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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
狙われしサンチェス
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番外 愛される殺人鬼

いつもより遅くなってしまって申し訳ありません。

番外でアマド刑事の過去を書きましたので、ぜひ読んでください。

愛される殺人鬼


ある、中級貴族と呼ばれる家柄の貴族の当主が病院へと走っていた。

彼の奥方の子が生まれたというのだ。

本当ならもう少し早くから早くに病院に言っているはずだったのだが、早く終わるはずだった仕事が思ったより長引いたためにここまで遅れてしまったのだった。

彼は息を切らしながら病室の中に入った。

そこには、自分の妻と、すやすやと眠る我が子がいた。



デ・アンダ家、嫡男が生まれた、という話はすぐに広まった。

このままいけば、当主の息子である彼が、デ・アンダ家の跡取りとして当主となるのだから。

デ・アンダ家はその地域では一番の名家で、人望もあったため、その息子の誕生は人々の間で祝福された。

それどころか、人々はご馳走を準備して、お祭り騒ぎだった。

しかし、周りがお祭りモードになっているにもかかわらず、デ・アンダ家では、重要な話し合いがなされていた。

長男の名前を決めないといけないのだ。

これを間違えれば、その長男はこれから何かと苦労することになろう。

両親である当主、エベラルド・デ・アンダ・グラセスと、その奥方であるアリアドナは悩んでいた。

しかし、そこまで悩んでいる時間もない。

彼らには貴族としての仕事がまだまだ残っているのだから。


「あっ、そうだ。」

そろそろ時間が迫ってきた、と考えていた当主、エベラルドは突然思い付いた。

「私たちはこの子を大切にするが、他の人のように愛してやれないかもしれない。だから、愛される名前を付けてあげよう。」

エベラルドは言った。

アリアドナはエベラルドに賛成した。

二人は愛されるような名前を考え始めた。

二人は様々な名前を考慮した。

そして、二人はそれぞれが納得できる名前を思いついた。

使用人に言っても、「それは良い名ですね。」と返ってきた。

二人は自分たちの長男の名前をアマドと名付けた。

愛しい、と言った意味のある名前だ。

二人にとっての愛しい息子であったため、そう名付けたのだ。


エベラルドとアリアドナは、アマドが五歳になったころに亡くなった。

仕事の帰りに交通事故に遭って、簡単に亡くなってしまったのだ。

アマドは、両親を亡くしたことを悲しんだが、跡取り息子である彼は両親の死を悲しんでいる暇はない。

両親の行っていた仕事を継ぐ責任が、アマドにはあるのだ。

そして、アマドは両親からの愛はそこまで得られなかったものの、両親の財力によってつけられた家庭教師などからの教育は得られた。

アマドは五歳とは思えないほどの学力を持っているのだ。

特に、経済学などについては一般の大人をも超える知識を持っているのだった。

といっても、アマドは五歳の男の子だ。

判断力や洞察力など、他にも社交界に出たときのことなど、やはり不安なところもある。

流石に跡継ぎだからと言ってすぐに当主になれるわけではない。

まずはアマドの代わりに補佐がつくことになった。

その者がアマドが成人するまで、摂政のような役割を果たすのだ。

しかし、その者が善人ではなかった。

自分がデ・アンダ家の実質的な最高権力者になったのをいいことに、デ・アンダ家の金を横領したのだ。

彼は数か月にわたって横領を繰り返した。

アマド及び、使用人らがそのことに気づいたのはかなり後だった。

もちろん、補佐役の男は国家警察に引き渡され、横領した分の金はアマドに払い返された。


しかし、この事件はそれだけで収まることはなかった。

補佐役の男が自分の家の金を盗んでいたことを知ったアマドは、他のものに家の財政管理を任せることをかたくなに拒むようになったのだ。

デ・アンダ家に古くから仕えていたものがアマドを説得しようとしても、アマドは耳を傾けようとはしなかった。

アマドはまだまだ未熟な六歳児だ。

それでも、次代の当主であるアマドが自分だけで財政管理をすると言ったら使用人たちは逆らえない。

それどころか、アマドをしつこく注意した使用人は古くから仕えていたものを除いて、解雇された。

それについても、使用人は止めようとしたのだが、独裁者となってしまったアマドにはだれも逆らえない。

愛しい、という名をつけられたアマドは、いつしか愛しいどころか恐ろしい独裁者となってしまったのだ。

それも、両親の死が最も大きな要因だろう。

両親が死ななければアマドの代わりに補佐役が選ばれることもなかったはずだ。

その方がよかった。


アマドは、愛しい跡取り息子であり続けたはずだ。

要因は、両親の死なのだ。


それから、十数年がたった。

すっかり成人したアマドは、正式な当主となり、いささか独裁者らしくもなくなった。

しかし、今でも自分の家の財産を守ろうとする心はあり、家の使用人の人選などのことは他のものにも任せるのだが、財政管理に関してだけは誰にも任せない。

自分だけでやってしまうのだ。

使用人たちも、それに対して疑問を抱くことが多々あるが、アマドが子供のころどのような子供だったのか、古い使用人たちから聞いていたので、何も言わなかった。


そんな時だ。

アマドは社交界で友人を作るようになった。

何人かは数か月で別れたが、ある三人だけは仲が良く、かなり長く続いた。

社交界ではコミュニケーション能力が低いアマドは人気にはなれず、のけ者にされていたので、そのような友人が出来るだけで使用人たちはうれしかった。


しかし、悲劇が起きる。

アマドと仲良くしていた三人の友人が、共謀してデ・アンダ家の財産を盗もうとしたのだ。

アマドは、その計画が実行される前にそのことを知った。

アマドは、子供のころのことを思い出した。

自分が弱いから、その弱みに付け込んで金を横領した補佐役の男がいたことを思い出したのだ。

アマドは仲が良かった三人に騙されていたことに対して激怒した。

そして、自分が弱くないことを証明しようと考えた。



数週間後、アマドの友人三人が惨殺体となって発見された。

国家警察はすぐに捜査を開始したが、アマドがしっかりと計画を立てたうえでの犯行だったため、捜査は難航し、最終的に迷宮入りの事件となった。

アマドは、それからデ・アンダ家の財政管理について他のものに任せてまで、逃亡を優先した。

そして、アマド刑事として国家警察に入ったのだ。





「あなたは、過去に犯罪を犯したことがありますか?」

全てが狂った。

アマドは、この日を境にすべてを失った。

殺人犯が名家の育ちであることもあって、メディアでは大々的に報道された。

アマドは、こうして一気に堕ちて行ったのだ。

暗いくらいそこへと…………

殺人犯アマドは、子供のころに大きなショックを二度も受けたことによって自分だけが強いことを証明しようとしました。

そのようなねじれた価値観によって、名家の生まれの人望のある当主から殺人犯へと堕ちて行ったのです。

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