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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスの逃亡劇
11/104

10.サンチェスの捜査

サンチェスの捜査


セフェリノ警部。スペイン人なら一度は聞いたことのある名だろう。彼はスペイン国家警察知能犯担当部署に所属する警部なのだが、エクトル警部と並んでベテラン警部と言われている。レオパルドはそのセフェリノ警部とともにアンブレシオ氏の家宅捜索をすることになっているのだ。レオパルドにとってこのことはかなりすごいことだった。エクトル警部とともに現場に出向けるだけでもすごいことだというのに、セフェリノ警部とも捜査できるというのは本当にすごいことだ。探偵事務所で事務作業を続けるレオパルドは数日先のアンブレシオ氏の家宅捜索のことばかり考えていた。すると、

プルルルル

突然電話が鳴った。レオパルドはすぐに受話器を取った。

「もしもし、レオパルド探偵事務所です。」

レオパルドはそう言って用件を尋ねた。まだ相手の要件どころか名前も聞いていない。

「やあ、レオパルド。久しぶり。」

名前を聞くまでもなかった。声を聴くだけで電話の相手が誰かは分かった。レオパルドも今までに何度も話したことのある人物。今では怪盗になって話していないサンチェスだ。レオパルドは「サンチェス?!」と思わず声を荒げてしまった。サンチェスが自分に電話してきた、という事実が驚きだったのだろう。レオパルドが驚いている間にも、サンチェスは落ち着いていた。レオパルドが驚くということは予想していたのだろう。そして、レオパルドが頭の整理を終えたであろうころにサンチェスは話し出した。

「今日電話したのは、レオパルドにお願いがあったからなんだ。」

サンチェスはそう言って話し出した。その願いはレオパルドでも想像のできないものだった。

「アンブレシオ氏の家宅捜索、僕にやらせてくれない?」

レオパルドはサンチェスの願いを聞いた途端、何を言っているのかわからなくなった。サンチェスは今では怪盗ともいえるような人物になっている。そのサンチェスが堂々と国家警察と家宅捜索できるわけがない。レオパルドはそう思った。そして、そのまま思ったことを口に出して問った。すると、サンチェスは

「僕がレオパルドになればいいんだよ。」

と、レオパルドそっくりの声で言った。レオパルドは驚きのあまり声が出なくなってしまった。

「レオパルドの声だけじゃなくて、顔とか癖もまねできるように練習しているんだ。」

サンチェスはそう言ったが、レオパルドは何を言っているのか、一切聞いていなかった。サンチェスが自分の声で話しかけてきたのがそれほど驚きだったのだろう。

「あれ、レオパルドどうかした?」

サンチェスがそう聞いた時、レオパルドはやっと我に返った。そして、サンチェスに問いを投げかけた。

「でも、どうしてアンブレシオ氏の家宅捜索をしたいんだい?」

これはレオパルドが初めから思っていたことだった。なぜ、アンブレシオ氏の家宅捜索をしたいのか。普通の犯罪者の家宅捜索ならサンチェスだってリスクを冒して国家警察に同伴したいと思わないだろう。それなのに、アンブレシオ氏の家宅捜索はサンチェスがしたいと言う。レオパルドは初めからそれが疑問だった。しかし、サンチェスが一向に応えないため、もう一度問いを重ねた。

