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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスの逃亡劇
13/104

11.サンチェスらは結託する

サンチェスらは結託する


サンチェスはレオパルドとしてセフェリノ警部とともにアレキザンドラ社を倒すことを決めたわけだったが、いまだにアンブレシオ氏を逮捕できるような証拠は見つかっていない。このままではせっかくレオパルドに捜査権を譲ってもらったというのにアンブレシオ氏を逮捕できない。そう思ってサンチェスはアンブレシオ氏の邸宅の捜索をもう一度初めからやり直してみた。しかし、何の証拠もでてこない。サンチェスは焦ってきた。あまり時間をかけすぎるというのは出来ない。今回の家宅捜索で何かしらの証拠を見つけられなければ次からは自分が捜査するのは不可能に近い。そう考えるとサンチェスは時間を気にするようになってきた。すると、あることを思い出した。アンブレシオ氏は自分を騙したのだということを。サンチェスがアンブレシオ氏に会った時、アンブレシオ氏は自分が一文無しだといっていた。しかし、実際は大金持ちだったのだ。しかも、サンチェスに大金をもらっている。完全に詐欺だ。つまり、アンブレシオ氏とサンチェスの家に来た人物が同一人物だと証明できればアンブレシオ氏を逮捕できるのだ。幸運にもサンチェスは万一のことがあったとき用に玄関近くや、隠れ家の中には録音機を隠しておき、常に録音しているのだ。声紋鑑定をすれば同一人物かどうかが分かるはず、サンチェスはそう思った。しかし、セフェリノ警部にはどうやって説明すればいいだろう。自分がサンチェスだというわけにもいかないサンチェスはどういうかを考えて軽く俯いた。しかし、サンチェスは思いなおした。わざわざ隠す必要はないのだろうか、と。アンブレシオ氏を逮捕できる証拠が見つかったような状況で今もレオパルドの真似をしておく必要はもうない。ばれたとしてもすでに役目は果たした後だ。そう考えればサンチェスは自分の正体を明かすのもいいと思えた。それで、サンチェスはセフェリノ警部にアンブレシオ氏を逮捕するための証拠を伝えるとともに自分の正体を明かすことにした。

「セフェリノ警部、少しいいですか?」

レオパルドに化けたサンチェスの声が聞こえ、セフェリノ警部は後ろを振り返った。「なんでしょう。」セフェリノ警部は〝レオパルド〟が自分のところに来たということは何かあったのだろうか、と辺りをつけながら要件を話すように促した。すると、サンチェスは少し口を噤んだのちに言った。

「アンブレシオ氏を逮捕できる証拠が見つかりました。というよりは思いつきました。」

サンチェスがわざわざ言い方を変えたことに違和感を感じたセフェリノ警部だったが、その疑問よりもアンブレシオ氏を逮捕できる、という喜びの方が打ち勝ち、そのことはあまり気にしなかった。セフェリノ警部は〝レオパルド〟に失礼にならないようにしながらも、今すぐにでも証拠についての説明を受けたいと思っていた。サンチェスもそのことは気づいていたため、すぐに話し出した。

「アンブレシオ氏は少しは名の通った金持ちです。しかし、私はアンブレシオ氏に自分は一文無しだと言われ、百万ユーロほど渡しました。これでも詐欺罪。逮捕することは可能なはずです。」

サンチェスはそう言い切った。セフェリノ警部は初めは感心したものの、目の前の〝レオパルド〟の話の欠点に気づいた。

「しかし、それを証明できなければどうしようもありませんよ?」

いくら〝レオパルド〟が言ったことだとしても確固たる証拠がないのに逮捕することは出来ない。セフェリノ警部はそう考えたのだ。しかし、もちろんサンチェスはそこまで考えて発言している。サンチェスはセフェリノ警部の言うことはごもっとも、と言わんばかりに頷いた。そして、サンチェスは話を続けた。

