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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと敵討ち
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16.サンチェスと決戦 伍

サンチェスと決戦 伍


「これは、これは。エクトル警部、あなたのようなベテラン警部に来ていただけるとは、光栄の限りです。」

「いえ、こちらとしてもあなたのように大企業の社長とお会いできるのは光栄の限りです。」

アレキザンドラ氏がエクトル警部に挨拶する中、エクトル警部も警官らも大企業の社長を前にして恐縮していた。アレキザンドラ氏は詐欺師ではあるが、大企業の社長としての風格も持ち合わせていた。だからこそ、ここまで詐欺師であるとばれずに大企業の社長として生活してこれたのだろう。社長という肩書だけではいけないこともある。大企業の社長としての風格がなければほかの会社の人などにもなめられてしまうのだ。その点、アレキザンドラ氏はその風格も持ち合わせており、ほかの企業の中でも上位の地位を保持していた。エクトル警部は大勢の大金持ちを相手に冷静沈着な態度を示せていたが、アレキザンドラ氏ほどの威厳を持っている人はほとんどあったことがなく、畏縮しているのだった。

「エクトル警部、少しこちらに来ていただけますか?」

エクトル警部は急にアレキザンドラ氏に話しかけられて肩を上下させた。はいッ!?とどうにか返したものの、エクトル警部としては緊張しかなかった。エクトル警部はロボットのような歩き方になりながらアレキザンドラ氏について行った。アレキザンドラ氏に連れられてついた先は、サンチェスに狙われているネグロ・ジョヤがある展示室だった。先ほどまでエクトル警部とアレキザンドラ氏がいた応接間も豪華だったが、その展示室はさらに豪華だった。現代風の家づくりではなく、その部屋だけ中世に戻ったかのような内装にエクトル警部は目を見張った。一応は被害者であるアレキザンドラ氏の護衛でエクトル警部とともに部屋に入った警官らも同じように周りを見回して驚いている。中には軽く感嘆の声をこぼすものもいたほどだ。アレキザンドラ氏は彼らの驚きように満足したようだった。そして、部屋の豪華さに驚いた後、エクトル警部は宝石の展示台を探した。そして、部屋の煌びやかさに似合わない〝あるもの〟があることに気づいた。それはまさに監獄のようだった。エクトル警部はその鉄の檻に囲まれた展示台を見て絶句した。すると、エクトル警部の反応に満足しきったアレキザンドラ氏はその鉄の檻についての説明を始めた。

「これは、サンチェスとかいう泥棒対策で作らせたものです。プレシデント・デ・ヒエロ。鉄の監獄ですよ。この鉄の柵に触れば強力な電気が流れ、普通の人間なら気絶してしまいます。どうでしょう、長年の経験を積んでこられたエクトル警部視点ではどう思われますか?」

アレキザンドラ氏は最後をエクトル警部への問いで締めくくった。エクトル警部はサンチェスや捜査の話になり、先ほどまで畏縮していたのがウソのように活気に満ちて話し出した。

「サンチェスだったら、その防犯装置の電源を切ると思いますけど。」

エクトル警部は思いついた指摘をした。しかし、アレキザンドラ氏はそのことも考えて対策していた。

「それについては大丈夫です。この邸宅の電源はこの先の電源室で制御していますが、この鉄の監獄の電源はほかの場所で制御していますので、そう簡単に場所を割り出して電源を切ることは出来ないと思います。」

エクトル警部はアレキザンドラ氏がそこまで考えていたことに感心していた。そして、エクトル警部はそれ以上何も指摘する点がないと思ったため、アレキザンドラ氏に断りを入れて警官らの配置に動いた。


「何か見つかりましたか?」

「いいえ、何の収穫もありません。」

ある二人の警官がヒソヒソと話していた。アレキザンドラ氏がエクトル警部に鉄の監獄について話している間、二人の警官はほかの警官隊とは外れてアレキザンドラ氏の邸宅を捜索していた。明らかに怪しい行動をしている二人の警官に対し、その場にいる警官隊は咎めるどころか彼らを隠すようにして囲んでいた。その場にいる警官だけでなく、警官隊全員、そしてエクトル警部が黙認しているため、彼らはお咎めを受けるのではなく、協力されているのだった。

「セフェリノ警部!レオパルドさん!アレキザンドラ氏が来ます!」

急に周りにいた警官が二人に声をかけた。その声は潜められてはいたものの、焦りが感じられた。レオパルドとセフェリノ警部はすぐに警官隊に紛れた。周りの警官隊は二人の警官が新たに入ったことを誤魔化すように列を整えた。そして、列を整え終わったとほぼ同時にエクトル警部とアレキザンドラ氏が話しながら歩いてきた。二人はいつサンチェスが来るかわからないため、邸宅を常に見回っているのだ。この部屋は十三部屋目だった。アレキザンドラ氏の邸宅には多くの部屋があるのだ。エクトル警部はその数の多さに驚いていた。そして、それほどの部屋の数がある必要はないのではないかとも思った。約二十部屋ある中で、ほとんどの部屋は同じような装飾があるだけの寝室のようだからだった。その部屋に入るたび、エクトル警部がまたか、というような顔をしているのを見て、アレキザンドラ氏はエクトル警部の考えが分かったようで言った。

「その部屋は社員用ですよ。この邸宅は本社と近いので、仕事が長引いて家に帰れなかった社員を泊めるためにいくつか部屋を作ったんです。」

アレキザンドラ氏にそう言われてエクトル警部は納得したように何度か頷いていた。エクトル警部はアレキザンドラ氏がアンブレシオ氏の関係者であり、もしかしたらアンブレシオ氏の事件にも何らかの関係があったかもしれないということは聞いていたが、アレキザンドラ氏、というよりもアレキザンドラ社がサンチェス、レオパルド、セフェリノ警部の両親や叔父に詐欺をかけた張本人であるかもしれないということは聞いていなかった。それで、全体的にはアレキザンドラ氏を信用しているのだった。しかし、エクトル警部の信用しているアレキザンドラ氏はさっそくエクトル警部にうそをついていた。アレキザンドラ氏はエクトル警部にいくつもある寝室の意味を仕事が長引いた社員を泊めるためと説明したが、実際は違う。アレキザンドラ社の社員はほとんどが本社の近くにあり、アレキザンドラ社の傘下にあるマンション等に住んでいるが、怪しい動きを見せた社員は自分の邸宅で見張ることにしているのだ。アレキザンドラ社の社員はアレキザンドラ氏の邸宅に宿泊するよう命じられた=アレキザンドラ氏に疑われているというイメージを持っているだろう。アレキザンドラ氏はそのことをうまく隠しながら自分の好感度を上げるような言い方をした。それはかなりの弁論術だった。エクトル警部は一切疑っていないのだ。国家警察のベテラン警部さえも騙し切ったのだから、アレキザンドラ氏の力量はかなりのものだということが分かる。しかし、その弁論術を持つアレキザンドラ氏の破滅は、刻々と近づいているのだった。






「やはりここだったか…」

ある男が薄暗い部屋の中でつぶやいた。彼の周りには男たちが倒れていた。その部屋の中で唯一立っているその男は大きな部屋の中の存在意義であろうレバーのほうにゆっくりと歩いて行った。そして、


ガシャン!


レバーをOFFにした。彼はレバーを動かした時に想像以上の大きな音が出たことには驚いたが、軽く周りを見回して誰も音に気づいていないことを確認すると安堵したようにほっと息を吐き、部屋を出て行った。

「これでやっと動ける。」

ほとんどの人が倒れている今の状況に似合わぬ微笑を浮かべて。

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