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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと海外観光
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65.サンチェスと駒 玖

サンチェスと駒


ここらで回想は終わり、時間軸が戻る―――。


「……ぉはようございます」

寝ぼけ眼を擦りながら、三駒が目覚めてきた。

キッチンや洗濯機なども常備された、ファミリー用の部屋をとっておいて良かった、とサンチェスは思う。

一人用のビジネスホテルに男二人というのは何となく、大変なものだ。


「ああ、おはよう」

サンチェスは既に軽い身支度を終わらせ、調理中だった。朝食はなんとも庶民的なものだ。

三駒がサンチェスに会釈をしてから洗面所に向かう。

三駒も軽い身支度を終わらせ、寝間着から着替えた。

二人で食卓を挟みつつ、食事を摂る。


「さて、そろそろ動き出そうか」

サンチェスが言うと、三駒もその顔に僅かな緊張を浮かべた。

「外城田氏でしたね……。資料は読みました」

三駒はそう言いつつ、昨晩サンチェスから渡され熟読した資料の内容を思い出す。

彼はこれまで、様々な事件に関わり、その度に疑惑を掛けられては証拠不十分で逮捕には至っていなかった。これほどまでに黒に近い人物というのも少ないのではないか、と思ったものだ。

そして、サンチェスが渡してきた資料には、カサンドラ・ダイヤを巡る事件のみならず、全てのことに筋を通す真相も記されていた。

三駒は、全ての真相をサンチェスから与えられている。


「ところで、三駒は三国志を知ってるかな?」

これからサンチェスが考え続けていた計画についての話がなされるのだろう、と予想していた三駒にとって、この質問は突拍子のないものだった。

三国志、というと日本人にとっては馴染み深いものでもある。

小学校の図書館になら大体シリーズ物で置かれているイメージだ。

三駒もそのような本を好んで読んでいた少年の一人だった。三国志について知り尽くしているとまではいかずとも、ある程度走っている自信があった。


「三国志は子供のころ好きで読んでいましたが……。それがどうしたんですか」

あの本は戦争の本であって、盗みの手引書ではない。

三駒にとって、三国志が興味を引くものだとしても、今この状況で役に立つものだとはあまり思えなかった。


「死せる孔明、生ける仲達を走らす」

サンチェスは呟くように、一つの故事成語を示した。

「既に病没していた孔明だが、生前に用意させていた自らの人形を用いることで敵である司馬懿仲達を怯えさせ、走らせた。そのことから出来た故事成語なんだよね」

サンチェスは続けざまに故事成語の解説を補足する。

三駒はその意味を理解することは出来たが、現状にどのように活用するつもりなのか、サンチェスの意図は測りかねた。

困惑を色濃く映し出した三駒の表情を見て、サンチェスは笑いを溢す。

「回りくどかったか。つまり、こういうことだよ……」






「『サンチェスの予告状』を持って参りました」

その一言と一つの封筒を携え、刑事が佐々木警部らのいる部屋に入ってきた。

即座に、三人はその場で立ち上がり、長谷川警部が扉を塞ぐ。

「封筒だけを見て、サンチェスの予告状だと、分かったのか?」

佐々木警部が真正面から刑事を質すように威圧する。

最後までは言わないが、見ていない内容を知っているということは、お前がサンチェスなんだろう、と言わんばかりだ。

突然のことに、刑事も驚きを隠せないように、あわあわとし出す。

そして、自らの持つ封筒を見せた。

「なんだ? ……『サンチェスの予告状』?」

佐々木警部が封筒に書かれている文言を読んで、呆れたようにはぁ? と声を漏らす。

そこには日本語で「サンチェスの予告状」と書かれていた。

大胆不敵というべきなのか、それとも幼稚くさいと嗤うべきなのか……。

三人は何とも言えない複雑な気分になった。


「そういうことだったのか、すまない……。我々も気が気でないんだ」

佐々木警部は刑事に謝り、部屋から出す。そしてもう一度、長い溜息をついた。

「このようにして仲間同士で疑わせる。それも狙いなんでしょうけれど……」

疑わざるを得ないですよね、とレオパルドも少し疲れたように疲労の色を声音に乗せて語る。

見れば、長谷川警部も疲弊が色濃いようで、肩の位置がいつもよりも低い。

三人とも、疲れているのだろう。サンチェス関連のことで、ここのところずっと動き続けているのだ。特に、盗聴器関連の時には頭で並行的に二つのことを考える必要があったりと、エネルギー的に消耗が激しい。

そんな中、追い打ちをかけるように出てきたのが「サンチェスの予告状」だ。

泥棒相手に都合を通せるわけもないが、少し休憩をくれ、と叫びたいのを三人ともどうにか抑えているところだった。


「まぁ、何にせよ。予告状の内容を確認しましょう」

レオパルドはそう言うと、佐々木警部に目で確認をとり、封筒の口を切った。

中には数行のみの文章が綴られた、カードが入っていた。


『先日の予告状には日時を記載しておりませんでしたので、ここに通告いたします。五日後、外城田氏の本邸にてお会いしたいと思います。最後に一つヒントを。警官同士の連携は重要ですよ』

これだけの、短い文章だ。すべて読み終えてから、佐々木警部は即座に刑事たちの警備隊を結成するため、部屋を出て行った。

そして、長谷川警部も外城田氏に連絡を入れるため、部屋を出る。

バタン、と扉の閉まる音がした。部屋の中にはレオパルドが一人だけ。

そこで、レオパルドは手に持ったカードをひらりと裏返す。

封筒から取り出した時に、裏面にも何かが書かれているのが見えた。しかも、スペイン語で―――。

日本人に見られないようにする、という工夫だろう。

サンチェスが書いた可能性が高いとはいえ、このことは事件に直接的なかかわりはないだろう、とレオパルドは判断した。

もし、事件に関係のありそうな重要なことならば、あとからさっき気付いたのだ、と言って二人にも見せればいい。

レオパルドは、裏の中心に手書きされた、スペイン語を読み取る。


たったの一文を読み終えて、レオパルドの表情が歪み、血の気が引く。

そして、はは、と乾いた笑いを溢した。


「なんで、君が先に知ってるんだ」





『Escapó de la cárcel.―――奴が脱獄した』

ご読了、ありがとうございます。

是非、面白かったところ、ネタバレに配慮しながら展開の考察など、感想欄にて送っていただけると力になります。

評価やいいね、といった機能もありますので、もしよければお願いします。


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本作以外にも、幾つか小説を投稿しています。

軽くあらすじを乗せておくので、ぜひ気になったものがあれば作者マイページより、読んで見て下さい。


「殺すしか能がない最凶禁呪を手にした令嬢」

―――最強で最凶の権能である禁呪には壮絶な過去が秘められている。

チトリス・クラディエルはその過去を紐解き、世界の行く先と闘う。

※現在、一話のみ先行投稿しています。本編開始には少し時間がかかるので、ご了承ください


「憎悪の警棒」

―――常にぼんやりとした性格の刑事の脳内を覗き込む。

脳に蹲っている少年の顔を上げさせろ。

※本作は短編小説です

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