「私は万一の時のために部屋のいたるところに録音機を仕掛けています。今の時代、声紋鑑定というものがありますから、録音機のアンブレシオ氏の声と、実際のアンブレシオ氏の声が一致すれば、詐欺罪として逮捕できるはずです。」

セフェリノ警部は〝レオパルド〟が確固たる証拠を出してきたことに驚き、そして歓喜した。これでアンブレシオ氏を逮捕することが出来るのだ。セフェリノ警部はすぐに〝レオパルド〟に録音機の提示を要求した。アンブレシオ氏の逮捕にはサンチェスの録音機が必要だ。サンチェスは警官を一人連れて隠れ家に戻った。警官とともに隠れ家に行くということは警官に隠れ家の場所を知らせるということだ。サンチェスはそのことも覚悟のうえだった。サンチェスは早めに録音機を隠れ家からとってきてセフェリノ警部のもとに戻った。そして、セフェリノ警部に録音機を調べてもらうことにした。アンブレシオ氏がサンチェスの隠れ家に来た時に変装はしていたものの、声までは変えていなかったため、声紋鑑定はすぐに済んだ。これでアンブレシオ氏は正式に逮捕されることとなった。しかし、セフェリノ警部には疑問が残った。録音機に入っていたレオパルド〝のはず〟の声は明らかにレオパルドとは違う声だった。それは声を変えていないサンチェスの声だったのだから当然だろう。セフェリノ警部は〝レオパルド〟に尋ねた。すると、〝レオパルド〟が返したのは、

「私はレオパルドではありません。」

サンチェスとしての答えだった。セフェリノ警部は驚きのあまり固まった。さすがのベテラン警部も目の前で完全に別人の声を出す人なんて見たことがなかった。がらがらの声だったりかすれていたりなど、声が少し変化するのは見たことがあるが、ここまで違う声は初めてだ。セフェリノ警部は衝撃のあまりサンチェスを見つめ続けた。「私はレオパルドではなく、サンチェスです。」サンチェスが大胆にも自己紹介をしていたが、セフェリノ警部には聞こえていなかった。セフェリノ警部の頭の中は目の前の〝レオパルド〟がサンチェスの声を出したこと、そして〝レオパルド〟の正体が今有名になってきている怪盗サンチェスであるということが埋め尽くしていた。今になっては目の前の人が急に違う人の声を出すということには納得できた。いまだに納得できていないのは後者の方だった。なぜ、サンチェスが国家警察の刑事の前にいるのか。しかも、自分は部署が違うもののベテラン警部と呼ばれている。それなのに、サンチェスは逃げる様子もなく今も自分の目の前に佇んでいる。どうしてか。セフェリノ警部の頭の中には疑問しか出てこなかった。セフェリノ警部が目の前にいる怪盗を逮捕しようと動くのは少しの沈黙の後だった。セフェリノ警部は周りにいた警官とサンチェスを包囲した。並の泥棒でこの状況から脱せるものはそういないだろう。しかし、サンチェスは並の泥棒レベルではなかった。サンチェスは微笑を浮かべ、音もなく跳びあがった。セフェリノ警部と周りの警官はサンチェスの姿を目で追うのが精いっぱいだった。これも、並の警察官ではとっさの判断や行動どころか、目で追うことさえ難しかったかもしれない。それほどサンチェスは軽く跳びあがったのだ。それこそうさぎか何かと勘違いするほどの身軽さだった。サンチェスは跳びあがった勢いで警官らの包囲網を抜け出し、邸宅の出入り口に向かった。セフェリノ警部と警官ら、サンチェスが通ったところにいた警官らも加わってサンチェスは大人数の警官らに追われることになった。しかし、サンチェスは今も涼しい顔で警官らから逃げ続けている。セフェリノ警部や警官らは離されすぎないように頑張って走ったが、どんどん離されていく。最終的にサンチェスが正面玄関に到着した時には数十メートルは離されていた。サンチェスは外に警官がいるかもしれないのに何の躊躇もせずに正面玄関の戸を開け、外に飛び出した。幸いにもセフェリノ警部は邸宅の外に警官を置く必要はないと判断していたため外に警官は置いていなかった。しかし、セフェリノ警部が警官を配置していなかっただけだ。警官らは邸宅の外にずらっと並んでいた。セフェリノ警部の指示ではない。エクトル警部、正確にはレオパルドの指示だ。サンチェスはその警官らを見てレオパルドの存在をやっと思い出した。レオパルドを先頭に一列に並んだ警官らはサンチェスのいる正面玄関から少し離れたところに仁王立ちしていた。サンチェスはすぐに止まった。セフェリノ警部らサンチェスを追っていた警官らもサンチェスが急に立ち止まったことで何が起こったのかと思い、一度立ち止まって様子をうかがった。正面玄関はそこまで大きくないため、セフェリノ警部には邸宅の外にいる警官らや本物のレオパルドが見えないのだ。サンチェスは二十メートルほど離れたところにいるレオパルドに話しかけた。

