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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスの逃亡劇
8/104

7.サンチェスの脱獄

かなり間が空いてしまって申し訳ありません。

第二章の第一話です。

サンチェスの脱獄


「はぁ、」

これで今日七回目だ。エクトル警部はレオパルドのため息を見て思った。今日はエクトル警部が非番だったため、レオパルドとともに食事をするためレストランに来ていた。しかし、レオパルドは元気がなかった。やはりサンチェスが逮捕されたというのが一番の原因だろう。しかも、サンチェス逮捕に最も貢献したのは自分なのだから、少なからず責を感じていてもおかしくはない。そもそも、エクトル警部のように誰かを逮捕するということに慣れている一般人などそういない。レオパルドだって少しは慣れていたかもしれないが、身近な人を逮捕するとなると容易なことではないのだろう。そのようなこともあって、レオパルドの信頼が消えうせるということはなかった。国民から見ても、国家警察から見ても、そしてエクトル警部から見てもレオパルドはサンチェス逮捕の一番の功労者だ。だからこそ、エクトル警部はレオパルドのため息を見てレオパルドの体調などを心配することはあっても、やはりサンチェスに情けをかけるつもりだったのでは、と疑うことなどなかった。そもそもサンチェスはもう捕まったのだ。これから活動をすることは出来ない。

「エクトル警部はおられますか!?」

と思っていた。エクトル警部は前にもあったなこんな状況、と思いながら自分だと宣言する。すると、エクトル警部を呼んだのであろう警官がエクトル警部のもとに走ってきた。

「サンチェスの件で少しお話が…。」

警官はそういうと内密の話だからと言ってエクトル警部とレオパルドをレストランの外に連れて行った。エクトル警部はサンチェスを逮捕した後の一週間くらいでしか聞かなかったサンチェスの話題がまた出たことに疑問を抱き、急いでレストランの外に出て行ったから気づかなかったが、レオパルドはエクトル警部についてきていなかった。レオパルドは自分とエクトル警部が食べていた料理分の代金を払っていたのだ。このまま普通に外に出て行けばベテラン刑事と泥棒逮捕に貢献した私立探偵であろうとも、ただの食い逃げになってしまう。そんなことがあってはせっかく評判がよくなってきたレオパルドの人望も地に落ちるだろう。今までの功績からスペインでも有名なベテラン警部と呼ばれたエクトル警部の信頼だって一気に無くなってしまうだろう。エクトル警部はレオパルドが合流した後にそのことに気づき、とても焦っていた。やはりエクトル警部も信頼を失うのは怖いのだろうか。しかし、今はサンチェスのことが最優先事項だ。エクトル警部はレオパルドに礼を言ってから警官に話の続きを促した。すると、警官は少し躊躇ったが、周りに誰もいないのを二度三度確認した後話し出した。

「サンチェスが脱獄しました。」

囚人が脱獄するのは珍しいことではない。それを言うなら多いといってもいい。しかし、サンチェスが脱獄したとしたら別だ。サンチェスは今までもレオパルドがいなかったら国家警察だけでは逮捕できなかったほどの泥棒だ。普通の脱獄囚では長期間脱獄したままということはない。長くとも一年ほどで連れ戻されるのがほとんどだ。だが、サンチェスとなればどうだろうか。数日、数か月どころか、数年、長ければ一生刑務所に戻すことは出来ないかもしれない。エクトル警部とレオパルドはこれからのことを考え、声も出なくなった。せっかくサンチェスを逮捕できたというのに。そうは思ったが、今はどうやって脱獄したかだ。刑務所はそう簡単に脱獄できるようなところではない。それどころかここはスペインの中心部に近い地点だ。刑務所もより警備が整っているようなところなのだ。そんなところから逃げ出したのは歴史でもサンチェス以外に数人ほどだろう。エクトル警部は警官に脱獄方法を聞いた。しかし、警官は少し首をすくめながら言った。

「それが、わかってないんです。」

エクトル警部とレオパルドは静かに頷いた。脱獄方法が分かっていないのなら脱獄方法が何かを調べるところから始めるべきだろう。脱獄方法が分からなければ次にサンチェスをもう一度刑務所に入れられたとしても同じ方法で逃げられてしまうのがオチだ。そうならないためにも、脱獄方法の確認はかなり重要なのだ。レオパルドは警官にサンチェスが脱獄する前後の話について詳細を聞いた。

「サンチェスの食事は…」

「サンチェスの労働量とその内容は…」

「サンチェスの様子は…」

警官はレオパルドの質問に正確に答えていった。それらの答えには嘘偽りはもちろんのことなかった。レオパルドは考え込んだ。サンチェスはどうやって脱獄したのか、今までに幼馴染として、親友として接してきたサンチェスの様子なども考慮して考える。そして、ありえないようにも思えるある方法にたどり着いた。

「あくまで仮設の域を出ませんが…」

レオパルドはそう言ってサンチェスの脱獄方法を明らかにした。

「サンチェスは木を扱う労働をしていたんですね?なら、サンチェスはその労働で出た木くずをそっと独房に持ち帰り、保管しておいたんです。そして、看守が持っているであろう様々な牢のカギと、自分の牢のカギ穴を見比べ、どの鍵かを断定し、木くずを削って合いかぎを作ったんです。信じられないかもしれませんが、それ以外に方法は思いつきません。」

そう言ってレオパルドは話を終えた。エクトル警部は感嘆の声を漏らしていたが、警官は違った。どこか温かく見守るような、そんなまなざしだった。レオパルドはその様子を見て確信した。エクトル警部はすぐさま国家警察に連絡してサンチェス捜索を行わせようとした。しかし、レオパルドはエクトル警部にそうさせようとしなかった。レオパルドにはどこにサンチェスがいるのかよくわかっているのだ。

「サンチェスの捜索などしなくてもいいんです。」

レオパルドはエクトル警部に言った。エクトル警部は首を傾げた。それこそ、少し前の状況だったらレオパルドがサンチェスを逃がそうとしているとしか思えなかったような発言だ。エクトル警部が困惑しているのを見て取ったレオパルドは言った。

「サンチェスの捜索などしなくとも、見つけられますよ。目の前にいるんですから。」

そういうと、レオパルドはサンチェスの脱獄を伝えに来た警官の方を向いた。エクトル警部はレオパルドと警官の方を見比べた。二人とも何もかもわかったように微笑を浮かべている。

「いつ分かったんだい?レオパルド。」

警官は先ほどまでやっていた芝居を止め、いつも通りのサンチェスの声に戻った。エクトル警部は何度か事件で聞いたその声に驚いた。今までサンチェスは鑑定士になっていたこともあったが、その時の声はほとんど変わらなかった。それでもエクトル警部らが気付けなかったのは先入観があったからだろう。しかし、その声はよく覚えている。間違いなく、サンチェスの声だ。レオパルドは微笑を崩さないままに言った。

「警官だからと言ってサンチェスの様子をあれまでに把握しているのはおかしいと思ってね。というより、サンチェスはそのことに気付いてほしかったんだろう?さすがにわざとらしかったからよくわかったよ。」

サンチェスはレオパルドが言い切ってから言った。

「さすがはレオパルド。よくわかったね。まあ、レオパルドならわかってくれるとは思っていたけどね。」

サンチェスは正体を暴かれたというのに落ち着いていた。先の先まで見透かすような頭脳を持っているサンチェスは微笑を浮かべながらレオパルドを眺めているのだった。

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