20.サンチェスと決戦 玖
サンチェスの決戦 玖
『チャールズ!よくできたなぁ!』
そうやって、何か新しいことが出来たときに褒めてくれた父親が好きだった。
『チャールズ、頑張って。』
そうやって、何かに挑戦するときに応援してくれた母親が好きだった。
『サンチェス、今日も一緒に遊ぼう!』
そうやって、毎日を楽しくしてくれたレオパルドが好きだった。
僕は今まで楽しいことばかりだった。
『チャールズ!お金が借りれるぞ!少しはいいメシが食える!』
突然現れたアレキザンドラ社、という人たちにお金を貸してもらえることになって、今までの楽しい日々が、もっともっと楽しくなった。今までよりおいしいご飯が食べれた。今まで見たことのないおもちゃを買ってもらえた。僕たちは田舎に住んでいたから、お金を借りたくても貸してくれる人がいなかった。今まで僕の両親も、レオパルドの両親も借金をしたのは初めてだった。でも、僕の両親も、レオパルドの両親もお金を無駄遣いしないようにしながらしっかりお金を返せるよう、努力していた。
最悪だ。
僕はある日、初めてそう思った。
僕の両親は、僕らが遊んでいる途中に自殺してしまった。子供だった僕とレオパルドにはその影響も大きかった。保護者である両親がいなくなった今、僕らはどうすればいいのかわからなくなった。
両親を自殺に追い込んだやつらが憎い。
憎い、という感情もこの時が初めてだった。今考えると、子供だったのにこの時はやけに落ち着いていたと思う。普通なら両親が亡くなったことを嘆くことだけで精いっぱいのはずなのに、この時から復讐のことを考えていた。この頃の僕は恐ろしい。
大人になった今だからこそ、落ち着いて復讐の計画を立てているが、子供の時からそんなことを考えていたと思うと今こうなっているのも頷ける。
しかし、アレキザンドラの罠にはまって落とし穴の中にいるのだから、ただの口だけ野郎になっている気がする。
でも、レオパルドとセフェリノ警部がアレキザンドラを逮捕してくれていたらいい。
あ、ダメだ。
既に自分が助かることをあきらめかけていた。
諦めてはすべてが終わってしまう。
怪盗になってしまった自分のことなど誰も待ってはいないだろう。待っていてくれたとしてレオパルドくらいのものだ。
それでも、僕は生きていたい。誰も待っていてくれなくても、僕は生き続ける。怪盗だろうが、泥棒だろうが、犯罪者だろうが、みんなから忌み嫌われていようが。
「僕はッ、生きるんだッッッ!!!」
僕は叫ぶ。生きることをあきらめなんてしない。
誰も待ってくれはしないとわかっていながらも抗おうとする。
生きれば、これからまだ可能性があるから。
ここは宝石展示室の真下だ。大きな声を上げれば誰かが気付くかもしれない。さっきまではがむしゃらに抗っていたのに、急に冷静になって考える。
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「マスコミが騒ぎ出しましたね。」
「そうですね。一度静めてからアレキザンドラを逮捕しても遅くはないでしょう。」
サンチェスが大声で叫ぶ数分前、レオパルドとセフェリノ警部がアレキザンドラの悪事の証拠を提示し、アレキザンドラを逮捕できる状況になった。
すると、周りにいたマスコミは一気にざわめきだした。大企業の社長であるアレキザンドラが犯罪者であるということが分かったのだから当然だろう。
そして、録音機の内容からしてアレキザンドラが首謀者で、社員が実行犯であることもわかる。つまり、アレキザンドラ社社員全員が容疑者だ。国家警察はこれから忙しくなるだろう。
そのことに気づいたのであろう国家警察の警官までもざわめきだした。エクトル警部が連れてきた警官の中にはセフェリノ警部の部下である警官もいる。セフェリノ警部とレオパルドが仕掛けた録音機は数が多かったため、少しでも作業をはかどらせるためにセフェリノ警部の部下もつれてきたのだ。彼らはアレキザンドラとアレキザンドラ社の社員の尋問、またはその情報の整理を任される可能性が限りなく高いのだから、これからの仕事量に圧倒されるものもいたかもしれない。
「静かにしてください!ここからは国家警察の仕事です。」
セフェリノ警部が声を張り、そういうと先ほどまでざわついていたマスコミが一気に静まった。
セフェリノ警部は警官隊の中にいる自分の部下に指示を飛ばし、アレキザンドラの連行とアレキザンドラ社社員を重要参考人として国家警察に連れて行くことを分担して進めだした。
レオパルドは自分のやることは…と考えながら周りを見回した。
「そういえば…」
レオパルドはそうつぶやいた。サンチェスはどうしたんだろう。そう続けようとした時だった。
「僕はッ、生きるんだッッッ!!!」
急にサンチェスの叫び声が聞こえた。そこにいた全員が一気に静まり返った。
どこから聞こえたんだ?誰の声だ?
