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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと敵討ち

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番外 ベテラン警部の過去

大怪盗サンチェスシリーズの大きなひとくくりが終わったので、番外を投稿いたします。

ここまでこれたのも皆様のおかげです。

心よりお礼申し上げます。


時間軸は 第一章 サンチェスの大冒険 のサンチェスの初仕事の後あたりです。

ベテラン警部の過去


エクトル・ミラージェス・ジャマス


それが私の名だ。

私は今、スペイン国家警察窃盗犯担当部署警部として職務についている。

そして、嬉しいことにベテラン警部とさえ呼んでいただけるようになった。

そんな私の、過去について話そうと思う。


……………………………………………………

「エクトル!外で遊ぼうぜ!」

今日も私の家にはクラスメイトが来る。インターホンも鳴らさず二階の私の部屋に向かって叫ぶクラスメイトらは本当に元気だ。

私は先ほどまで読んでいた本を机に置き、窓からクラスメイトらに一声かけて玄関に降りた。

「何をしますか?暗くなる前には帰らないといけないですし、あまり時間がかかることは出来ませんよ?」

同等の立場にあるはずのクラスメイトに敬語で話しかける私にもクラスメイトは慣れたようだった。


私は数か月前、国家警察にあこがれた。特に、窃盗犯担当部署に。

そのきっかけとなったのは、ある日、私が文具店で買い物をしていた時だった。

万引きをしている子がいた。僕よりも年上で、がっしりとした体格の青年だった。僕はそのことに気づいたが、反撃されるのが怖かったのか、何もできなかった。どうすることが最善かさえ分からなかった。

すっ、と。

困惑する僕の目の前に、大きな背中が現れた。その人は、何の躊躇もなく万引きをしている子に話しかけ、こっそりと国家警察の紋章を見せ、補導しようとした。


「捕まってたまるかッ!」


万引きをしていた子はそう叫ぶとどうにか国家警察の人の拘束を抜け出し、走り出した。その子は走るのも早くて、僕では全然追いつけそうになかった。国家警察の人はその子を追いかけ初め、一瞬で、ほんっとに一瞬で追いついて捕まえてしまった。僕は本当に驚いた。国家警察の人はみんなこれほど足が速いのか、そう思った。

そして、自分も同じようになりたいと思った。


これが私が国家警察を志した理由だ。

それから私は国家警察で必要そうなことを鍛えだした。

敬語を使えるように毎日練習した。

足が速くなるように毎日走り込みをした。

勇気を持てるように家の近くの吊り橋を何度も渡った。


このままいけば国家警察になれるだろうか。私は毎日そう思いながら練習していた。

でも、後にやりすぎだったことに気づく。


「エクトルって変わってるよな。」


ある日、学校に行って、クラスに入ろうとした時、誰かがそう言っているのが聞こえた。

誰が言っているのかはわからない。でも、話題が自分ということはわかる。

そして、いい話でないことも。

私はその子たちが話しているのを聞いた後、クラスには入らず、少ししてから何事もないように入った。

話していた子が誰かはわからないが、だれも私が聞いていたことには気づいていないようだった。


私は、間違っているのか


私は思った。

国家警察を志して自分にできることをしていた私が悪いのか、何も悪いことをしていたとは思わない。

では、ほかの子に言われていたのはなぜか。

私はこの日をそのことを考え続けて過ごした。

そして、どうも答えが分からなかった私は学校でも数少ない私の理解者であるアルトゥロに相談した。

「アルトゥロ、僕の何がいけないんだろう。」

アルトゥロだけは昔のままの話し方だ。一人称も〝私〟から〝僕〟に変わる。

アルトゥロは私が何を言っているのかわからないというように首を傾げた。私が急に自分の欠点について話し始めたからだろう。

「何がいけないって…どうして急に?」

アルトゥロは私に尋ねた。私はアルトゥロに今朝のことを話すかどうかを迷った。アルトゥロはかなりの心配性だ。私の悪口を言っているクラスメイトがいたと知ったらアルトゥロを宥めるのが大変そうだ。

最終的に今朝のことをそのままいうのではなく、オブラートに包んで言うことにした。

「いや、近頃僕を見るみんなの視線が変わったようだから。」

私の予想通り、はじめはアルトゥロも心配してくれた。しかし、オブラートに包んだおかげでそこまで長くは続かなかった。アルトゥロが落ち着いて、私が安堵したころ、

「どこがいけない、って人それぞれだと思うし、気にしないでいいと思うよ?」

アルトゥロはそう言ってくれた。私はそれだけで十分だった。

アルトゥロだけは私のことを認めてくれるのだから。

しかし、アルトゥロはまだ言い足りないという様子だった。そして、



「エクトルは、今のままでも十分にすごいと思うから。」



すごい。

そう言われたのは久しぶりだった。私のことを応援してくれる両親もすごいと言ってくれることはそうなかった。

それでも、私が新しいことをしようとした時には支援し、応援してくれた両親に感謝していたし、褒められることが一切なかったわけではなかったので、あまり気にしていなかった。

しかし、すごいと言われることがここまで嬉しいことだとは思わなかった。

私はアルトゥロにすごいと言ってもらえた嬉しさで固まってしまった。


大丈夫?

