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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと敵討ち
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17.サンチェスと決戦 陸

サンチェスと決戦 陸


エクトル警部は日が沈み、ほとんどの人が眠りだす時間になっても、いまだにサンチェスが来ないことに違和感を感じた。実際、いつもサンチェスが来る日は大体の場合予告状に書かれている日と同じだった。しかし、その時間については規則性が感じられない。今回も今日中には来るのだろう。エクトル警部はそう思って違和感を口にすることはしなかった。その間にも、サンチェスは常に計画の成功のために動いているとは知らずに。

「エクトル警部!!」

エクトル警部は遠くから名前を呼ばれたことに顔を上げ、風を切って声のした方に顔を向けた。すると、エクトル警部方向に警官が向かって走ってきていた。エクトル警部は自分からもその警官のほうに走り、報告を聞こうとした。今の状況では報告があるとすればサンチェスのことだろう。サンチェスの報告はいち早く聞いておくに越したことはない。エクトル警部はそう考えたのだ。

「何かあったのかね?まさか、サンチェスが来たか!」

エクトル警部が警官にそう聞いた時、


ガッッッコン!!


とんでもなく大きな音がして、少しだけ地面が揺れたようにさえ感じた。エクトル警部は揺れが収まったのち、軽く周りを見回した。そして、物が落ちていないことを確認した。しかし、警官はエクトル警部の知らないことを知っているため、今すぐにでもエクトル警部を宝石の展示室に連れて行きたかった。そのため、警官はエクトル警部に声をかけ、いち早く宝石の展示室に来てくれ、いったが、エクトル警部はさっきの音が気になりすぎて警官の言葉が聞こえていなかった。


「エクトル警部!〝サンチェス〟が宝石展示室に現れていたんです!さっきの音も〝サンチェス〟と関係があるかもしれません!」


警官がサンチェスの名前を出した途端、エクトル警部は我に返ったようにはっとし、警官に向きなおった。

「本当か!?」

エクトル警部は警官に確認し、すぐに宝石の展示室に向かった。

しかし、そこにいたのは、倒れている警官だけだった。エクトル警部はその光景を見て絶句した。ここにサンチェスが来たことは明らかだ。エクトル警部は驚きのあまり声が出なかった。それで、エクトル警部が落ち着くまで誰も声を発さず、その場は静まり返った。

「エクトル警部…?大丈夫ですか?」

警官の一言で、エクトル警部は落ち着きを取り戻し、「ああ。」と返した。それに安堵した警官はここで何が起こったのかを説明し出した。警官の話によると、サンチェスが急に現れ、煙玉を投げて警官らを次々に気絶させていったのだという。報告に来た警官は見回りをしていてちょうどその様子を見届け、すぐにエクトル警部に報告に来たのだそうだ。エクトル警部は警官の話を聞いて納得したようだ。警官の話が終わるころにはエクトル警部も完全に落ち着いており、警官によって話が締めくくられた後は倒れている警官らの救急搬送や、事後処理を警官に指示した。気絶していた警官らはサンチェスが出来るだけ手加減したことにより、後遺症も残らなければ、ほとんど痕さえも残らないほどの軽傷だった。エクトル警部はそのことを聞くと安堵し、残る仕事である事後処理を急ごうとした。しかし、エクトル警部は勘違いしている。サンチェスが来た。つまり宝石は盗まれた。エクトル警部はそう思っていた。しかし、そういうわけではない。

「今回は宝石、盗まれなかったんですね。」

警官の小さなつぶやきで、エクトル警部は宝石の展示台を見た。周りを鉄柵に囲まれ、ほとんど展示台が見えない。しかし、その中に漆黒に輝くネグロ・ジョヤがあるのは見えた。エクトル警部は今やっと宝石が盗まれていないことに気づいた。警官らはエクトル警部がいまだに気づいていなかったことに驚いていた。ベテラン警部であるエクトル警部も先入観に影響されたのかもしれない。エクトル警部はネグロ・ジョヤが盗まれていないことをしっかり確認すると、ある疑問がわいた。

