サンチェスと警視の対峙
2.サンチェスの部下不要大作戦 の続きとなっております。
出来ればそのお話を読んでからこのお話をお読みください。
サンチェスと警視の対峙
打ち合わせを終えたエクトル警部、エドワード警視、アマンシオ氏は指定の位置についた。
エクトル警部とエドワード警視が連れてきた国家警察の警備隊も、アマンシオ氏が集めた警備隊も、自分たちの持ち場につき、サンチェスが現れるのを待っていた。
サンチェスは日にちについては予告状に書いていても、正確な時間まで書いていたことはない。
そのため、いつ来るかはわからないという緊張感がアマンシオ氏の邸宅には漂っていた。
「エクトル警部!こんなものが見つかりました。」
国家警察の警官がエクトル警部のもとに走ってきた。
警官の手の中には招待状程度の大きさのカードがあった。
エクトル警部は何だろうかと思いながら、警官からそれを受け取り、中身を確認した。
カードの内容
すでに私、サンチェスはアマンシオ氏の所有するアース・ルビーの保管室の中にいます。
しかし、せっかくならば皆さんにも私が宝石を盗み、華麗に逃げ去るところをご覧いただきたいと思っております。それで、お手数ではありますが、一度こちらまで来ていただければと思います。
エクトル警部はそのカードを読んで憤りを示し、すぐにエドワード警視のもとに急いだ。
エクトル警部は合流したエドワード警視にサンチェスからのカードの内容を手短に伝え、保管室に急行した。
しかし、あまり大人数で行ってもサンチェス逮捕に手間取るかもしれないと考え、国家警察の刑事らを五人ほどつれ、保管室に向かった。
しかし、ここでエドワード警視はあるミスに気付くことになる。
「どこに行かれるのですか?エドワード警視。」
エドワード警視は向かう途中にいる国家警察の警官に聞かれた。しかし、あまり大勢連れて行くわけにもいかなかったため、
「アース・ルビーの保管庫だ。サンチェスがいるらしい。あまり大勢で行っても逮捕に手間取るだけだから君たちは一度ここで待機だ。」
と言い切り、先を急いだ。が、これは国家警察の警官だった場合に限る。アマンシオ氏の警備隊の場合は、
「どこに行かれるのですか?」
エドワード警視はアマンシオ氏の警備隊に聞かれた。
国家警察の警官らは一瞬のうちに情報共有をしていたため、エドワード警視らも何か聞かれることはなく、保管室に向かえていた。
しかし、アマンシオ氏の警備隊が集中しているところに差し掛かった瞬間に何度も何度もそのことを聞かれるようになった。
国家警察の警官らに対していったように、エドワード警視は軽く言い切ったのだが、アマンシオ氏の警備隊らは納得しなかった。
アマンシオ氏が集めた警備隊の多くは出世を目的とした人たちが多い。
だから、サンチェスがいるとエドワード警視が明言したとたんに警備隊の目の色が変わった。
できるものなら自分がサンチェスを逮捕し、目立ちたい、と考えるものがほとんどだった。
いつもならそのような考えはうれしいのだが、今はただ面倒なだけだ。
何度も断っているというのにどうにかついてこようとする。
エドワード警視は最後に軽くきつく断ったのち、早歩きで保管室に向かった。
警備隊はエドワード警視らが曲がり角を曲がるまでは待機していた。
しかし、エドワード警視らの一行が見えなくなった途端に、追跡を始めた。
エドワード警視らもすぐにその気配に気づいたが、サンチェスがしびれを切らして勝手に逃亡したら困るため、ついてきていることを黙認し、そのまま歩いて行った。
エクトル警部や、ついて行くことを許可された警官らもエドワード警視の意図を汲み取ったらしく、後ろからあからさまに追跡をしてくる警備隊らに何も言わなかった。
アース・ルビー保管室前
この保管室を開けるのは数日ぶりだ。
一週間ほど前からこの邸宅に警備を置いていたのだが、何度も何度もルビーの無事を確認したわけではなかった。
もしかしたらすでにサンチェスは警官に紛れて邸宅内にいるかもしれない。
サンチェスに見られているかもしれない中でルビーの保管されている部屋に頻繁に出入りすれば「ここがルビーの保管室ですよ!」と教えていると同じことだ。
それで、数日前から一切中を確認したことはない。
しかし、その部屋は一つしか出入り口がなかったし、天井も通れるところはない。
たった一つの出入り口は信頼できる国家警察の警官らが守っているということで、中の安全はほぼ百パーセント確証されていた。
が、サンチェスはすでに中にいるという。
どうやってこの中に入ったのだろう。
そして、どのようにしてここが保管室だとわかったのだろう。
そう思うとエクトル警部も疑問しか浮かばなくなってきた。
そんなことを考えている間にもエドワード警視は早速開けようとしている。
