表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと敵討ち
14/104

12.サンチェスと決戦 壱

サンチェスと決戦 壱


「セフェリノ警部!少しよろしいですか?」

名も知られていない警官の一言で始まった今回の事件。それは波乱を呼ぶこととなった。

「何かあったのか?」

セフェリノ警部は警官に聞いた。セフェリノ警部としてはまた事件か、と思って警官のほうに向きなおった。しかし、警官はセフェリノ警部を前にしても言いにくそうにしていた。セフェリノ警部は警官の様子がおかしいことに気づき、怪訝そうな表情に変わった。先ほどまでセフェリノ警部と話していたエクトル警部はセフェリノ警部に用事が出来たことを感じ取り、離れようとしていたが、セフェリノ警部同様警官の様子が変なのに気づいてセフェリノ警部のもとに戻って行っていた。なぜエクトル警部がセフェリノ警部のもとにいるかというと、前回セフェリノ警部が担当した事件でサンチェスが関係していたとわかったからだ。そのため、サンチェスに深くかかわっていたセフェリノ警部のもとにサンチェスを担当しているエクトル警部が話を聞きに来たということだ。セフェリノ警部はエクトル警部の質問に正直に答えた。ただ一つ、サンチェスとアレキザンドラ社を倒す決意をしたことを除いて。エクトル警部はセフェリノ警部から十分すぎるほどの情報を得られたことに喜んでいたため、セフェリノ警部が一つだけ隠していることには気づかなかった。そして、エクトル警部が大体質問し終え、少し世間話も混ざってきたころにセフェリノ警部に警官からのお呼び出しがかかったというわけだ。エクトル警部は警官の様子を観察しながら何かを隠したり隠蔽していたりしているわけではなさそうだと思った。隠蔽の可能性があるならほかの課である自分も少しは関係があるかもしれないが、そうでないのであれば自分がいる必要もないと思った。その時、セフェリノ警部に口を割らされた警官が報告を口にした。

「アンブレシオ氏が、逃走しました…。」

おどおどしながら、警官はそう言った。警官からの報告を受けていたセフェリノ警部も、次こそ離れようとしていたエクトル警部も驚きで固まってしまった。犯人の逃走自体はそう少ないことではない。しかし、今回逃走したのはセフェリノ警部が逮捕した犯人だ。その犯人が逃走したというのは直接関わっていないとしても逮捕した張本人であるセフェリノ警部も責任問題が生じる可能性がある。エクトル警部はそこまで考えてセフェリノ警部の方を向いた。しかし、セフェリノ警部は自分の逮捕した犯人が逃走したことから生じるかもしれない責任問題のことを考えている様子はなく、報告をしてきた警官にアンブレシオ氏が逃亡した時の詳細について尋ねていた。セフェリノ警部のことをかなり前から知っているエクトル警部はセフェリノ警部の様子を見てセフェリノ警部らしい、と思った。セフェリノ警部はそういう刑事だ。自分の損になることがあろうとも、職務を優先する。このことはエクトル警部がセフェリノ警部を後輩の中でもお気に入りとする理由ともなっていた。エクトル警部としてもそのような強い意志を持った刑事は大事にしなければと思うのだ。そんなことをエクトル警部が考えている中、警官は少しずつではあったがアンブレシオ氏が逃走するまでの経緯を話した。簡単にまとめると、アンブレシオ氏を護送しているところに、怪しい男たちが来て、少し話があるといってきて、警官たちが承諾して、いつの間にかアンブレシオ氏が逃走していた。そういうことだそうだ。

「どうなっているんだね!?」

セフェリノ警部は警官からの報告を聞きながらそう言った。報告を聞いている限りは普通ならあり得ないことばかりだった。普通は犯人の護送中に誰かから話があると言われて承諾するはずがない。しかも、その話の途中で護送中の犯人に逃げられるなんてありえない。セフェリノ警部は思ったことすべてを報告してきた警官に尋ねた。すると警官は、「護送していたのが新任の刑事だったらしく…」「話があると言ってきた男たちに脅されたらしく…」とおどおどしながらも詳細を話した。そして、急に思い出したようにはっとし、

