表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと敵討ち
21/104

19.サンチェスと決戦 捌

サンチェスと決戦 捌


アレキザンドラ氏の宝石完全防衛

それは一瞬で伝わって様々なところで噂されるようになった。防衛した相手がサンチェスだったのも原因の一つだろう。そして、今日はアレキザンドラ氏のインタビューがある日だった。しかも、エクトル警部もその事件に関係しているということで途中からではあるがインタビューにも参加することになっている。エクトル警部は今まで様々な偉業を成し遂げてきたが、ここまで大規模なことはなかった。

「エクトル警部、大丈夫ですか?」

緊張で顔が強張っているエクトル警部に警官が声をかけた。エクトル警部は何度か頷いて大丈夫だと示そうとしたが、一切説得力がない。警官もエクトル警部の緊張をなくすのは難しいのだろう、と考え、

「まあ、頑張ってください。」

と言うだけにしておいた。

時間が近づくにつれ、どんどんマスコミがアレキザンドラ氏の邸宅に入ってくる。その全員は宝石の展示室に連れてこられていた。インタビュー会場は宝石の展示室なのだ。やってきたマスコミはまずアレキザンドラ氏本人がいることに驚き、部屋の豪華さに驚き、鉄の監獄を見て驚いた。エクトル警部とほぼ同じ反応だ。しかし、エクトル警部はそんなことに気づく余裕もなく、ただただ増え続けるマスコミに緊張するだけだった。

インタビューの時間になった。マスコミは総勢百人近く訪れている。しかし、宝石の展示室はとても広く、そのマスコミ全員が入れるほどだった。護衛にやってきた警官たちもその人数には圧倒された。しかし、大企業の社長であるアレキザンドラ氏は一切緊張する様子もなく、堂々とインタビュー用の椅子に座っている。アレキザンドラ氏が座ると少し上等なくらいの椅子でも王座のように見える。エクトル警部はそんなことを考えながらもう一度自分の登場タイミングや話すことを頭の中でシミュレーションした。間違えれば恥をかいてしまう。それだけは避けなければならない!エクトル警部はそう決意し、アレキザンドラ氏に視線を移した。もうすぐインタビューの時間になる。

「では、インタビューを始めようか。」

アレキザンドラ氏がよく響く声でそう言ったのを合図にマスコミが質問を始めようとする。しかし、アレキザンドラ氏がマスコミの中で近くにいたものを指名した瞬間、


「ちょっと、待ってください!」


ざわざわ、と。誰かがそういった瞬間、マスコミがざわめきだした。そして、どこから声が聞こえたのかと周りを見回し、声の主を見つけたマスコミはその男〝たち〟のほうに向き、写真を撮ったりした。その男たちは急に自分たちの方向に視線が集まったことに驚いたが、今だけは緊張しているわけにもいかず、言葉を続ける。

「アレキザンドラ氏をインタビューするのはサンチェスから宝石を防衛した人としてではありません。数々の詐欺事件の首謀者としてです!」

彼らはそう言い切った。先ほどにも増してざわめきが大きくなる中、レオパルドとセフェリノ警部の二人は何の躊躇もなくそう言い切ったのである。

「何を言い出すんだ。それに、ここにはいれるのは一部の人間だけだ。君たちはマスコミでもないだろう?」

自分を批判されたのにかかわらず、好感度を下げないようにするためにも落ち着いた声で、あまり咎めずにそう言ったアレキザンドラ氏はすべてを知らない人から見たらとても寛容な社長のように映ったのだろう。しかし、アレキザンドラ氏の本性である裏の顔を知るセフェリノ警部とレオパルドはそうは思わなかった。アレキザンドラ氏は取り繕っている。セフェリノ警部とレオパルドはそう感じた。そして、少し試したい気分にもなった。今は普通の社長だ。アレキザンドラ氏は取り繕うのが上手に見える。誰にも今の本心は気づかれていないだろう。では、〝あのこと〟を自分たちが告げたとき、アレキザンドラ氏はどのような反応をするのか。そのような状況になっても取り繕い続けることは出来るのか。そう考えたレオパルドは言った。アレキザンドラ氏の本性、裏の顔を皆に知らしめるために。