周りの者たちが緊張感に包まれ、いつでも中に突入できるようにしている中、エドワード警視はドアノブに手をかけたまま動かなかった。
さすがのエドワード警視でも少しは緊張しているのだろう。
しかし、エクトル警部が「どうぞ」というように頷くと、エドワード警視は覚悟を決めてドアノブをまわした。
エドワード警視が音がするほどに勢いをつけてドアを開けると、中の照明はついていなかった。
しかし、暗闇の中にサンチェスらしき人物の影はあった。
ルビーは無事のようだ。警官らと警備隊はその影を目で確認するとすぐに突入した。
エクトル警部はまず照明をつけようとしたが、確実にサンチェスを捕まえたい国家警察の警官と、あわよくば自分がサンチェスを逮捕して、栄誉をもらおうと思っているような警備隊の人の波にもまれ、照明のスイッチまでたどり着くのさえ時間がかかった。
そして、エクトル警部が照明をつけると、中には警官以外誰もいなかった。
それに、ルビーもなくなっていた。
「どういうことだ!ルビーが消えるのはまだわかる。サンチェスが盗んだのだろう。しかし、サンチェスまで消えるとはどういうことだ!」
エドワード警視は思わず叫んでしまった。
それもそのはずだ。
人間がいたはずの場所から消えてしまったら誰でも驚くに違いない。
エクトル警部もこの謎は解けなかったらしく、考えるように俯きながらうーん…と唸っていた。
エドワード警視は邸宅内をくまなく捜査させたが、警官か警備隊以外は見つからなかった。
それで、エドワード警視もサンチェス捜索は諦めたのだが、どうやってサンチェスが消えたのかはいまだにわからなかった。その時だ。
ブゥーン
どこかで車のエンジン音が聞こえ、どこかへ去っていった。
サンチェスが逃亡を成功させたのである。
エドワード警視はサンチェスが逃げて行ったのであろう方向を見ていた。
そして、一応のため玄関の外まで行ってみた。
しかし、何か証拠になるものはなく、事件は迷宮入りと〝なりそうだった〟のだが、
「サンチェスの手口についてご説明しましょう。」
エクトル警部やエドワード警視も聞いたことのない声がアマンシオ氏が集めた警備隊の中から聞こえた。その声には確信が込められていた。
エクトル警部やエドワード警視はその人物のことを知らなかったが、なぞに安心感があったため、発言を許可した。
すると、その男は一歩前に出て話し始めた。
「まずサンチェスは、私と同じようにアマンシオ氏が集めていた警備隊に入りました。サンチェスは身体能力も高かったので、申し分なしで合格だったでしょう。」
謎の男が言う言葉に、アマンシオ氏はうんうんと頷いた。
謎の男は話を続けた。
「そして、まだ保管室の警備が薄かったうちに中に段ボールか何かで作った人の影を置いておきました。暗闇ならば簡単にはそれが段ボールだとは気づけないと考えたのでしょう。そして、カードをわかりやすいところにおいて置き、エクトル警部らが保管室に向かう途中で待ち構えて、どうにかついて行ったのです。そうして、警官らや警備隊がサンチェスに見せかけた段ボールに驚いて突入し、乱闘になっているうちに段ボールを懐などに折って隠したんでしょう。乱闘になっている中だからこそ、段ボールを隠したとしても誰も気づかなかったのでしょうね。そして、ルビーを盗んでどこかに隠れていて、いいタイミングを見計らって逃げ出したのです。」
謎の男が言い切ると、周りは沈黙に包まれた。
エクトル警部やエドワード警視も驚きのあまり軽く口を開けたまま固まっていた。そして、最初に声を出したのはエクトル警部だった。
「君は何者なんだね?」
謎の男はエクトル警部に返答しようと思ったが、
『そんなことは今じゃなくても聞けるんですから、もっと大事なことを優先してください。』
どこからか聞こえてきたサンチェスの声に上塗りされた。
エドワード警視は、サンチェスの声が聞こえてきた方を見たが、だれもいなかった。
その代わり、トランシーバーが落ちていた。
サンチェスは逃亡するときに置いておいたのだろう。
エクトル警部らがサンチェスに言葉を返すより先に、サンチェスがまた話し出した。
『この邸宅の外壁、どこかでめくれるんですが、探してみてください。』
エクトル警部もエドワード警視もどういう意味か分からず、きょとんとしていたが、アマンシオ氏が明らかに動揺しているのを見ると、何かあるのだろうとわかった。
それで、アマンシオ氏が逃げだしたりしないように目を光らせながら、警官ら全員でめくれるところを探した。
すると、あるところでめくれた。
めくっていくと、壁一面に紙幣が一枚ずつ張り付けてあった。
脱税分の金額と照らし合わせてみると、ちょうど合致した。
アマンシオ氏は邸宅の外壁に脱税した金を隠していたのだ。
こうして、アマンシオ氏は脱税の罪で逮捕された。
次話は6月10日の午後八時の投稿となります。
一日空いてしまいますが、どうかご了承ください。