56.サンチェス来日する
三か月と一日ぶりの投稿となります。
気力がなかった、という浅はかな理由でこれほどまで長く休んでしまったことをお詫びします。
今まで三作品を一度に投稿しようとしていましたが、他の用事もある中で、小説の執筆だけを優先することもできず、流石に無理だということがよくわかりました。
それで、これからについてですが、まずは最も短くなるであろう、貧民少女の小説から投稿していきます。そのあとのことについてはまた、貧民少女完結の時に報告させていただきます。
何度も勝手なことをして申し訳ありません。
サンチェス来日する
長谷川警部はフランス国家警察の上層部と話したうえでフランスに来ている。
フランスの地理はすべて頭に入れ、サンチェスの情報についても調べつくしたうえで、サンチェスの担当刑事にまでなった。だからといって、地元の刑事がそれをよく思うかどうかは別の話である。
それは、長谷川警部も理解していた。このままではサンチェスを逮捕することが難しくなる、とも思っていた。サンチェスを逮捕するために協力する必要があるというのに。
「次のサンチェスの予告状が来る前にどうにかしておかなければ………」
長谷川警部はフランスに滞在する間利用するホテルに帰る途中、溜息とともに呟きをこぼした。
フランス国家警察に長谷川警部が訪れた。
その事実を前にして、一般の刑事たちは長谷川警部に対する憧憬と嫌悪を併せ持った感情を抱いていた。実際、他の国から派遣されてくるというのはそれだけ優れた刑事だということなのだから、同じ刑事として憧憬は感じる。しかし、自分たちの持ち場に割り込んできた、ということを考えれば嫌悪をも感じるのだ。
一緒に働ける、ということを幸せとして嚙み締めるべきなのか、よそ者に後れを取らないように競争心をもって挑むべきなのか、刑事たちは悩んでいた。
そんなときである。サンチェスの予告状が届いたのは。
長谷川警部がフランス国家警察に来てから二日が経った。
長谷川警部はこの間、現地の刑事たちの良好な関係を築くためにいくつか策を講じていた。
刑事たちにとって長谷川警部が嫌悪の対象となるのは何故なのか。それは単純な理由である。フランスに来て間もない刑事に現場を仕切られるのが嫌なのだ。
そのため、長谷川警部は自分が主役として出るのではなく、基本的に地元の刑事たちの助力を優先した。また、逆に地元の刑事たちに助力を求めることで、頼られている、と思わせ、協力させるようにした。これらを一日の中に何度も詰め込み、長谷川警部は地元の刑事たちと良好な関係を築くことが出来ていた。
そのような状況で、サンチェスの予告状が届いた。
地元の刑事たちとの協力関係も築けた今、何も問題はないはずだった。
サンチェスの予告状は、はじめにセドリック警部に渡された。そして、セドリック警部は長谷川警部と共にその予告状を開いた。
「日本に行ってみたいそうです……」
予告状を読んだ長谷川警部の声は、どこか呆れを含んでいた。
同様に、横から覗き見ていたセドリック警部もまた、呆れてしまった。
予告状の内容はこうである。
『フランス国家警察の皆さんへ。私はフランス慣行を十分に楽しみましたので、名残惜しくはありますがフランスを離れたいと思います。それで、次の行き先ですが、一度行ってみたかった日本に行ってみるつもりです。手回しをするなら今のうちに準備をお願いします。』
泥棒が、フランスでの事件を観光と称し、挙句の果てには自分がこれから向かうところを指し示し、手回しをすることを求めるなど、全く前例のないことだ。そして、もう一つ。
ここで、わざわざ日本を出してくるということは、長谷川警部の存在にも気づいている可能性がある。長谷川警部は日本の警部だ。だからこそ、長谷川警部に対する挑戦のような意味で、日本を選んだ可能性はある。
長谷川警部としては、地元の刑事たちとの協力関係を折角築くことが出来たというのに、それを活用できないままにフランスを離れるのは困ったことだったが、追跡対象がフランスを離れるというなら、自分もそちらに向かうのが筋だ。
「では、私は日本に向かう準備をします。」
長谷川警部はセドリック警部にそう告げると、去っていった。その表情はどこか沈んでいて、セドリック警部は声をかけようとしたが、何を言えばいいのか分からなかった。
サンチェスは、日本に行くための準備を整えていた。
すでにレオパルドにも情報が行って、準備を始めているころだろう。
日本に行く、と予告状に書いた以上、サンチェスは日本に行くことを決め切っていた。
実際、日本に行きたかったのは本当のことだ。いつかは行ってみたい、と思っていた。そこに、長谷川警部の情報が入ってきて、今こそが行く時だと決意しただけのことだ。
しかし、サンチェスだってただ行きたいから、というような生半可な気持ちで日本に行くわけではない。長谷川警部との対決をするために、日本に行くも同然だ。
「未知には気を付けないと」
サンチェスは一人、呟いた。
長谷川警部はサンチェスにとって完全なる未知である。もちろん、セドリック警部だって未知だったし、はじめはエクトル警部なども未知だった。けれど、日本という未知の場所で、長谷川警部という未知の刑事と対峙する。これは、サンチェスにとってリスクの大きいものだ。
「だからこそ、負けるわけにはいかないんだよ」
サンチェスは、旅立った。
そして、降り立つ。そこはもう、スペインでも、フランスでもなかった。
サンチェスは、初の来日を果たした。




