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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
狙われしサンチェス
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32.サンチェスの思惑

サンチェスの思惑


アマド刑事の裏の顔は凶悪殺人犯である。

しかし、スペイン国家警察の刑事にもなっている。

それはなぜか、そのことも含めてアマド刑事のこれまでについて記しておこう。


アマド刑事はある動機のもとで連続殺人を犯した。

その動機については今回のことにほとんど関係ないため省略しておく。

そして、国家警察では捜査会議が行われている中、スペイン国家警察に不正編入するため、様々なデータの改ざんを行った。

こうして、アマド刑事は数週間ほどの期間を経て、無事に国家警察に編入されることが出来たのだ。

もちろん、そのことには理由がある。

理由もなく凶悪殺人犯であるアマド刑事が国家警察に入るというリスクを冒すわけがない。

アマド刑事は、捜査状況を把握していたため、自分の指紋が見つかってしまったということも知った。

そして、このままではすぐに人物が特定されてしまうことを怖れ、そのデータを消しにかかったのだ。

スペイン国家警察のデータベースは一か所に集められており、古いものは書類にまとめてあり、新しいものはコンピュータの中にデータ保存されている。

そして、国家警察の人間であればそのデータをいつでも閲覧することが出来るのだ。

しかも、国家警察のデータのセキュリティと言うのはそこまで堅いものではない。

コンピュータにデータ保存をする、というシステムが最近導入されたばかりだからだろう。

ここまでデータを消去することを簡単にするような状況があるのだ。

アマド刑事はリスクを冒すことを決意した。

まあ、一番手っ取り早く、リスクも比較的少ないのはハッキングによるコンピュータへの侵入である。

しかし、残念なことにアマド刑事はその手のことには知識が少なく、うまくいくとは思えないのだ。


ということで、国家警察に編入したアマド刑事は他の刑事らが忙しくなったころを見計らってデータベースへ赴き、少しずつではあるが、自分に関するデータを消去していった。

初めに消去したのはもちろんのこと自分の指紋のデータである。

そのデータが残っている限りは自分が犯人であると特定されるかもしれないからだ。

それが無くなれば、アマド刑事が犯人である、と断定することは出来なくなる。

今のところ捜査線上にアマド刑事の名は上がっておらず、このままいけば迷宮入りとなるだろう。


………そう思っていたのに。

アマド刑事は新たな脅威が現れたことを知る。

それが突然出てきた泥棒である、サンチェスである。

サンチェスは泥棒であるのに大金持ちの宝石を盗むとともにその人物の悪事を暴き、宝石は様々な施設に寄付しているという。

アマド刑事は、低い確率ではあるが、自分がサンチェスに狙われてしまってはどうしようか、と考えていた。

それから何回もサンチェスのニュースを聞くたびにその不安は募っていった。

だからと言って、何をすることもできない。

いつどこに現れるかはサンチェスの予告状で知ることが出来るかもしれないが、そこには大量の国家警察がいるのだ。

自分が何か変な動きをすることは出来ない。

それに、毎回国家警察から逃げ切るほどの力量を持つサンチェスだ。

あのベテラン警部、エクトル警部でさえ逮捕できたのはたったの一回なのだから、自分が追い詰めることなんてできる気がしない。

それで、アマド刑事はいつも不安を募らせ、いつサンチェスの矛先が自分に向くのか、と考えていた。


そんな時だ。

偶然にも、アマド刑事はサンチェスの事件に合法的に同行する機会を得る。

これはチャンス!と、アマド刑事は思った。

しかし、周りには窃盗犯担当部署の警官が沢山いる。

そんな中でどうしたらいいのか。

動けるはずもない。

そう思っていたアマド刑事は、狙われた人物の名前を見て天が自分に味方したことを悟った。

狙われた邸宅は、地下に迷路のような地下通路があるという邸宅だった。

それなら、サンチェスはほとんどの場合その場所を逃走経路として用いるだろう。

その時に、自分が待ち伏せして、殺してしまえばいいのだ。

アマド刑事は考えた。

数日前の事件でサンチェスの前に飛んできた手榴弾、あれはアマド刑事の仕業だったのである。

サンチェスも、流石に後ろ姿だけではほとんど特定には至らなかったのだろう。


アマド刑事はサンチェスによけられたことに激昂していた。

そして、感情のままに動き、サンチェスの家に挑戦状なんてものを投げ込んだ。

こんなことをすれば自分に矛先が行くかもしれない、ということは普段のアマド刑事ならわかっていたかもしれないが、激昂していたアマド刑事は判断力が低下していたのであろう。


そして、今に至るというわけだ。

サンチェスもアマド刑事が今の様に至った経緯については詳しく知っているわけではなかったが、大まかな条件は知っていたため、アマド刑事を警戒していた。

アマド刑事だって窃盗犯担当の刑事らが大勢いる中で行動を起こすことは流石にできないだろうが、機会があればサンチェスを殺そうとするだろう。

サンチェスだって常時警戒態勢はとっている。

しかし、それでも隙は生まれるだろう。

そのためにサンチェスはレオパルドを事件に呼んだ。

本当なら、レオパルドなどを呼んで自分の首を絞めるようなことはしないほうがいい。

しかし、アマド刑事が自分を狙っているということが分かっているのだから、少しでも安全を確保しておいた方がいい。

レオパルドならばアマド刑事の怪しいところを見つけてくれるだろう。

まあ、アマド刑事との接点がないかもしれないが、少なからず牽制の役割を果たしてくれるはずである。

サンチェスは、そのためにレオパルドの予定を合わせてまでレオパルドが自分の起こす事件にこれるようにしたのである。

今回の事件はサンチェスの思惑の通りに進んでいるのだ。

今のところレオパルドはアーロン氏に探りを入れている最中ではあるが、アマド刑事はエクトル警部やレオパルドを怖れているため、あまり行動を起こしていない。



「先手必勝だ。」

サンチェスはそう呟くと、周りに人気がないのを確認し、カードを置いた。

サンチェスは既にアーロン氏の邸宅内に侵入しているのである。

もちろん、そのままの姿では普通に逮捕されてしまうので、警官に変装しての侵入である。

まあ、そのような恰好であろうとも、怪しい行動をすれば普通に危ないので、できるだけは人がいない時にやっている。

サンチェスは、計画の手順の一つ目として、カードを置いたままその場を去った。

サンチェスが向かうのは、宝石が置かれているところである。

エクトル警部やレオパルドがアーロン氏に宝石の保管室について聞いたのとは反対に、ただの一警官であるはずのサンチェスは宝石の保管場所について一切情報を得ていなかった。

それでも、サンチェスは子供のころから探偵を目指していたレオパルドとともに育ってきたのである。

しかも、サンチェスにだって少しばかりの推理力はある。

レオパルドには劣るかもしれないが、一般人よりかは優れているはずである。

レオパルドが簡単に気づけた事実に、サンチェスがまた気付くのは必然であったのだろう。

サンチェスは宝石の保管部屋の前に来ると、何の躊躇いもなく部屋の中に入った。

周りには人の気配もなかったし、中に入るのを見たものはいないだろう。

中は普通の物置部屋だった。

この中にサンチェスの探す宝石があるのだろう。

サンチェスは出来るだけ音を立てないように努力しながら宝石を探し始めた。


サンチェスが先ほど置いたカードにエクトル警部らが気付くのが早いか、サンチェスが宝石を見つけるが早いか。

これはかなり今後を左右する戦いなのだ。

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