「私たちは、」

レオパルドはそこで一度言葉を止め、セフェリノ警部のほうに視線を飛ばした。すると、セフェリノ警部はレオパルドの意図を汲み取り、小さく頷いた。


「「あなたの被害者です!」」


レオパルドとセフェリノ警部の声はきれいにそろった。アレキザンドラ氏はそう言われて初めて動揺を見せた。アレキザンドラ氏の邪魔となる存在である最後の生き残り。三人のうち一人、サンチェスは罠にかけたが、あとの二人はどこにいるのかさえ詳しくはわかっていなかった。その二人が突如として自分の目の前に現れたのだから動揺するのも普通だ。「正確にはあなたが詐欺にかけた被害者の息子や甥っ子ですが。」レオパルドは続けてそうもいったがアレキザンドラ氏の耳にその言葉は届いていない。驚きのあまり声も出ない様子だった。

「その証拠はありますか?」

マスコミは放心状態にあるアレキザンドラ氏を放っておいて話を進めていく。アレキザンドラ氏はその話を耳で聴きとることは出来ていたが、そのことを考えることは出来ていなかった。しかし、〝証拠〟という言葉に脳が反応した。証拠がなければ証拠不十分で逮捕することは出来ない。その唯一の希望を胸に、アレキザンドラ氏は我に返ってレオパルドとセフェリノ警部をきつく睨んだ。マスコミはほとんどがレオパルドとセフェリノ警部の方を向いているため、アレキザンドラ氏が二人のことをにらんでいたとは一切知らない。が、レオパルドとセフェリノ警部、そして二人のほうにいたエクトル警部はそのことに気づいた。エクトル警部としては今まで信頼してきたアレキザンドラ氏が徐々に変貌していく様子に驚きが隠せなかった。アレキザンドラ氏が詐欺事件の首謀者?エクトル警部の脳内は疑問で埋め尽くされた。アレキザンドラ氏の本性を知って驚いたのもあるが、その可能性があるということを後輩であるセフェリノ警部や、協力してサンチェスを逮捕したレオパルドに言ってもらえなかったのも疑問だった。実際はエクトル警部には何も知らせないことでアレキザンドラ氏に調べていることを気取られないように、とレオパルドが提案したことだった。しかし、エクトル警部はまだまだ信頼されていないのだろうか、と不安も感じた。

ところで、エクトル警部がそんなことを考えている中、レオパルドとセフェリノ警部はアレキザンドラ氏が詐欺事件の首謀者であるという証拠を見せようとしているのだった。

「これが証拠です。」

セフェリノ警部はそう言って懐から小さな機械を取り出した。それは録音機だった。周りのマスコミがもっと近くで見たい。そしてもっとはっきりカメラに映したい、と近づく中、セフェリノ警部は録音機の音声を流した。そこにいるマスコミの量が多かったため、かなりの大音量で流した。


『まだか!?あいつらは今も血眼になって我々を探しているかもしれない!まだ見つからんのか?!』

『申し訳ございません。今も急いで探しておりますが、どこにもおりません!』

『ほんッとに、あいつらの家の爆破も失敗していたろう!』


これだけだった。しかし、情報量としては〝これだけ〟だが、証拠としては十分〝すぎる〟ほどだった。この録音機の音声とアレキザンドラ氏の声紋が一致すれば、証拠として成り立つ。セフェリノ警部は昨日、エクトル警部に帰還を指示される前にアレキザンドラ氏の邸宅のいたるところに録音機を仕掛けておいた。自分たちがいなくなり、だれにも監視されない状況になればアレキザンドラ氏の本性が出ると思ったのだ。そして、その作戦は想像以上にうまくいった。セフェリノ警部とレオパルドはエクトル警部の付き添いとしてアレキザンドラ氏の邸宅にもう一度訪れ、録音機の音声を確認した。そして、証拠となるような情報が入っていたため、今回証拠として皆の前に出したのだった。

「これでも言い逃れするつもりですか?」

冷たく、レオパルドはアレキザンドラ氏、いやアレキザンドラにそう言い放った。アレキザンドラは何も言えなくなり、首を垂らした。アレキザンドラの完全敗北だった。

レオパルドとセフェリノ警部は微笑を浮かべ、お互いに頷きあった。レオパルドの両親とセフェリノ警部の叔父、そしてサンチェスの両親の敵討ちが終わったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