僕何か変なこと言っちゃった?


アルトゥロが心配してくれたため、私は大丈夫、と返す。

しかし、これではだめだ。しっかり言わないと。


「ありがとう。すごいなんて言われたの久しぶりだよ。」


私はそう言って笑った。アルトゥロは私に笑い返してくれた。

私はあまり笑わない。クラスメイト相手でも、心を許した人にしか満面の笑みを見せない。

というか、見せられない。

私は笑うのが昔から下手だった。

数年前、両親にもっと笑った方がいいと言われた。それで、クラスメイトの中であまり話さない子と話した時に笑ってみた。

しかし、返ってきたのは笑みというよりは苦笑という感じだった。

そばで見ていたアルトゥロによると、私はうまく笑えていなかったらしい。

この時、私は笑うのが下手だということを思い知った。

それからはアルトゥロ以外のクラスメイトにはしっかりと笑えていない。

時にリベンジ感覚で笑ってみると、引かれるか、苦笑されるかのどちらかだった。

そのことを知っているアルトゥロは私にもっと笑ったら?というようなことを言わなくなった。私に気を遣ってくれているのだろう。

私はいつかはアルトゥロ以外のクラスメイトにも自然に笑えるようになりたいと思っていた。

そんな時だ。






「アルトゥロ、なんで?」


アルトゥロが引っ越すことになった。

アルトゥロの両親が引っ越すことになった理由について教えてくれたが、そんなことは耳に入ってこなかった。

ただアルトゥロが引っ越してしまう。もう会えないのでは、ということばかりが脳内を占拠していた。

私はいつも、できるだけは冷静を心掛けていた。

しかし、今は冷静でいられそうにない。アルトゥロがいなくなってしまうのだ。

アルトゥロは変わっている私の貴重な理解者だ。親友だ。

そのアルトゥロと離れるなんて、拷問かとさえ思う。

これが、胸が張り裂けそうな思い、というのだろう。

私は必死に涙を堪えながら、拳を握りしめた。すると、


「いつか、絶対会おうね!」


アルトゥロはそう言ってくれた。私は、顔を上げアルトゥロの方を見た。

アルトゥロは笑っていた。でも、満面の笑みではない。哀愁漂う悲しい笑みだった。

私はあまり見ないが、アニメではこういう展開がよくあると聞く。

親友が引っ越すことになり、ずっと後に感動の再会をするのだ。しかし、それはアニメだ。

本当にそうなるなんて思えない。

アルトゥロもそのことに気づいているのだろう。だから、どこか悲しそうな顔をしているのだ。

私はアルトゥロと会えなくなると思うと悲しくなった。しかし、私はあることを思いついた。アルトゥロと別れてしまってもいつかもう一度会えるようにする方法を。


「アルトゥロ、いつ会うかを決めておこう!今から十年後の今日!僕たちが初めて会った小学校の門の前で!」


私は思いついた瞬間そう叫んでしまった。アルトゥロも急に叫んだ私に驚いたらしく、ポカンとした表情をしている。でも、少しして、


「約束だよ!」


満面の笑みでそう言ってくれた。さっきの哀愁漂う笑みではない。心からの、満面の笑みだった。

私はアルトゥロにそう言ってもらえたことがうれしくて、「約束!」と言いながら小指を差し出した。

アルトゥロは何の躊躇もなく、小指を出してくれた。

私の両親は私がいつもより子供らしいのを見て安堵しているようだった。


ここで私とアルトゥロは十年後に会う約束を立てたのだ。私は絶対に、その時には夢である国家警察の窃盗犯担当部署に入ってみせる!と決意した。









……………………………………………………

「あと二年か…」

まだまだだな、そう思いながらスペイン国家警察窃盗犯担当警部であるエクトル警部は頬杖を突く。

小さいころからの夢である国家警察の窃盗犯担当部署にも入れたエクトル警部は今日も職務を全うしていた。

そして、仕事が一区切りついた時には旧友であるアルトゥロのことを考えていた。

アルトゥロと約束したのは十四の時。その十年後だからアルトゥロと会えるのは二十四の時だ。

今年二十二になったエクトル警部は早くアルトゥロに会う日が来ないかと考えていた。

エクトル警部が本編のようにベテラン警部となれたのも、アルトゥロのおかげである部分があります。

笑うのが下手で、クラスメイトにさえ敬語で話す不思議な少年

エクトル・ミラージェス・ジャマスを理解し、助けたのはほかでもないアルトゥロでした。

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