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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと全面戦争

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75.衝突後・弐

衝突後・弐



「どうしたんですか? 否定すればいいだけのこの状況で、何を悩む必要があるのです」


 サンチェスの問い掛けは続く。

 エクトル警部は最早頭がおかしくなってしまいそうだった。


「私は……ッ―――答えない!!」

 エクトル警部が苦悶の表情でそう言い切る。

 警官たちとしては、エクトル警部らが何を隠しているのか、気にならないわけではなかった。しかし、それでも自分たちの上官より怪盗風情を信じる程、警官として終わってもいない。


「私が答えなくとも、お前たちは逮捕されるだけだ!!」

 エクトル警部の叫びに、サンチェスは初めて眉間に皺を寄せた。

 確かに、この状況はサンチェスと三駒にとって劣勢極まりない。

 どうにかこの状況から脱却するために先程の手札を切ったというのに、このままでは手札を切っただけで逮捕されて終わりだ。

 この状況の打破はサンチェスと三駒にとっての急務となった。


 このままでは、エクトル警部を出し抜くどころの話ではない。

 エドワード警視やプロフォンド警部補はここへ来ることが出来なくとも、他の警官が来る。

 警官に紛れ込んでいる可能性がある、と警官たちが理解してしまっている今この状況で、警官らの中に紛れたとしても逃げ切れる可能性は低いだろう。

 正直言って、エクトル警部に手首を掴まれていることは全く脅威ではない。

 サンチェスも三駒も、上手く手の関節を動かして手首を抜くことくらいならばできる。

 それだけの問題ではないのだ。


 まだ、サンチェスと三駒は一番重要な役目を終えていない。

 それが終了しなければ、この状況を抜け出したとしてももう一度、同じ状況を作らなければならなくなる。

 今回もエクトル警部に変装を見抜かれたというのに、次は決してないだろう。


(この場で、どうにかやるべきことをやり切るしか……)


 そう考えるサンチェスだが、活路が見いだせない。

 事実、この状況はサンチェスの油断によって生まれたものだ。

 どうしても、これまでの成功経験ばかりが多いサンチェスには自分が失敗した時の想像が出来ない。結果として、サンチェスには油断が生じた。



(何か、策を講じなければ…………)


 サンチェスの脳は急速に思考を回す。

 しかし、明確な打開策は出てこないままに時間が過ぎた。

 

 エクトル警部は、サンチェスの脅しを無視して行動に出るべきか否か、と悩んでいた。実際、この状況ならばサンチェスを逮捕することはいとも簡単なはずだ。

 しかし、先程のサンチェスの脅しが、エクトル警部に対するけん制の役割を十二分に果たしている。

 エクトル警部も、本来なら有利なこの状況で動くことが出来ていなかった。


 だがしかし、この状況こそが、エクトル警部にとっての好機だ。

 先ほど理解した。

 これまでと同じような思考ではサンチェスに勝つことなど到底不可能であると。

 発想と行動、そのどちらも普通とは変える―――そうして初めてサンチェスと対等になるのだ。


 思い切った行動に不安はつきものだ。

 当たり前のことである。結果が見えていない行動に安心感を得ることなど無い。

 しかし、思い切った行動、普通なら考えられない、予想できない行動をしてきたからこそ、サンチェスは成功してきた。

 ならば、サンチェスと相対するエクトル警部もまた、思い切った行動をしなければならない。

 そうしなければ、勝利の天秤はサンチェスにしか傾かないのだから。



「――――――――――」


 大きく、息を吸う。

 それが、何の予備動作なのかに気づいてサンチェスと三駒は眉を顰めた。



「逮捕だァァ!!!!」



 待ってました、とばかりに警官らはサンチェスと三駒に向かって駆けだす。

 エクトル警部もその近くにいるというのもお構いなしに最早ぶつかっていくかの如く駆け込んでくる警官らによって、その場は乱闘状態になる。

 最早、誰と誰の、どの身体部位とどの身体部位が、どのようにぶつかって、それが()()()()()()など分かるわけもない。


 喧騒の中心点で、エクトル警部はサンチェスと三駒の手首をはっきりと掴んでいた。

 しかし、その拘束が外れたことを覚る。


「止まれ!! 奴らはまだこの中だ!!」


 エクトル警部の一喝で、警官たちの動きが止まる。

 サンチェスや三駒が逃げ出したのだと覚り、それぞれで距離をとってサンチェスや三駒を炙り出そうとする。

 エクトル警部は警官らの包囲の中心にあって、周りをぐるりと一周、見回した。

 そして、包囲の輪から少し離れたところにいる警官の姿を捉える。

 その瞬間に、エクトル警部の息が止まった――――――。




 その警官は、天へと宝石一つを大きく掲げていた。

 明るい茶髪を押さえる警帽が彼女の瞳を隠す。 

 しかし、その口が嗤っていることは分かった。

 

 嗤っているのだ―――宝石を手にして。


 警官らは状況が分からずに体を硬直させる。

 この状況で、誰が逮捕すべき相手なのかが明確さを失い、曖昧になっていく。

 サンチェスも三駒も、男性であった。

 変装であるという可能性もある。しかし、人命救助の観点から人体についての知識も取り入れてきた警官らの経験と観察眼が、サンチェスと目の前の女性の骨格の一致を否定する。

 三駒のものともまた、違う。

 目の前にいるのは、誰なんだ――――――。



「―――ッッ……た、逮捕だァ!!」

 

 エクトル警部の叫び声で警官らは我を取り戻す。

 エクトル警部の腕は、敵を指し示すその指は、目の前の女性に向かっていた。


 警官らが突撃する。

 しかし、女性は全く、その笑みを崩さない。

 何もかもが、想定内であるかのように、全てを見透かすその眼は揺らがない。

 

 ふと、女性の視線が上がる。

 はっきりと、その双眸に警官らを見据えて、揺らがぬ炎を湛えて―――。


 その眼を見て、警官らは驚愕した。

 その顔を見て、はっきりと理解した。


 その顔のつくり、その漆黒の瞳、整ったそれらのパーツが、彼女がスペイン人であるという可能性を否定していた。


 突然現れた、正体不明の敵。

 その正体は依然として分からない。しかし、一つ分かることは、彼女がスペイン人でない、ということだ。


 そして、サンチェスと三駒に何らかの肩入れをしているであろう、ということだ。




「―――さぁ、均衡を崩しに来たわよ」



ご読了、ありがとうございます。

是非、面白かったところ、ネタバレに配慮しながら展開の考察など、感想欄にて送っていただけると力になります。


評価やいいね、といった機能もありますので、もし良ければお願いします。

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