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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
狙われしサンチェス
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42.狙われるアマド刑事

狙われるアマド刑事


アマド刑事はエドワード警視の問いに静かにうなずいた。

安易にうなずいただけで何らかの策に嵌るかもしれないと考えるとあまり簡単には返事が出来なくなる。


――アマド刑事は少しは金持ちか?か…

アマド刑事は頭の中で思考を巡らせる。

アマド刑事が殺害した人物も、同じく金持ちだった。

アマド刑事が犯行を決行した動機もそれぞれの財産をどうにか守ろうとした結果で生まれた怨恨である。

アマド刑事は前でエドワード警視がいくつかの質問をしてくるのを当たり障りのないように答えながら昔のことを思い出す。

しかし、アマド刑事の思考も早々に現実へと引き戻されることとなった。


「ところで、アマド刑事を呼び出した理由だがね、サンチェス関連だ。」

サンチェス、という単語にアマド刑事は反応する。

これは簡単に受け流すだけでは済ませられないような感じだ。

アマド刑事は話に耳を傾け始めた。


「サンチェスの予告状が届いた、と先ほどエクトル君から報告が入った。」

いつもより早い気がする。アマド刑事もエクトル警部と同じようなことを思っていた。

まあ、そう思ったとしてもそこまで大きな問題でもない。

サンチェスの事件を起こす頻度など少ないに越したことはないが、多いからと言ってその分逮捕できる可能性は高まるのだから、一概に悪いとも言えない。

一進一退と言ったところだ。

だから、アマド刑事もそこまで深くは考えなかった。

ただ、エクトル警部がわざわざエドワード警視に報告した、ということには不審感を感じた。

アマド刑事は窃盗犯担当部署に属しているわけではないから詳しいことまでは知らないのだが、エクトル警部はサンチェスの事件に関していくらかの権限は与えられており、エドワード警視に報告する必要は一応はないのだ。

そして、エクトル警部はいつもならエドワード警視に報告することはない。

事件が終わった後に調書を提出することは忘れないエクトル警部であるが、わざわざ予告状が来たことだけを多忙なエドワード警視に報告するのは憚られるようだ。

それなら、なぜ今回はエドワード警視に報告したのだろうか。

アマド刑事は考えた。

アマド刑事としては、エクトル警部が今回に限ってエドワード警視に予告状のことを報告したことと、自分がなぜか窃盗犯担当警視に呼ばれていることが関係していると考えているのだ。


「単刀直入に言おう。サンチェスの予告状の宛名がアマド刑事だった。」

アマド刑事はその言葉に思わず「は?」と言ってしまいそうになった。

失礼な発言をすることはどうにか避けられたアマド刑事だったが、開いた口が塞がらない。

サンチェスの予告状の宛名が詐欺事件の主犯格かもしれないから捜査に同伴するように、とかいう指示だったら納得もしやすかっただろう。

しかし、宛名が自分だったのだ。

流石の計画的殺人犯、アマド刑事でもそのことには驚いた。

そして、危機感を覚えた。

もともと、アマド刑事がサンチェスに関わろうと積極的に動き始めたのは何故であったか。

サンチェスが盗みに入った人物は何らかの犯罪を行っており、サンチェスはその人物の宝物を盗んでいくと同時に悪事を暴いていく。

いつかサンチェスが自分の悪事さえも暴いてしまうのではないか、アマド刑事はそう考えたからこそ、リスクを冒してまでサンチェスを消そうと考えたのだ。

まあ、サンチェスはアマド刑事から挑戦を受けるまではアマド刑事のことなど知らなかったので、杞憂ともいえるのだが。

そして、アマド刑事が危惧していた状況がついに訪れてしまったのだ。

サンチェスに予告状を送られたアマド刑事が逃げ切れるかはわからない。

しかし、いつかはサンチェスを殺そうと考えていたアマド刑事にとってサンチェスとの直接対決は避けることのできないことである。

なら、サンチェスから仕掛けてきた程度のことでおびえることもない。

アマド刑事は思いなおした。

サンチェスに正面から立ち向かって、勝てばいいのだ。

計画的殺人を行った自分なら、サンチェスに勝つこともできる。

アマド刑事はそう思った。


「私は窃盗犯担当部署の所属ではありませんが、国家警察の威信にかけ、サンチェス逮捕のために尽力したいと思います。」

アマド刑事は格好つけて言ってみたが、心の中では今度こそサンチェスを殺すつもりであった。



サンチェスは周りを見ながら様子をうかがっていた。

ここはアマド刑事の邸宅内である。

サンチェスの周りには警官が沢山いた。

それもそのはず。

今日はサンチェスの予告日なのだから。

国家警察の警官がサンチェスに狙われたのだから、今回はエクトル警部だけが担当するわけでもなかった。

いつもお馴染みベテランのエクトル警部はもちろんいる。

そして、エクトル警部直属の上司であるエドワード警視もいた。

また、サンチェスの事件に限定して協力を要請しているレオパルドもいるのだった。

サンチェスの事件を担当したことのある刑事ら、そして私立探偵が一人。

サンチェスとしてはかなりの強敵だ。

今まではこれら全員がそろうことなどほとんどなかった。

それぞれの予定が合うことが少なかったのだろう。


「これは強敵だなぁ~」

サンチェスは隙を見て邸宅の外に出て、周りに人もおらず誰もが見ていないことを確認してから呟いた。

エクトル警部だけでも優秀だとよく言われるのに。

しかし、サンチェスはこれはこれで都合良いと思いなおす。

アマド刑事の悪事を暴くことが出来れば、アマド刑事は優秀な二人の刑事と私立探偵の前に逃げ出すこともできなくなるだろう。

それならば、優秀な刑事が多くいる方がよかったのかもしれない。

サンチェスはそんなことも考えながらまた邸宅内に潜入した。

警官が沢山いるおかげで、サンチェス一人消えたり増えたりしてもそこまで気づかれない。

そういう点では国家警察側の人数が多かった方がサンチェスに有利になったりもする。

国家警察としてはサンチェスを逮捕するために何人もの警官らを用意しているのだから、それがサンチェスの逃亡の手助けになっているとは皮肉なことだ。

まあ、国家警察が悪いわけではない。

サンチェスが臨機応変に対応するからこそ、国家警察が考えた作戦もすべてはサンチェスに有利な方に動いているのだ。

サンチェスの力量によるのだろう。



「アマド刑事、顔色が悪くないか?」

エドワード警視に尋ねられたアマド刑事ははっとして「大丈夫です」と返したものの、本当は大丈夫でなかった。

サンチェスが自分の邸宅に来ることになるとはさすがのアマド刑事でも予想していなかった。

そして、サンチェスが自分の邸宅に来るということは、悪事が暴かれるかもしれないということだ。

アマド刑事は一旦エクトル警部やエドワード警視、レオパルドなどがいるこの場から離れ、外の空気を吸いに行った。

残念ながらサンチェスが外に来ていたのとは入れ替わりだったため、会うことはなかった。

アマド刑事はまだサンチェスが来てもいないのに気疲れがすごかった。

あまり外にいたままでは不審感を与えてしまうかもしれないので、アマド刑事は早めに邸宅の中に戻って行った。

結果として、アマド刑事は外に出て何を得たかと言うと、少しの不安払拭だけであった。


アマド刑事は目の前に立ちふさがるサンチェスの到来に今から押しつぶされそうになっていた。

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