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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
狙われしサンチェス
44/104

44.凶悪殺人犯アマド

凶悪殺人犯アマド


「アマド刑事、あなたは過去に罪を犯したことがありますか?」

サンチェスの問いに、アマド刑事は硬直した。

その場にいるエクトル警部を含めた警官の視線はアマド刑事に注がれた。

サンチェスも続きの言葉を言わない。

アマド刑事も同じく何とも言えないような表情で固まったままだ。

その場は完全な沈黙に包まれた。



「まあ、いいでしょう。答えが返ってこないのは予想の範疇です。」

先に折れたのはサンチェスだった。

せっかくなら、アマド刑事から質問の返答をもらってから話を進めたかったのだが、一切何も言わない黙秘状態なのだから、仕方がないだろう。

「では、質問を変えましょう。あなたは数年前の連続だ殺人事件について覚えていますか?」

アマド刑事はカッと目を見開いた。

アマド刑事にとってこのことは一番触れられたくないことだった。

しかし、何か反応することによってぼろを出してしまうのを怖れたアマド刑事はやはり黙り込んだ。

サンチェスはやれやれ、と言った様子で両手を肩まで掲げ、首を左右に振った。


ガチャ

サンチェスらがいる部屋の扉が開いた。

レオパルドとエドワード警視が入ってきたのである。

元々、エクトル警部とレオパルド、エドワード警視は各所各所に配置され、時間によって交代するはずであった。

しかし、エクトル警部はサンチェスの登場によって場所を移動することが出来なくなってしまった。

それで、何が起きたのかとレオパルドとエドワード警視は一旦二人で合流し、エクトル警部がいるはずのこの部屋に来たのである。


「これはこれは。これで全員集まりましたね。ちょうどいい。話の続きと行きましょうか、アマド刑事?」

アマド刑事は震えていた。

これから、どのようにして自分の罪が暴かれていくのか。

この場所にはベテランの国家警察が二人と、私立探偵がいる。

サンチェスでも逃げ切るのは難しいだろう。

しかし、それはアマド刑事にとって不安材料でしかなかった。

サンチェスでさえ逃げ切るのが難しいということは、自分はもちろんのこと逃げ切ることは不可能と言うことなのだから。

アマド刑事の様子を見下ろすサンチェスは、微笑を浮かべていた。

その目には同情のかけらもなかった。

相手は数人を容易に殺した凶悪殺人犯なのだ。

そんな人物が自分の罪が暴かれることを怖れるのを見て、同情する人物がいるだろうか。

少なくとも、サンチェスは同情する人間ではなかった。

「では、話の続きですが、アマド刑事、あなたは数年前の殺人事件の犯人ですよね?」


「「はァァ!!??」」

エクトル警部、レオパルド、エドワード警視、加えてそこにいた警官隊の声がぴったりと重なった。

エクトル警部とエドワード警視はもともと国家警察長官より、アマド刑事が何らかの悪事を働いていた可能性があるということは聞いていた。

しかし、エクトル警部もエドワード警視も、アマド刑事の悪事については詐欺とか、脱税とか、そのあたりの犯罪だと思っていた。

しかし、サンチェスから放たれたのは殺人だ。

その、予想の数十倍は上をいく答えに警官隊やレオパルドなど、もともとから何も知らされていなかった人たちはもちろんのこと、少しは知らされていたエクトル警部やエドワード警視も驚いた。

