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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと戻ってきた日常
25/104

21.サンチェスは病院で計画する

サンチェスは逃亡する


レオパルドは今日も病院に通っていた。

アレキザンドラの罠にかかってけがをしたサンチェスの見舞いに行くためだ。

「サンチェス、入っていいかい?」

レオパルドが軽く声をかけるとサンチェスからは軽快な返事が返ってきた。レオパルドはサンチェスが今日も元気そうなのに安堵しながら部屋の中に入った。

サンチェスの姿は何度見ても痛ましい。包帯を巻かれ、ベッドに横たわるサンチェスの姿などレオパルドでもそう見るものではなかった。

「気分はどうだい?」

レオパルドはいつも通りの質問を繰り返す。サンチェスは「いつも通りだよ。」と返すが、これも毎日のことである。サンチェスは日に日に回復していっている。しかし、


サンチェスはいつ逃げだすのか。


レオパルドはいつものように元気そうなサンチェスを見てそう思う。

サンチェスが順調に回復しているのはうれしいことだが、回復すれば回復するほど、いつ逃走を図ってもおかしくなくなる。

レオパルドはそのことを考えて毎日不安だった。そのため、自分ほどは来れていないが、非番の日には必ずと言っていいほどサンチェスの見舞いに来ているエクトル警部やセフェリノ警部とも作戦会議をしていた。

サンチェスが逃げだした時にはどう対応するか。そして、サンチェスが逃げだす前にはどのような対策を立てておくのか。それらを会うたびに話し合っているのだ。

三人ともサンチェスに聞かれないように、そして気づかれることもないように話し合いを続けていた。

しかし、

「ぜーんぶ、聞こえてるんだよなぁ~」

サンチェスは今日も困ったように頬杖を突く。サンチェスはわざわざ三人の会話を盗み聞きしようとは思わないが、自分が逃げだすときの対策だとわかれば話は別だ。相手の様子を知っているほうがこちらも対策しやすい。

サンチェスとしてもすべて聞こえていたとしてもただ少しだけ罪悪感が湧くだけだ。困ったりはしない。サンチェスが困っている理由はほかにあるのだった。


『このことはサンチェスだけには気取られないようにしてください!』


サンチェスはため息をつきながら今までに三人が作戦会議をしていた時の最後の言葉を思い出す。

サンチェスだけには気取られないように、と思っていたらサンチェスだけに気取られている。

サンチェスはなんだか何とも言えない気分になったのだった。

ところで、三人は何度も相談はしているが、良い計画が思いついていなかった。


なにか良い作戦はないものか


レオパルドは今日もそんなことを考えながらサンチェスの病室を出る。サンチェスは一応は犯罪者だ。そのため、あまり長い時間面会することも叶わない。

もう少し暴れるようならベッドの上で拘束されているだろう。サンチェスがあまり暴れず、静かにしているからこそ、面会も可能だし、ベッドの上で自由に過ごせているのだろう。

レオパルドとしてはサンチェスがおとなしくしている間に良い案を思いつかねばならない、ということでかなり焦りだしていた。


「お疲れ様です。エクトル警部、セフェリノ警部。」


今日は珍しく二人ともが非番の日。主にどちらかだけが非番なのだが、今日は偶然二人の非番が重なっているのだ。

レオパルドはこの機会を逃さないようにこの時間を有意義に使おうと決めた。

サンチェスとの面会時間が限られているのと同様に、三人で作戦会議できる時間も限られている。

その理由として大きいのは病室の一つを借りているからだった。

三人は、サンチェスが逃亡を図ったり、容体が急変したりした時にすぐに対応できるように、とサンチェスの病室のすぐ横の病室を一時的に借りてそこで作戦会議をしているのだ。

