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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
狙われしサンチェス
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34.サンチェスと罠

サンチェスと罠


――急がないと間に合わない!

サンチェスは心の中で叫びながらギリギリ怪しまれないような仕草で宝石の保管室に急いでいた。

サンチェスは先ほどまでエクトル警部らのいる応接間で警官に紛れていた。

エクトル警部らの危惧していた通り、警官に扮して話を聞いていたのだ。

そして、エクトル警部の提言したすぐに宝石の保管室に向かう、ということに驚いて今急いで戻っているのだ。

このままではカードで書いた内容と実際の事実が矛盾してしまう。

そんなことはサンチェスのプライドが許さないのだ。

サンチェスはエクトル警部らが宝石の保管室に到着するまでに自分が到着するため、伝令役を装っていた。

といっても、誰もいないはずの宝石保管室に向かう伝令役などいるはずもないのだが。

幸いにもサンチェスは宝石保管室に向かうまでの道で他の警官らに怪しまれることはなかった。



「無線機だと傍受されるかもしれないから、と何人か伝令役を務めさせましたが、それがいけなかったのかもしれませんね。」

レオパルドはそう言って苦笑を漏らした。

エクトル警部も頷きながら指を折ってこの部屋から出て行った警官の人数を数えている。


「では、作戦会議を始めましょうか。」

レオパルドがそういうと、エクトル警部は頷く。

ただ一人、アーロン氏だけは今の状況が呑み込めていないようだった。

先ほど作戦会議は終わったはずだ。

そして、すぐにでもサンチェスのいる宝石保管室に向かうという結論が出たはずだ。

なのに、なぜ今からもう一度作戦会議をする必要があるのだろうか。

「これも作戦ですよ。」

アーロン氏の様子を見かねたレオパルドがそういった。

そう、これはレオパルドとエクトル警部の作戦だったのだ。

といっても、この作戦を立てたのはつい先ほどのことだったのだが。

しかも、レオパルドがその作戦を思いついた時、エクトル警部はそのことを知らなかった。

つまり、エクトル警部はレオパルドの雰囲気と会話の内容からこの作戦に気づいたのである。

作戦会議をするにしてもサンチェスがこの部屋の中にいる可能性がある。

サンチェスは今までに警官に変装することはもちろんのこと、レオパルド、エクトル警部にも変装したことのある変装の達人である。

警官に変装してエクトル警部らの作戦会議を盗み聞くなんてことは簡単極まりないことのはずだ。

そして、そのことにレオパルドやエクトル警部が気付けるかは分からない。

それで、先手を打った。

サンチェスに、作戦会議を〝聞かす〟のである。

サンチェスが聞いているとすれば、すぐにでもサンチェスのいる宝石保管室に向かう、という結論でまとまった時に慌てて宝石保管室に帰ると思った。

それで、レオパルドやエクトル警部はどうにか理由付けをしてすぐに行動する方針に決定した。

そうすることで、サンチェスをあぶりだすことが出来ると思ったのだが……


「この部屋から出て行ったのは伝令役の警官だけでした。それ以前に出て行った警官はいませんでしたし、その後で今までに出て行った警官もいませんでした。」

エクトル警部は悔し気に顔を歪めながら言った。

サンチェスが伝令役に変装していたおかげで、エクトル警部らに疑われずに済んだのだ。

しかし、サンチェスが伝令役に変装していたなんて知る由もないエクトル警部らはサンチェスがそもそもこの部屋にいなかったのではないか、と考えだした。

というより、よく考えてみると、この部屋にいなかった可能性の方が高い。

実際はこの部屋にいたのだが、本当ならこの場所に来ることもリスクを伴うのだから、やめておいた方がいいことではある。

利点としては、エクトル警部らの作戦会議を聞くことが出来るため、今後の計画を立てやすいと言ったところだろうか。

それでも、サンチェスなら作戦会議を聞いていなくてもいつものように臨機応変な対応をすることが出来るはずだろう。

