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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと戻ってきた日常
28/104

24.サンチェスは突破する

サンチェスは突破する


エクトル警部は出来るだけサンチェスから離されないようにしながら走って追いかけていた。

サンチェスは時々後ろを振り返ったりしながらエクトル警部の様子を見ている。

サンチェスはそれほどの余裕があるのだ。

しかし、サンチェスももうすぐ余裕をなくすはずだ。


「あ、サンチェス!サンチェス発見!」

「何!?どこだ!」

「こっちです!」

「こちら中間地点、サンチェス発見。至急救援を。」


エクトル警部がサンチェスを追いかけていることを見つけた警官らが続々と集まってきたのだ。

サンチェスの後ろから、横から前からというように様々な方向から警官は現れる。

警官らを基本的に自由行動にしておいてよかった。

エクトル警部はこの時思った。

そうしていたからこそ、サンチェスに不意打ち攻撃を仕掛けることが出来ているのだ。

しかし、サンチェスは後ろから来た警官は足の速さで差をつけ、横から来た警官は不規則な動きで翻弄し、前から来た警官は頭上を飛び越える、というようにして警官らをまいている。

このままでは数分でサンチェスが包囲網に到達してしまうだろう。

そう考えていた時、急にサンチェスが方向を変え、森の中に入っていった。

この病院は山の中にある。

全体的に整備された山ではあるが、ところどころまだ森が残っていたりする。

そのようにして家屋が周りにないからこそ、エクトル警部の作戦を実行できたのだが。


サンチェスが急に方向転換したことに、追っていた警官はもちろんのこと、エクトル警部までもが驚いた。

先ほどまではサンチェスも包囲網まで一直線だったのに、急にわき道に入ったのだ。

しかも、山道などではなく森の中に。

今回の作戦のために使われている人材のほとんどは森に詳しく、身軽に動ける人物ばかり。

さすがのサンチェスでもそのようなものたち相手に森の中で勝てるわけも…


エクトル警部と周りの警官らは絶句した。

彼らの視線の先には明らかに普通ではない動きをするサンチェスの姿があった。

茂みや木の根っこなど、行く手を阻むものをすべて飛び越え、何もないところにだけ足をつくのは普通ならできない芸当だった。

森に詳しく、身軽に動けるはずの警官らもサンチェスには一切勝てず、どんどん離されていく。

警官らもサンチェスほどの跳躍力と、瞬時に茂みも何もない地面を発見できる観察眼は持っていなかった。


サンチェスは軽く後ろを振り返る。

誰も追って来てはいなかった。森の中でまくことに成功したのだろう。

サンチェスは周りに誰もいないことを確認したのち、ゆったりと歩き出した。

今サンチェスの姿はエクトル警部と同じだ。

エクトル警部が誰もいないのに走っているのは少し不自然だろう。

悠然と歩いていた方がそれらしい。

途中で警官にも会ったが、エクトル警部の姿と声を使っていることで、一切気づかれることはなかった。


そして、最難関である、レオパルド。

サンチェスは怪しまれないようにするため、できるだけ大胆に状況報告を済ませた。

そして、レオパルドは何事もなかったようにその場を去っていった。

レオパルドにも変装は見破られなかったのだ。

サンチェスは安堵のため息を漏らしながらまた歩き始めた。


サンチェスはいろんなところを歩き回りながら時間をつぶした。

サンチェスがした予告としては夕方五時。それだけだ。

サンチェスとしては夕方五時に病院を脱出する、という意味だったため、ちょうど五時になって病院を脱出したサンチェスは、これからどれだけ時間をかけて警官隊の包囲網を突破してもいいわけだ。

サンチェスはここからいくつかの工作をしてから警官隊の包囲網のところに行こうと思っていた。

さすがにエクトル警部の姿になっていたとしても警官隊の包囲網から出ることは難しいだろう。

それらしい理由をつけなければならないし、エクトル警部のことだから他の事件が入らないように何か手配しているはずだ。

なら、サンチェスがほかの事件で…というのではすぐにばれてしまう。

サンチェスのチャンスはたったの一度だけだ。

一度包囲網の警官にばれてしまってはせっかくエクトル警部の姿になった意味がない。

包囲網の警官にばれたらすぐにでもほかの場所の警官にもばれることになり、サンチェスがエクトル警部の変装をしている、という情報が流れればエクトル警部の姿のままではいられない。

そのため、サンチェスは包囲網の警官隊を一度で突破する必要があるのだ。


「まずは、取り巻きを作るところからかな。」

サンチェスは作戦を口に出して確認した。エクトル警部はサンチェスを追いかけている間に警官らが集まり、今も警官らの取り巻きを連れているはずだ。

ならば、こちらも同じようにしなければならない。

ということで、周りにいた警官らにサンチェスが見つかったという嘘をつき、一緒に追いかけた。

いるはずのないサンチェスを。

警官にはサンチェスが先ほどまでいたのだが、一瞬で逃げてしまい、複数人で追いかけたほうがいいだろう、と言っておいた。

警官らは全員その言葉を信じてエクトル警部――本当はサンチェスだが――について行った。

しかし、ずっと周りにいるというよりもその周りにいながらサンチェスを探すという感じだった。

その方がサンチェスにとっては都合がいい。

これからの計画のこともあり、あまり近くにいられているのは困るのだ。


サンチェスはエクトル警部の姿のまま、いろんなところを歩き回り、いるはずのないサンチェスを探し続けた。

そして、包囲網の警官隊のところに到着したサンチェスは軽く周りを見回して言った。

「包囲網のところまで来てしまったか、サンチェスはいないようだな。」

そして、一周見回し終わるか否かのところでエクトル警部はあっ、と声を上げた。


「サンチェスだ!今、木々の間にサンチェスが!追いかけろ!包囲網担当の警官も一時的にサンチェス逮捕に尽力!」


エクトル警部の突然の命令に周りの警官は驚いて一瞬固まった。

しかし、エクトル警部からの指示だ。

警官らはすぐに走り出した。サンチェスもすぐに走り出した。が、


ドテッ


少しあからさまにこけた。エクトル警部の周りにいた警官らはすぐにエクトル警部のほうに走っていった。


「私のことより、サンチェスを逮捕しろ!」

エクトル警部が叫んだため、エクトル警部に駆け寄ろうとしていた警官はほとんどサンチェスのいるという方に向かって走っていった。

まだ踏ん切りがつかずエクトル警部の近くにいた警官らも、エクトル警部が軽く立ち上がったのを見て安堵し、サンチェスがいるという方に向かって走っていった。


サンチェスはここにいるのだが。

サンチェスはこのようにして易々と包囲網を突破…というよりも包囲網の会った場所を通り抜けた。

直に森の中にいるというサンチェスを逮捕するため向かっていった警官らもサンチェスがいないことに気づいて元の場所に戻ってくるだろう。

サンチェスもこのままでは捕まってしまう。

それで、サンチェスは急ぎながらも悠々とその場を立ち去った。


エクトル警部がサンチェスの包囲網突破を知ったのは少し後、サンチェスに言われて居もしないサンチェスを追っていた警官らが疑って戻ってきてエクトル警部に報告した時だった。

その時にはすでにサンチェスは近くにはおらず、第二の隠れ家に戻っていた。


こうしてサンチェスの入院生活は幕を閉じ、山奥の病院脱出劇も終わりを告げた。

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