「やあ、レオパルド。迎えに来てくれたのかい?」

サンチェスが気軽にそういってくるのにもレオパルドは慣れた様子で軽く返した。

「ああ。刑務所からのお迎えさ。もう捜査は終わったんだろう?サンチェスには捜査の邪魔をしないようにとしか言われていないからね。」

レオパルドがそういうのを前にサンチェスは予想が出来ていたというように動揺のそぶりを見せなかった。サンチェスは予想が出来ていただけではなく、すでに何かしらの策を講じていたのかもしれない。サンチェスには余裕があった。目の前に自分の敵である警官らがいるというのに、全く怖気づく様子もない。それはレオパルド以外の警官にとって不思議なことだった。しかし、サンチェスがなぜそこまで余裕なのかはすぐにわかることとなる。サンチェスはポケットに手を入れ、前回使った煙玉を取り出した。そして、投げた。

ボンッ

軽い破裂音が鳴り響き、その場は煙に包まれた。


ブオオオオオオオオオオオオオオ


サンチェスは突然の轟音と真正面からの爆風に思わず顔を背けた。いつの間にかレオパルドらがいたところは人がいなくなっており、そこには大きな扇風機があった。家庭用とは一切比べ物にならない。直径数メートルだ。サンチェスもそれには驚いた。その扇風機によってサンチェスの投げた煙玉の煙も一瞬で消え去った。レオパルドは実に愉快そうだった。前回サンチェスに煙玉で敗北したのを悔しく思っていたレオパルドとしてはその煙玉を破れたのがとてもうれしかったのだろう。しかし、サンチェスはそれだけで終わるほどではなかった。サンチェスは先ほどとは比べ物にならないほどの素早さでもう一つの煙玉を投げ、警官らの方向に走った。扇風機配力はすさまじいが、素早く操作するには向かない。先ほどはサンチェスがゆっくり煙玉を出して投げたから反応できたものの、今回は素早く煙玉を投げられたものだからすぐには反応できなかった。扇風機を操作していた警官もできるだけ早く反応したが、煙を消し去って残ったのは威力の強い扇風機から出た風だけだった。

「何が起こっていたんですか?」

レオパルドは急に聞こえた声に顔を上げた。そして、声の主がセフェリノ警部だと気づき、すぐに駆け寄った。本当は自分が共に捜査するはずだったベテラン警部だ。レオパルドはセフェリノ警部に簡単に挨拶したのちに事のいきさつを説明した。セフェリノ警部は最初はレオパルドの説明に驚いていたが、すぐに納得した。セフェリノ警部はレオパルドが話し終わった後、自分とサンチェスのことを話した。サンチェスに話したのと同じ身の上話もした。すると、レオパルドはサンチェスと同じ反応をした。レオパルドはセフェリノ警部に同情し、ともにアレキザンドラ社を倒すことを誓った。


こうして、サンチェス、レオパルド、セフェリノ警部。

怪盗、私立探偵、国家警察の似合わない三人は結託した。

それぞれの仇を、討つために…

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