22.サンチェスは予告する
サンチェスは突破する
サンチェスの案を実際に実行するか
レオパルド、エクトル警部、セフェリノ警部の三人は今日もこの話題で話をしていた。
セフェリノ警部はエクトル警部のように窃盗犯担当ではないが、非番で時間の余っている間ならエクトル警部とレオパルドの相談にも乗ることが出来る。セフェリノ警部は先輩刑事であるエクトル警部や、ともにアレキザンドラ社討伐を果たしたレオパルドの力になりたいと考えているのだった。
ところで、レオパルドらは早くサンチェスの対策を考えねばならないと急いでいるが、今はそこまで急ぐ必要はない。未だサンチェスは怪我が治っておらず、動けるような体ではないのだ。
この作戦の欠点はどこにあるだろう。
サンチェスが言っていた、というところが欠点なのだ。
サンチェスが言っていた作戦ということは、その作戦に対する対策は立てられているはずだ。その作戦を実行すればサンチェスを助けることになるのではないか。
そう思うとやはり作戦の実行は難しいのだった。
病院に警官を置ければ一番いいのだろうが、それは病院側から断られてしまった。
ここは病院だ。サンチェスだけではなく、ほかの一般市民も患者として居る。
それに、看護師や医者などもいる。そのように病院から動かせない人もいる中で、警官を置くのはそれらの人に恐怖感を与えることとなる。
そのため、病院内に警官を置くことは出来ない。
だからこそ、レオパルドらはサンチェス対策が思いつけず苦労しているのだった。
サンチェスに言われる前にサンチェスと同じ作戦を思いつけていれば…
そうすれば何も疑う必要もなく作戦を実行できていただろう。レオパルドはそう考えながらもう一度思考をまわす。
まず、サンチェスはなぜ急に案を授けようと考えたのだろうか。
サンチェスの話を聞いた限りではかなり前、というよりは一番初めの時から自分たちの話を聞いていたようだ。
なら、サンチェスはもっと早く作戦を思いつくことが出来たのではないか。
わざわざ自分たちに策を与えずとも、自分たちが何らかの案を思いつくまで待ってその対策をすればよかったのではないか。
レオパルドにはそのような疑問が出てきた。
サンチェスにはどのような意図があったのだろうか。
自分たちに策を与えても自分たちがその策を利用するかはわからない。なら、サンチェスの意図はどこにあるのだろうか。
ただ単に策を思いついたから伝えたなど単純な理由ではないだろう。
そう考えれば策を実行するかどうかよりもそのことをしっかり話し合った方がいいように思えた。
「そういえば、今思ったんですけど…」
レオパルドはエクトル警部とセフェリノ警部に声をかけた。
エクトル警部とセフェリノ警部は一度考えを止め、レオパルドの方を向いた。二人はレオパルドが何らかの策を思いついたのか、そうでなくとも策を立てるヒントになるようなことを思いついたのか、と期待していた。
「サンチェスはどういう意図で作戦を教えてきたんでしょう。」
ああ、確かに。エクトル警部とセフェリノ警部は納得した。
サンチェスの意図が分かっていない状況で作戦を実行するのは難しい。
そもそも、作戦自体実行するのさえ難しい。
病院内に警官を置けないのなら病院の周りを大きく囲めばいいのではないか。
サンチェスが言ってきた作戦はそのようなものだった。
確かに、そうすれば病院側の要求通りだし、サンチェスを完全に包囲できると思った。
しかし、欠点も少しはある。
まず、先ほども言ったようにサンチェスが言っていた作戦だということが欠点だ。
他にも、人数が必要であることや、広範囲に包囲網を敷くことになるから、統制が執りにくいということも欠点としてあげられる。
それらをカバーできればこの作戦の実行は出来るはずだ。
「サンチェスの意図はわかりませんけど、面白いことを思いつきましたよ。」
突然、エクトル警部が言った。
エクトル警部は何かを思いついたらしく、早く言いたいとうずうずしているようだった。
レオパルドとセフェリノ警部が話してください、というとエクトル警部は話し出した。
「サンチェスが言った作戦をさらに改良して実行するんです。そうすれば、サンチェスが自分の言った作戦に対する対策を考えていても突破できると思いませんか?」
レオパルドとセフェリノ警部はそういえばそうか、というような表情でエクトル警部を見ていた。
レオパルドとセフェリノ警部はエクトル警部に詳細を聞きながら、これなら人数は必要になるものの、統制は執りやすいと思った。
そして、エクトル警部は一度国家警察へ赴き、上司であるエドワード警視にできるだけ多くの人間を集めることを要請しに行った。
「回復してよかったね、サンチェス。」
境
今日もレオパルドはサンチェスの見舞いに来ていた。サンチェスはついに全回復し、退院できるほどになったのだ。
レオパルドはサンチェスが回復したことを喜んでいた。
しかし、サンチェスが回復したということは、サンチェスがいつ逃げ出してもおかしくない状況になったということだ。
すでにサンチェスが逃げ出した時の対策は立てられているが、サンチェスに通用するかはわからない。
サンチェスが退院できるようになった今、サンチェスはすぐにでも逃亡しようとするだろう。
今日はエクトル警部も職務として病院に来ている。これからは毎日のようにこの病院に来るようになるだろう。
サンチェスがいつ逃亡するかわからないからだ。逃亡したときに担当刑事であるエクトル警部がいないのでは配置された警官も動くことができない。
エクトル警部はいつサンチェスが逃げ出すのか、それをいつも通り予告状にでも書いて送ってくれれば、とありえないことまで考えだした。
「エクトル警部!」
レオパルドが急にエクトル警部の控えている病室に入ってきた。
エクトル警部は一人の部屋で静かだったところに大声で名前を呼ばれたため、とても驚いた。
しかし、エクトル警部はもうすぐ、もう一度さらに驚くことになる。
「サンチェスがこれをエクトル警部に、と。」
エクトル警部はレオパルドから封筒を受け取り、観察した。
レオパルドは微笑を浮かべている。レオパルドは中身が何かを知っているか、大体の予想がついているのだろう。
エクトル警部はあまり封筒に傷をつけないようにしながら開いた。
サンチェスが自分に渡すようレオパルドに頼んだという封筒の中身は、予告状だった。
エクトル警部は思わず驚きで声を上げそうになった。
先ほど、自分はどのようなことを考えていただろうか。
サンチェスがいつ逃亡するかわからないから、予告状でも送ってこないか。自分はそんなことを考えていたのではないか。
そして、それが本当のことになったのだ。
エクトル警部は自分が考えていたことが本当に起こったことが信じられなかった。
しかし、
「エクトル警部?どうかしましたか?予告状を見てください!サンチェスの予告日は今日の夕方五時ですよ?」
レオパルドの声でエクトル警部は我に返った。そして、
「今日!?」
本当に叫んでしまった。