アマド刑事がデータを改ざんしていたとしても、国家警察に殺人犯が紛れ込んでいたというのは大事件だ。

市民が知れば、国家警察の失態として大きく取り上げられるに違いない。

エクトル警部はそんなことまで考えていた。

しかし、ここであることに気づく。

今のところサンチェスが言ったことが本当だと仮定して考えているが、そもそもの前提が間違っている可能性だって、十二分にありうる。

エクトル警部はサンチェスの言葉を信じている。

しかし、アマド刑事が殺人犯であるというなら、サンチェスは窃盗犯だ。


「証拠はあるのか?」

エクトル警部は尋ねた。

「そうだ!証拠を出せ!」

その時、エクトル警部に便乗するようにしてアマド刑事が久しぶりに声を発した。

サンチェスはどこからか資料を取り出した。

アマド刑事はサンチェスの取り出した資料を凝視した。

しかし、その資料はただ単に雰囲気づくりのためにサンチェスが用意した白紙の紙だった。

それに気づかないアマド刑事は自分が殺人犯であるということの証拠だと思って、どうやってもみ消せばいいかと考えていた。


「あなたは数年前の殺人事件の犯人です。この邸宅からあるものが発見されました。」

サンチェスは言った。

アマド刑事は黙っていた。

先ほどとは違い、ぼろを出さないように黙っているというより、サンチェスが何を言うか、本当にわからないから黙っているようだった。

サンチェスはまたもどこからか何かを出した。

それは、血に染まった包丁だった。

両手を使えば隠せるような、小刀である。

血は経年変化で赤黒く変色しており、当時の惨劇を彷彿とさせるようだった。

エクトル警部やエドワード警視は驚きのために目を見張った。

しかし、レオパルドだけは冷静だった。


「この包丁があなたが犯人である、ということを証明しているのです。」

サンチェスは淡々と言い放った。

アマド刑事は、いまだに黙っていた。

肯定することもしなかったが、否定することもなかった。

「どうですか?否定できないのでしょう?」

サンチェスは畳みかけるようにそう言った。

アマド刑事は肩を震わしている。

サンチェスは勝ち誇ったように微笑を浮かべた。


「はっはっはっはっ!」

突然の笑い声に、サンチェスの微笑がゆがんだ。

アマド刑事が笑い出したのだ。

今まで、明らかに不利な立場にあったアマド刑事がだ。

エクトル警部やエドワード警視も驚いている。

先ほどまでは冷静だったレオパルドも、アマド刑事が笑い出したことによって疑問を感じたようで、先ほどまでの冷静さが消えていた。

数秒間、アマド刑事は笑い続けていた。

そこにいた人たちはアマド刑事の明らかなほどの変貌を目にして、何も言えなかった。

アマド刑事は笑いつかれたようで、笑い終えたころには息が荒かった。


「っは、それが証拠ですか?笑えますね。」

アマド刑事は笑い終えるとそう言い放った。

そこに、ドジではありながらも丁寧なアマド刑事の顔はなかった。

そこにあったのは、人をあざけわらう、殺人鬼アマドの顔だけだった。


「どこがおかしいというのですか。殺人の凶器があなたの邸宅にあったのですから、立派な証拠でしょう!」

サンチェスはどこかムキになって言った。

アマドはさらに笑って、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「だから、それがおかしいのでしょう!そもそも、凶器は包丁ではない!医療メスだ。そこから間違えている人に犯人呼ばわりされるのは困りますなあ!」

そう言って、アマドはさらに笑った。

サンチェスは馬鹿にされたのが癇に障ったのか、黙り込んだ。

アマドは笑い続けた。

しかし、アマドは気づいていなかった。

周りの雰囲気が明らかに変わっていることに。

サンチェスだけではない。

エクトル警部やエドワード警視、レオパルドも、先ほどとは雰囲気が変わっている。

アマド刑事は十秒ほどしてからやっとそのことに気づいた。

アマドは不審感を感じて周りを見回した。


「やっと、罠にかかりましたね。」

サンチェスが静かに言った。

アマドはサンチェスのほうに向きなおる。

その顔は先ほどまでの勝利を確信した表情とは打って変わり、絶望の表情だった。

「事件の凶器が何なのかは国家警察でもわかっていないんだよ。しかし、君は知っていた。それが、君が殺人犯であるという証拠だ。」

状況を理解できていないアマドに、エドワード警視が静かに説明する。

アマドはやっと状況を理解したようで、膝から崩れ落ちた。

サンチェスは、その様子を見て微笑をもらし、煙とともに消えた。

先ほどまでサンチェスがいたところには宝石と共にカードが置かれていた。


――殺人犯の宝物は私にはふさわしくありませんのでお返しいたします。

ただ一文だけが書かれたカードだった。

エドワード警視は、今回に限ってサンチェスを追跡しないこととした。


殺人犯アマドは、逮捕された。

そして、国家警察は組織内に殺人犯が紛れ込んでいたことを正確に市民に伝えた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

第五章の本編はこのお話をもって完結とさせていただきます。

明日には本編ではありませんが、番外編も投稿する予定ですので、そちらも呼んでいただけると嬉しいです。

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