するに越したことはないだろう。

 

 アレキサンドラは、自分の目的の為ならば手段を択ばない、冷酷かつ狡猾な犯罪者だ。

 その事は、レオパルドもサンチェスも、理解していた。



「成程……ご忠告ありがとう。気を付けるとするよ」

 サンチェスは、そう言いながらレオパルドに背を向ける。

 

「じゃあ、また会おう」

「犯罪者でよければいつでも」

「できれば、次は親友として」




 全面戦争は、ここで幕を閉じた。

 

 激動の、復讐劇が始まる。



「サンチェスと全面戦争」完結となります。


 ここまでで一旦サンチェスの投稿はお休みして、「殺すしか能がない最凶禁呪を手にした令嬢」の方を投稿いたします。

 サンチェスシリーズは投稿が無くなりますが、少しすればまた戻ってきますので、ぜひ両作とも、読んでいただければと思います。

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