まあ、そのせいでサンチェスが盗み聞きできているのだが。

三人は〝常人なら〟聞き取れないほどの声量で話していた。しかし、〝サンチェスなら〟聞き取れる声量だった。

サンチェスは耳もよいのだった。それは、常人では聞こえない声量の話も聞き取れるほどだ。

三人はサンチェスが常人であるという前提のもと行動している。

が、サンチェスは常人ではない。


数日後、レオパルドが病院に訪れた。

ここ最近事件の依頼が多く、あまりサンチェスの見舞いに来る時間がなかった。

やっとそれらすべての事件を片付けて、今日見舞いにこれたのだった。

いつも通りサンチェスの体調を尋ねながらサンチェスの病室に入ったレオパルドは、数秒後驚きのあまり顔をこわばらせることになる。



「レオパルド、僕が逃げてもいいように対策は出来たかい?」



サンチェスはレオパルドら三人がいまだにサンチェス対策を立てられていないのを理解してそう言った。

レオパルドはサンチェスが急にそんなことを言ったため、驚きで顔をこわばらせた。

「どうして…知ってるんだい?」

やっと絞り出せた声はそれだけだった。

サンチェスが、なぜ知っているのか。

サンチェスが自分たちの会話を盗み聞きしているとは知らないレオパルドはその疑問が出てきた。

サンチェスの方を向いてもただニコニコしているだけで何も言わない。レオパルドはそこでサンチェスにすべて聞かれていたことを感じ取った。

「聞こえていないと思ってたのに…」

レオパルドは自分たちの作戦が失敗していることを知ってため息交じりにそう言った。

サンチェスは微笑を浮かべて「ご名答!」と満足げだ。

レオパルドはなぜかうんうんと頷いている。


「いい案あるんだけど…聞きたい?」


レオパルドが先ほどよりも明らかに固まってしまった。

サンチェスはそうなることは予想できていたため、あまり驚くことはなかった。

サンチェスはレオパルドが銅像から人間に戻ってくるまで待ってから「どうする?」ともう一度聞いた。

レオパルドは思案した。

サンチェスの誘いに乗る方がいいのか、乗らないほうがいいのか。

サンチェスの誘いに乗ったとしてその作戦を実行するかは自分たちで決定することが出来る。

また、その誘いに乗ったふりをしてほかの作戦を実行するのもいいかと思う。

レオパルドはどうするのが最も良案なのか、と考えてうつむいた。

レオパルドもどうしていいのか分からなかったが、サンチェスの手の内を探るためには一度誘いに乗ったふりをしておくのが一番いいと考え、一旦誘いに乗ることにした。

「聞かせてくれる?」

サンチェスはレオパルドがそういったため、微笑を浮かべて話し出した。

レオパルドがわざと誘いに乗るふりをしていることにも気づきながら。







……………………………………………………

サンチェスはレオパルドに作戦を伝え、レオパルドが帰ったのちに計画を立て始めた。

サンチェスはいつも計画を立てる時にはただ一人である。

そして、どんなことが起きても臨機応変に対応できるようにエクトル警部やレオパルドの対策や、偶然の出来事などが起こることを何パターンも考え、そのパターンに対応してどのような行動ができるかを何度も考え続ける。

そうすることでかなり臨機応変な対応ができるようになる。

サンチェスはいつもいつもそのようにして計画を立てているのだ。





「…と、サンチェスが言っていたのはこのような作戦でしたが、どう思いますか?」

レオパルドはエクトル警部やセフェリノ警部に会った時に言った。すでに二人はサンチェスが自分たちの作戦会議を盗み聞きしていたことを知っている。

二人とも、サンチェスには聞こえていないと思っていたため、はじめレオパルドからその事実を伝えられた時にはとても驚いていた。しかし、今までのサンチェスの超人的な活躍を知っていたため、すぐに落ち着くことが出来た。

そして、そのあと聞かされたのはサンチェスが自分たちに策を与えたという話だった。

どうすればいいのか、次はサンチェスの誘いに乗るかどうかを相談した。



サンチェスは謀り、レオパルドらは策を講じた。

病院を巻き込んだ逃亡劇が始まろうとしているのだった。

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