それならば、わざわざリスクを冒してまで作戦会議を聞きに来る必要はないだろう。


そのようなことをレオパルドが語ると、エクトル警部らの顔が明らかに曇った。

自分たちがやっていた作戦が意味のないものだった可能性があるからだ。

しかし、実際にはサンチェスはその作戦にかかって宝石の保管室に移動していた。

エクトル警部らにとっては成功しなかったわけだが、別の方向でサンチェスに対しての牽制にはなった。

成功したのかしていないのかわからないものだ。

エクトル警部らはため息をつきながら作戦会議を始めた。

サンチェスがいるはずの宝石保管室はこの邸宅の端っこにある部屋である。

しかも、出入口は一つだけである。

といっても、サンチェスはただ出入り口をふさぐだけで逮捕できるほど単純ではない。

それで、エクトル警部はある作戦を思いついた。

サンチェスにわざと逃げ道を与えることによって、逃がし、その後でサンチェスを逮捕する作戦だ。

一度はサンチェスに負ける演技をすることで、サンチェスを油断させることが出来るはず。

エクトル警部はそう考えてこの作戦を立てたのだった。


まず、サンチェスのいる宝石保管室に向かう。

そして、エクトル警部が中に入って、サンチェスを逮捕しようとする。

しかし、タイミングを見計らって外に出る。

そうすれば、サンチェスはここぞとばかりに出口から出て逃げようとするだろう。

そこを、大勢の警官とレオパルドで抑える。

これがエクトル警部の作戦の概要だ。

上手くいくかどうかは置いておくとしても、悪くない作戦だと思われる。

エクトル警部はレオパルドやアーロン氏に了解を得たうえでこの作戦を実行に移した。

エクトル警部らは部屋の外に大勢の警官がいることを悟られないようにしながら、宝石の保管室の前に立った。

ここからは作戦通りに立ち振る舞うだけだ。

まず、エクトル警部が勢いよく扉を開け、中に躍り出た。

そして、サンチェスを探した。

実際、そこにはサンチェスがいた。

サンチェスは伝令役に変装して作戦会議の部屋から出て、既に宝石保管室に来ていたのだ。

エクトル警部はすぐにサンチェスを逮捕しようとして飛びかかった。

といっても、最終的にはこの部屋から出ることにはなるので、軽く後ろを見たりして、逃げるタイミングを見計らっていた。

しかし、格闘技全般は国家警察の警部としてしっかりと会得しているエクトル警部だったが、護身術を極めているサンチェスには敵わず、作戦で考えていたよりも早く部屋の外に追い出されてしまった。

そして、その場には煙が充満した。

サンチェスが煙玉を投げたのである。

エクトル警部は受け身を取りながら周りの状況を把握しようとした。

しかし、エクトル警部の視界はただただ白一色に塗りつぶされていて、何もできない。

今安易に動いてけがをしてはいけないので、あまり動かないでいると、少しの時間で煙は引いてきた。

やっと視界が開けたエクトル警部は周りを見渡した。

すると、そこには部屋に入る前と全く同じ光景が広がっている。

レオパルドや警官らは動いていなかった。

エクトル警部は何が起こっているのかわからない様子だった。

作戦では、サンチェスが部屋の外に出てくるのを逮捕するのが彼らの役目だったはずだ。

それなのに、なぜ彼らは動いていないのだろうか。

「サンチェスはどこに行った?」

エクトル警部は近くにいた警官に聞いてみた。

すると、警官は首をかしげて、

「サンチェスならまだ部屋から出てきていませんよ。」

と言った。作戦ではサンチェスが出てきたところを私たちが逮捕する、という感じだったので……と警官が続けていたが、エクトル警部はその言葉を聞く前に部屋にもう一度飛び込んでいった。

警官が言うには、サンチェスはまだ部屋の中にいるらしい。

ならば、サンチェスを逮捕するために動かなくて何が窃盗犯担当警部か。

そう考えて、部屋に飛び込んだエクトル警部の勢いは、すぐにそぎ落とされた。



「サンチェスが、いない‥‥‥‥?」

その場の時間が、その一瞬だけ止まったようだった。

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