「ちょっと待ってていただけますか?」

と前のめりになりながら言った。セフェリノ警部は警官が急に声を荒げたのに驚いたのが、「あ、ああ…」と言って許可した。警官はすぐにギリギリの速度でどこかへ走っていった。セフェリノ警部はいまだに驚いたまま警官が走っていった方向を見続けていた。軽く横目でエクトル警部の方を見てみると、こちらも驚いているようでどうしたらいいのかわからない様子だった。セフェリノ警部はそうなるよな…と思いながら目の前に視線を戻した。すると、さっき走ってどこかに行ったはずの警官が何かを手に握って戻ってきていた。警官はセフェリノ警部のもとに戻ってくるなり「お待たせしました!」といって急に飛び出したことを詫びてから手に握っているものを見せようとして差し出してきた。

「先ほど話した内容の詳細が実際の音声で残っています。これがその一部始終を録音した録音機です。」

警官が渡したものが何なのか説明すると、セフェリノ警部はその機械を観察しながら頷いていた。そして、さっそく音声データを聞いてみることにした。今のところ聞いたのは一部の刑事だけらしい。報告が来るのが少し遅れたことと、報告が来た時にはセフェリノ警部が別の事件を担当していたことがあってすぐには事件の担当刑事であるセフェリノ警部に報告できなかったのだ。セフェリノ警部は音声データを聞いている間、集中しきっていた。実際セフェリノ警部は音声データを聞いている間ほかの音は一切聞こえていなかったらしい。


音声データの内容

「ところで、お話というのは?」

「単刀直入に言いましょう。我々が要求するのはアンブレシオ氏の開放です。ただそれだけです。アンブレシオ氏は我々にとっても重要人物、いないといけない御人なのです。」

「それは不可能です。アンブレシオ氏には詐欺の容疑がかかっています。開放するのは不可能です。」

「そうですか…ではこうしましょう。七万ユーロほどでどうでしょう。」

「どういうつもりだ?」

「そのままですよ。七万ユーロでアンブレシオ氏を開放していただけませんか?」

「無理だ。」

「そうですか。でも、車がなくなった今ここから逃げる方法はありませんよ?あなた方はたったの二人。しかし我々は隠れているものも含めれば十人は軽く超えます。」

「…………」


そこで音声データは終わっていた。この後警官らは男たちの誘いに乗り、そのまま逃亡したのだろう。国家警察に所属していたというのにあまりにも意志が弱すぎる。セフェリノ警部とエクトル警部はそう思った。しかし、それよりもさらに気になる疑問があった。

「なぜこのような録音機が手に入ったのだね?アンブレシオ氏を護送していた警官はもちろんどこかに逃亡してしまったのだろう?」

どうやって録音機を手に入れたのか。入手経路はベテラン警部と呼ばれたセフェリノ警部やエクトル警部でさえ分からなかった。警官はセフェリノ警部に尋ねられ、そのことはまだ話していなかったと思いだす。

「国家警察宛てに送られてきたんです。盗まれたであろう警察車と共に。」

警官はどのようにして録音機を手に入れたかを話した。セフェリノ警部はただただ驚いていたが、エクトル警部は違った。

「国家警察をバカにするのはサンチェスだけで十分だ!」

エクトル警部は声を荒げるまで行かずとも叫んだ。サンチェスの予告状を直接受けたことのあるエクトル警部としては、同じように国家警察がバカにされるのは放っておけないのだった。セフェリノ警部がエクトル警部を宥めた後もエクトル警部は怒りが収まらない様子だった。その様子を見たセフェリノ警部はあまり怒らない先輩が叫んで怒っていることに驚いていたが、少しずつ怒りが収まりつつあるのを見て安堵した。そして、

「それよりも。」

セフェリノ警部はエクトル警部に軽く別れの挨拶を済ませ、その場から立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