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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと海外観光
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59.サンチェスと駒 参

サンチェスと駒


「すぐに警察官を追跡に向かわせましたが、既にサンチェスの足取りは消えていて、発見には至りませんでした。」

「そうか……。付近の警察署にも通達、サンチェス発見のために検問を張らせろ」

はっ、と返事をして部屋を出て行く刑事の耳と目を、佐々木警部は気取られないように凝視する。

こうして、仲間同士で疑わせるのもサンチェスの思惑だと分かっていながらも、疑わざるを得ない。

現時点では県警としての体裁を保つため、と本部長から口止めをされ、刑事たちは今回のことを知らされていない。

本来ならば事実を公表して県警を総動員してでもサンチェスを逮捕すべきなのは、佐々木警部や県警本部長も理解していた。しかし、そんなことは叶わず、刑事たちにはサンチェスの目撃情報があった、という誤情報をもとにサンチェスの追跡をさせているところだった。


「一旦、サンチェスからの予告状を確認しましょうか」

サンチェスが刑事に紛れ込んでいたことによって生じていた騒ぎがひと段落ついたころ、レオパルドが佐々木警部と長谷川警部に言った。

二人も疲労を押し殺し、頷くと応接間に戻り、ソファに腰かけた。

二つのソファにはさまれたローテーブルには先ほどのままのサンチェスの予告状が置かれていた。

佐々木警部がその封筒をとり、口を破った。


―――――――――――――――

静岡県警の皆さん、先ほどはご挨拶もままならないままにお暇してしまい、失礼だったと後悔しています。

さて、皆さんは外城田 英正氏をご存じでしょうか?

静岡県内でも有数の資産家として有名ということで、ご存じの方もいらっしゃると思います。

その彼の所有する、カサンドラ・ダイヤモンドはその小ささからは想像もつかない値打ちがつけられる、世界最高峰にも近いダイヤモンドである、と聞き及んでおります。

しかし、同時にそれは同じく資産家である城門 琉惺氏の所有物であり、外城田氏により奪われたものである、という良からぬ噂も耳に致しました。

そこで、その噂の真偽を、僭越ながら提示致したく、伺います。

―――――――――――――――


「外城田氏、と言えば確かにカサンドラ・ダイヤモンドを所有していることで有名だが、それは城門氏から買い取ったという話だ。奪われた、というのは城門氏の派閥が流した単なるうわさじゃなかったか?」

佐々木警部が天井を仰ぎ、記憶を探る。

「……サンチェスが予告日を明記していないのが気になりますね……」

それに、わざわざ刑事に化けて侵入するというリスクを犯した理由もわかっていない……と続けながら、レオパルドは思案顔になる。

思考を深めつつ、レオパルドは先ほどのサンチェスの様子を思い出した。

何か、不審な点はなかったか、と。


サンチェスが、自らで用意した封筒を怪しげな投函物だ、と言って差し出してきた。

そして、その裏面にサンチェスの署名があることに気づき、レオパルドが声を上げた。

その時、既に刑事から注意は逸れていた。

そして、佐々木警部が立ち上がって刑事からその封筒を受け取って――。

不審な行動があっただろうか……

そこで、そういえば……とレオパルドは何かに気づいたような気がした。

「痒かった……のか?」

突然声を上げたレオパルドに、佐々木警部と長谷川警部、両警部の視線が刺さる。

いえ、何でも……と曖昧に言葉を漏らしながら、レオパルドは自分の思う違和感を言語化しようとする。

違和感があることは確実だ。しかし、その何たるかが分からない。


何故、サンチェスはそれほどまでに……自分たちと距離があったのか――

「そうか!」

またも、レオパルドが声を上げたことで二人の警部は驚いたようにレオパルドに視線を投げる。

レオパルドは立ち上がろうとしたが、思いとどまって止め、近くにあったメモ用紙とボールペンを手に取った。

「少し、お借りしてもよろしいですか?」

佐々木警部に了承を得たレオパルドは、そこに文字を書きながら話し始めた。

「そういえば、サンチェスのいるかもしれないホテル、まだ捜索をしていませんでしたね」


『この部屋には盗聴器が仕掛けられています』


話すこととは全く別のことをメモに書き始めるレオパルドに、佐々木警部は感心しながらも、書き記されたことに驚きの声を上げようとする。

驚きの声を上げればこちらが盗聴器に気づいている、ということが相手にばれるだろう、と長谷川警部は咄嗟に佐々木警部の口を封じ、自分もメモに鉛筆を走らせた。

「そうでしたね。捜索隊は既に待機させているようですし、そろそろ頃合いかと」


『それを逆に利用するわけですか。ところで、盗聴器はどこに?』


レオパルドは長谷川警部の問いに答えるように、一点を指さした。

それは、コンセントに差し込まれていた。確かに、サンチェスが来るまではそこに何もなかった。

「いつの間に……」

「さっき自分で言ってただろう、捜索隊を待機させている、と」

無意識に呟いた佐々木警部をフォローしながら、長谷川警部は佐々木警部を小突く。

佐々木警部は呻きそうになるのを必死に耐え、頷いた。

「そうだったな」


『どうやって気づいたんですか、ぱっと見はただのACアダプターですが……』


佐々木警部も筆談に加わった。

確かに、サンチェスの仕掛けた盗聴器はACアダプターに偽装されていて、偽のケーブルさえも付属していた。

「ですが、サンチェスがどうやって捜索隊の網を抜け出したにせよ、まだ帰還していない可能性もあるのでは?」


『サンチェスがただ単にリスクを冒すためだけに刑事に化けていたとは考えられません。』


「少し多めに見積もって……そうですね、三十分ほど後に捜索隊を突入させるのが妥当でしょうか」


『そして、サンチェスは何故か壁から離れようとしていなかった。だから、封筒を取りに行くのに佐々木警部が立ち上がる必要があったんですよね』


佐々木警部が確かにそうだった、というように頷く。

「今は一旦、サンチェスの予告の対策を講じましょう」


『そして、サンチェスは封筒を持っていたとは反対の手を常に背中の後ろに隠していました。背中が痒いのかと思いましたが、今考えるとそれくらいの高さにコンセントがあるんです』


佐々木警部と長谷川警部はサンチェスの様子を思い出しながら、盗聴器の取り付けられているコンセントに視線を向かわせる。

すると、丁度サンチェスの腰のあたりにコンセントがあったということに気付けた。

「外城田氏についてはいくつか資料があったはずです。少し探してきましょう」


『ホテル周辺の捜索隊に突入命令を出します』


佐々木警部はそれだけ走り書きすると、資料を取りに行くため、部屋を出て行った。

バタン、と後ろの扉が閉まる音を聞いてから数歩進み、佐々木警部はポケットからスマホを取り出す。

「捜索隊、突入命令。市民に害が加えられそうにならない限り、発砲は許可しない。可能な限り無傷のまま身柄を拘束しろ」

捜索隊のリーダーの刑事から了解の返事を得て、佐々木警部はスマホの電源を切る。

流れるようにスマホをポケットに滑り込ませると、佐々木警部は資料庫に向かって歩き出した。

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