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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
狙われしサンチェス
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36.サンチェスは成功させる

長らくお待たせして申し訳ありません。

定期テストもいったん終わりましたので、いまだに不定期ですが投稿を再開させていただきます。

近頃はテストは終わりましたが、他のことで忙しくなりそうですので、投稿頻度はかなり低くなると思います。

出来るだけは投稿していこうと思っていますので、ご了承ください。

サンチェスは成功させる


エクトル警部はレオパルドと、もう一人の人物の足音に希望の光を見出した。

これこそサンチェスの足音であろう。

サンチェスは未だにこの邸宅の外には出られていないのだ。

エクトル警部は聞こえてくる足音を頼りにサンチェスを追った。

サンチェスはこの先にいるはずだ。

エクトル警部はそう確信していた。

エクトル警部が走れば走るほど、サンチェスの足音には近づいていく。

そして、〝サンチェス〟のところについた。

しかし、そこにいたのはサンチェスではなく、レオパルドだった。

レオパルドはサンチェスを追いかける様子もなく、その場に屈んでいた。

エクトル警部はその状況についていけなかった。

なぜ、サンチェスがいないのにサンチェスの足音が聞こえてくるのか。

そして、レオパルドは何故ここで止まっているのか。

それらの疑問がエクトル警部の脳内を埋め尽くし、混乱しか生じさせなかった。

しかし、その疑問は早々に解決される。

レオパルドはエクトル警部が来たのに気づいて手に持っていたものをエクトル警部のほうに掲げた。

それは録音機だった。

そこからサンチェスの足音が聞こえてくるのだ。

エクトル警部はそこですべてを理解した。

サンチェスは自分たちが追い始めてから少ししてこの邸宅を出て逃亡したのだろう。

そして、しっかりと置き土産まで置いていった。

サンチェスが走り抜ける音を録音した録音機をここに置いて行ったのは追跡を混乱させるためか、それとも余裕があったことを見せつけるためか。

サンチェスの場合は後者の方が可能性が高い。

リスクを冒すとしても、自分が優位であることをしっかりと示す。

それがサンチェスのやり方だ。

だからこそ、エクトル警部ら国家警察はサンチェスを毛嫌いするのだが。

といっても、国家警察の中でもサンチェスファンは少なからずいる。

サンチェスは人のものを盗むとしても、孤児院や老人ホームと言った様々な施設に全額寄付している。

そのことはエクトル警部がすでに調べていた。

サンチェスに盗まれた宝石なり宝物を一流の鑑定士に鑑定してもらい、その額と近頃施設に多額の寄付がされたところの金額を照らし合わせてみたのだ。

すると、多少の誤差はもちろんあったが、大体同じ額だった。

これこそ、サンチェスが義賊である理由であろう。

しかも、今まで負けなしと謳われたベテランエクトル警部を打ち負かしたその手腕には国家警察の刑事であろうとも少しはあこがれてしまうのだ。

サンチェスが小説か何かの主人公だったなら、彼らは心からサンチェスを応援することが出来たのだろうが、実際にあることのため、そうもいかない。

それで、国家警察の刑事らは表面上ではサンチェスを毛嫌いしていて、裏では思ったより応援していたりするのだ。

エクトル警部だって、サンチェスを泥棒としては憎んでいるものの、実際の行動や、レオパルドから聞く話をもとに想像できるサンチェスの性格は嫌いでなかった。

むしろ、一般人だったら普通に友人になりたいと思えるほどだ。

だからと言って、サンチェスと言う泥棒の存在を放っておくわけにはいかない。

だからこそ、サンチェスを逮捕するために駆けずり回っているのだ。


「私たちの負けのようですね。」

レオパルドは静かにそうつぶやいた。

それはエクトル警部に向けられたような口ぶりだが、その口調はエクトル警部に言っている、というよりかは負けたことの悔しさを自分にぶつけているようだった。

レオパルドだって悔しいのだろう。

その能力を認められて特例として国家警察に協力しているレオパルドだが、その能力をもってしてもサンチェスには届かないのだ。

サンチェスを逮捕できないだけで、レオパルドにとっては負けを宣告されているも同然だ。

レオパルドは悔しさを心の中で消化しようとした。

今回サンチェスを逮捕できなかったからと言って、これからも逮捕できないとは限らない。

サンチェスを逮捕するのを諦めるには早すぎるのだ。


「………………………………」

エクトル警部は静かにレオパルドを見守っていた。

レオパルドの悔しさはエクトル警部も痛いほどよくわかる。

サンチェスの事件を担当するまでは負けなしであったエクトル警部でさえ、サンチェスには勝てなかった。

それで、今まで犯人らを逮捕できていたのはただのまぐれでしかないのではないか、とさえ思った。


――サンチェス一人逮捕できなかったからと言ってそう悩むものではない。

エドワード警視にはそう言われたものの、そう割り切れるようなものでもなかった。

しかも、近頃ではサンチェスの事件を担当するのはほとんどがエクトル警部となっている。

サンチェスの事件を担当できるのはエクトル警部だけである、という謎のイメージが警官らにあると同時に、エドワード警視もエクトル警部を信頼しているので、サンチェスの事件はすべてエクトル警部に回ってくるのだ。

エクトル警部としては信頼されているのは喜ばしいことだとは思うが、サンチェスの事件の頻度が高まるということは自分が負ける頻度も高まるということなので、やはりいやである。

まあ、そんなことを言ったとしても上官の決定には逆らえず、サンチェスの事件はエクトル警部が担当することになるのだが。


「では、一旦下に降りましょうか。」

レオパルドは悔しさをどうにか消化しきったらしく、先ほどよりも落ち着いた様子でそう言った。

それはしっかりとエクトル警部に向けられた言葉だった。

エクトル警部は近くから降りられる場所を探して、最終的に自分たちが上ったところから降りた。

警官らの話によると、警官らはエクトル警部とレオパルドが屋根裏に上ってすぐに玄関に直行したらしい。

サンチェスが向かうなら正面玄関付近だと考えたからだそうだ。

エクトル警部は思ったよりも警官らが自分で考えて動けているのが驚きだったため、感心した。

そして、警官らに自由行動を許可しておいてよかったと思った。

そうでなければサンチェスのほうに向かうどころか、ここでずっと留まっているしかできなかっただろう。

ところで、警官らはサンチェスが正面玄関に来る前に到着したらしいのだが、サンチェスは警官らの包囲網を蛇のようにするすると抜けていき、正面玄関から出て行ったという。

やはり、エクトル警部やレオパルドと言った司令官的存在がいないとサンチェスの包囲は難しいのだろう。

エクトル警部らがいたとしても逮捕は難しいのだ。

彼らなしで考えて動けただけでもすごいことだろう。


エクトル警部は警官らを労ってから帰還しようとした。

そして、途中で見つけた箱のことを思い出した。

サンチェスの事件の時に見つかった不審物はその場で開封するのが得策である。

エクトル警部はそう考えた。

エクトル警部の予想通り、箱の中にはアーロン氏の悪事の証拠が入っていた。

その証拠は裏どりをする必要がないほどに明確なものだった。

これはサンチェスからの二つ目の置き土産だろう。

エクトル警部はその場で国家警察にアーロン氏の逮捕状を請求し、アーロン氏を逮捕した。

こうして、スペインからまた一人、悪事を働いて巨万の富を得た人は消えた。


サンチェスは計画のすべてを成功させた。

サンチェスの計画にはアーロン氏の悪事を暴くことまでが含まれていたのだ。

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