「あれは本物か?」

エクトル警部は誰に対してというわけでもなくひとり呟いた。周りの警官はエクトル警部の言葉でそういえば、というように今までのサンチェスの事件を思い出した。この場にいる警官の中には今までのサンチェスの事件に関わったことのある警官もいるため、エクトル警部と同じことを思い出したものもいるだろう。サンチェスは何度か偽物の宝石を用いて計画を遂行したこともある。ならば今回もそうなのではないか、エクトル警部はそう考えてアレキザンドラ氏に鉄の監獄の電源を切れるかと尋ねた。アレキザンドラ氏は快諾し、電源室の場所をエクトル警部に伝えた。すると、エクトル警部の指示によって警官が数人その電源室に向かうことになった。そこまで遠くではなく、アレキザンドラ氏にとっては自宅の次に身近な場所であろう場所だった。


「すいません、国家警察の者ですが、通していただけませんか?」

エクトル警部の指示によって鉄の監獄の電源室に向かった警官は今アレキザンドラ氏が社長として勤めるアレキザンドラ社本社に来ていた。アレキザンドラ氏は鉄の監獄の電源室をアレキザンドラ本社に設置していたのだ。アレキザンドラ氏の邸宅がアレキザンドラ社本社に近かったこともあり、電源室と制御室を設置できたのだった。アレキザンドラ社の社員は国家警察の警官が急に訪ねてきたことに驚いていたが、断ることもできずに中にいれた。そして、警官らはここに来た経緯を説明し、鉄の監獄の電源室の場所に案内してほしいと頼んだ。社員たちは国家警察の警官らが自分たちを逮捕しに来たわけではないとわかり、安堵した。そして、怪しまれないようにするためにも警官らの願いを快諾し、鉄の監獄の電源室に案内した。鉄の監獄の電源室は社長室の奥に作られており、社員はほとんど入ることがなかった。今も中にいるのはアレキザンドラ社長から直々に警備を任された者のみだという。警官はそれほど密閉していたら中で何かが起こっても気づけないのではないか、と思ったが、心の中に収めておいた。しかし、警官のその予想は的中してしまうことになる。

「これは…」

鉄の監獄の電源室に入った警官は絶句した。まるでサンチェスが現れたアレキザンドラ氏の邸宅の宝石展示室のようだったからだ。しかし、そこに倒れているのは国家警察の警官ではない。アレキザンドラ氏から直々に警備を任されたというアレキザンドラ社の社員だ。アレキザンドラ氏が選んだのだからかなりの精鋭だとは思うが、その社員たちがそこには倒れているのだ。警官らは驚いたが、すぐに落ち着き、展示室で倒れていた警官らと同じように救急搬送するために動き始めた。そして、そこにいた警官の中でもリーダー格の警官はすぐにエクトル警部に報告した。鉄の監獄の電源室はすでに襲撃されており、電源は落とされていた、と。エクトル警部はその報告を受け、かなり驚いているようだった。そして、警官にはその場の処理が終わったらすぐに帰還するように指示を与え、電話を切った。


「破られていたようですね。」

エクトル警部はアレキザンドラ氏にそう言った。アレキザンドラ氏も「うーん…」と唸りながら俯いていた。きっと未だに鉄の監獄がサンチェスに破られたことが信じられないのだろう。エクトル警部は落ち着きを取り戻せていないアレキザンドラ氏を宥めながらも宝石の鑑定ができるものを探してくるように周りの警官に指示を飛ばした。鉄の監獄が破られた今、鉄の監獄に守られている宝石が偽物にすり替えられている可能性はかなり高い。エクトル警部は周りにいる警官に様々な指示を飛ばしながら考えた。サンチェスはいまだ邸宅の中にいるのか。何の確証もない。一切ない。しかし、エクトル警部の勘がそう言っているのだ。サンチェスはこの邸宅内に残っている。





「ここは…?…ああ、そうか…。」

男は考える。どうしてこうなったのかを。〝上では〟エクトル警部の声が聞こえる。しかし、男は声が出せない。その男は暗い空間の中で静かに目を閉じた。

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