72.衝突前・壱
お久しぶりです。
長らくサンチェスの投稿が遅れてしまいました。
衝突前・壱
午前三時・オルムンド城―――スペイン国家警察現着
「さて、諸君、朝早くからご苦労―――今日一日が決戦の日となる事は既に明白だ。諸君らの経験が今日の為に存分に活かされることを期待する!!――――――解散ッ」
早朝の寝ぼけ眼を擦りながらオルムンド城に到着した警官たちも、エドワード警視による演説を聞いて一度に目をぎらつかせる。
「今日が決戦の日となる―――」
その言葉は、エドワード警視のみならず、多くの警官らが感じていることでもあった。
何か、確証が存在するわけでもないのに、何故だかそう確信してしまう、そんな説得力がエドワード警視の言葉にはあった。
そして、その言葉は警官たちの士気を存分に引き上げた。
警官たちは最近のサンチェス対策のための会議で疲弊していることを感じさせないほどに勤勉に働き、その姿は―――たとえとして不適かもしれないが―――まさに刈り取り時期の農民を彷彿とさせた。
エクトル警部が警官らに指示を飛ばす声にもいつも以上に張りがあるように感じられる。
初めてのサンチェス現場であるというのに、プロフォンド警部補の表情も不安や緊張を感じさせない。
その全てが、今日が決戦の日となる、と述べたエドワード警視の言葉を更に信憑高くしていた。
「オルムンド城に侵入するための経路は全て把握しておくようにしろ! これからオルムンド城に来る予定の関係者は存在しない、これからオルムンド城に侵入せんとするものを発見すれば、それがサンチェスその人であると思え!!」
「はいッ!!!」
オルムンド城は広大である。そのために、多くの進入経路が存在する。
それら一つ一つには専門の監視班が配置されており、中空を這う蚊の一匹さえも見逃さない鉄壁の厳戒態勢が敷かれている。
今回は、サンチェスの侵入を防ぐだけで国家警察の勝利となるのだ。
絶対にサンチェスどころか、飛ぶ虫這う虫潜る虫、いずれも侵入させまいという気概が、警官たちからは感じられた。
「監視班は少数ながら精鋭ぞろいです、しかし、万が一、京が一にもサンチェスが侵入してきた際にその狗盗を阻止できるのは、我々対敵班に他なりません。何としても、サンチェスの犯行を阻止しなければなりませんっ!!!」
「おおォォ!!!」
一方で、対敵班を束ねる担当としてエドワード警視から役目を与えられたプロフォンド警部補もその声を張り上げていた。
監視班が圧倒的に重要なことは千も承知、だが、プロフォンド警部補の述べた様に、サンチェスが侵入してきた際に対応するのは彼女ら、対敵班である。
サンチェスの狙う宝が何か、それすら分かっていない状況では何とも警備のしようもない。しかし、そんな不利な状況でも警備を敷かないわけにもいかないのだ。国家警察は、どれかも分からない宝をの警備を担当する対敵班に多くの人員を割かなければならなくなった。
いっそ、オルムンド城に存在する価値のあるものを全て一室に集めるなど出来ればよかったのだが、一つ一つ―――最早、紙切れ一つにしてもそれぞれが一年仕事をして得る賃金を優に超える程に高価なものばかりだ。加えて、歴史博物館として運用されているオルムンド城には多くの脆い保管物が存在する。少し触れただけで損傷してしまう可能性のあるそれらの保管物を移動させる許可を、国が出せるわけもなかった。
「遊撃班、整列!!」
「はッッ!!!」
エドワード警視は後進を育成するため、と一歩引いたところからの現場指揮を自ら受け持った。
と言っても、遊撃班は監視班や対敵班などの具体的な所定場所を持たない自由度の高い班だ。それだけに咄嗟の時の対応のしやすさが違う。
他の班の支援を中心とした班だが、自由であるが故に実力が必要となる。
定位置がないだけに連携もしがたく、そのような意味では最も扱いが難しい班ともいえる。
「君たちは、精鋭中の精鋭だ!! 索敵に精通したものを集めた監視班と違い、君たちは索敵能力こそ彼らに負けるとしても、広く多くの能力における精鋭だ。すべての班の位置と状況を指揮官である私が常に把握することは、残念ながら叶わないだろう。咄嗟時の判断は各班の班長に一任している。それぞれの班の活躍を期待する!!!」
遊撃班所属の警官たちは、エドワード警視の言ったように本当の精鋭たちである。
特に、判断力の高い警官たちをエドワード警視が直接選抜した。
全員が指揮能力ではプロフォンド警部補にさえ匹敵するほどの精鋭たちだった。
遊撃班としての役目は他の班の援護に終始する。
しかし、明確な仕事内容が決まっておらず、臨機応変な対応が全てとなっているという状況は最も難しい状況と言っても過言ではない。
常に班長が判断を下す必要があり、班長の指示を仰げない状況下ではそれぞれ自己の判断を信じて行動するほかないのだ。
大変なことは当たり前、しかし、エドワード警視に直に選ばれた、という名誉を抱えて警官たちは今回の防衛線に参加している。
全てはスペイン国家警察の悲願である、サンチェス逮捕を達成するために。
「はぁ、いつもいつも大変なもんだけれども、今回は特にだ」
「ほんとですよ、なんでこんなところ選んだんですか、キツイと理解してなかったわけではないでしょうに」
「はは、だって絶対無理そうなところで作戦を成功させる方が格好つくでしょ」
「―――笑えませんよ」
「ははは、返す言葉ないね―――それで、予想は?」
「まあ、あと一時間で警備の準備は完了するでしょうけど……いや、何となく嫌な予感がしますが」
「よし、一時間後に行こうか」
「本っ当に笑えませんよ……」
「ははは」
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