皆がざわめきだし、予想を立て続ける中、レオパルドはアレキザンドラのほうに走っていた。
「この邸宅に地下室はあるか!?」
急にレオパルドにそう言われ、アレキザンドラは驚いた様子だった。レオパルドが走ってきたのを見たときは最後に罵詈雑言でも浴びせられるかと思っていたのに、レオパルドは一切関係のないことを言い出した。
「この部屋の下に空間はある…」
驚きすぎたか、それとも逮捕されたことですべてをあきらめたか、アレキザンドラはレオパルドの質問に素直に答えた。
レオパルドはその答えを聞いてエクトル警部のほうに叫んだ。
「エクトル警部!この部屋の下の空間に、サンチェスがいます!」
エクトル警部はいまだに今起きていることを整理できていなかった。その状況でサンチェスがいるという情報を得たのだ。エクトル警部はさらに困惑した。しかし、急いで頭の中を整理し、周りの警官に指示を飛ばした。
「この下の空間を調べろ!」
警官らはエクトル警部に指示を受け、動き出した。
そして、見つけ出した。
サンチェスを。
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「やっと目が覚めた?」
サンチェスはやっと目を開き、レオパルドとセフェリノ警部、エクトル警部を視界にとらえた。
今まで自分を追っていた人たちばかりの登場にサンチェスは本能的に逃げようとした。しかし、いまだ傷は治っていないため、動けなかった。
しかし、目の前にいるレオパルドらは自分を逮捕しようとしない。それで、サンチェスは周りを見回して今の状況を理解しようとした。
「あ!そうだった…」
サンチェスはそうつぶやき〝全て〟を思い出した。アレキザンドラの罠にかかり、落とし穴の中にいたことを。
レオパルドらはサンチェスが起きたため、先生を呼んでこよう、と大騒ぎだった。
そして、少しして医者が来て、サンチェスは命に別状はないという診断がされ、落ち着いてきたころ、レオパルドがサンチェスが半分気絶していた間のことを話した。
録音機を仕掛け、マスコミやアレキザンドラの前に出てその証拠を提示し、アレキザンドラを逮捕した。
それらを詳しく、順序だてて話しているのを聞いているサンチェスは時に相槌を打ちながら耳を傾けていた。
「それでサンチェスを見つけて、今に至るというわけなんだ。」
レオパルドはその言葉で話を締めくくった。サンチェスはほとんどの場合は話を聞くのに徹していたが、レオパルドが話を終えると、レオパルドとセフェリノ警部、そしてエクトル警部を労った。
多くの詐欺事件の首謀者、アレキザンドラ・アルバレス・バジェステロス
彼は多くの人を苦しめ、殺してきた。
そして、被害者に堕とされたのだ。
大企業の社長から、凶悪かつ冷酷な犯罪者へと。
このお話にてサンチェスシリーズの一つの大きなくくりが終わりました。
ここまで読んでくださった皆様に心より感謝申し上げます。
これからもサンチェスシリーズは続きます。
是非、読んでください。