「まさかとは思うけど、僕ではアンブレシオ氏の悪事の証拠を見つけられないとでも思っているのかい?」

サンチェスはこの問いには間髪入れずに答えた。

「それはないよ。レオパルドの推理力や観察眼が優れているのは僕が一番よく知っているはずだからね。でも、今回の家宅捜索だけは僕がしたいんだ。」

やはり、サンチェスは家宅捜索したい理由を言わない。レオパルドは不信感を抱いた。しかし、その時あることを思いついた。この機会をうまく使えばサンチェスを逮捕できるのではないか?サンチェスはいつも隠れ家にいるし、その隠れ家の所在はいまだ誰も知らない。そのため、サンチェスを逮捕できるチャンスは偶然にもサンチェスに会えた時か、サンチェスが予告状を出して宝石を盗みに来たときかだ。さすがに偶然会えるというのは確率が低いため、サンチェスを逮捕できるチャンスはサンチェスが予告状を出した時だけということになる。しかし、今回はサンチェス自ら出向いてくれると言う。今まではサンチェスの急な願いで気づけていなかったが、頭を整理してよく考えてみると、これは好機だ。サンチェスに気づかれない間に国家警察の警官らでアンブレシオ氏の邸宅を包囲すれば、サンチェスを逮捕できるかもしれない。そう思うと、レオパルドはサンチェスの願いを受けようと考えるようになった。

「いいよ、サンチェスが代わりに行ってくると良い。」

レオパルドはサンチェスに捜査権を譲った。そして、早めに国家警察にサンチェスが家宅捜索をするということを伝えておこうと思った時、

「一応言っておくけど、捜査が終わるまでは邪魔しないでね?」

サンチェスが先に言った。レオパルドはサンチェスに思考を読まれていたことに驚きながらも、「わかってるよ」と答えた。そうして、レオパルドはサンチェスと別れの挨拶をしてサンチェスとの電話を終えた。


家宅捜索当日 アンブレシオ氏の邸宅にて

サンチェスは周りを見回した。今回いる警官らは知能犯担当部署の警官らであるため、今までサンチェスが事件を起こした時に見たことのある警官らはいない。そもそも、今はサンチェスもレオパルドの格好になっているのだから気づかれるわけもないのだろうが、レオパルドとよく接しているエクトル警部などなら気づかれてしまうのだろう。サンチェスはそう思いながら警官らからセフェリノ警部へと目線を移した。セフェリノ警部はかなり気さくな警部だった。エクトル警部もそうだが、様々な経験を積んだ警部は心の広さも持つのだろう。サンチェスはアンブレシオ氏の邸宅に入ってからセフェリノ警部とも何度か話したが、堅苦しい話ではなく、気軽に話をできた。サンチェスはアンブレシオ氏と軽く挨拶をしてからセフェリノ警部とともに家宅捜索を始めた。サンチェスはセフェリノ警部が自分の変装に気づいているのか時々確認しながら捜査を続けていったが、セフェリノ警部がレオパルドの話をし始めたため、少し肩を震わせた。

「あなたのことはよくエクトル警部から聞いていますよ。エクトル警部は昔私と同じ部署で、私の先輩だったんです。それで、違う部署になった今でも何回かお話ししたんです。その時にあなたのことを知ったんですよ。」

サンチェスは急にレオパルドの話題になったことに驚いたが、自分の変装が見破られたのではないとわかってほっとした。しかし、それと同時にレオパルドがほかの部署でも有名になっていることを誇らしく思った。自分のことを褒められたのもうれしいが、レオパルドが褒められたのはそれと同じほどうれしい。「いえいえ…」と謙遜して返したものの、「そうですよね!僕もそう思うんですよ!」と言わないようにするのをこらえるので大変だった。レオパルドと気軽に会えるような立場だったら帰ってすぐにでもセフェリノ警部が言っていたことをレオパルドにも伝えたいと思う。しかし、サンチェスは怪盗だから、レオパルドに簡単には会えないのだった。

「でも、レオパルドさんでも、サンチェスっていう怪盗には苦戦するんですね…」


ゴホッ!ゴホン!


サンチェスは急にセフェリノ警部から自分の話題が出てきたことに驚き、思わずせき込んだ。セフェリノ警部は急に目の前の〝レオパルド〟がせき込んだことに驚き、「大丈夫ですか?!」と声を荒げた。「ええ…」サンチェスは怪しまれたな、と思いながら息を整えた。これは、どのように答えたらいいのだろう。自分がサンチェスなのだから、「サンチェスは手ごわいですね…」などともいえない。かといって、自分は今、一応はレオパルドになっているのだから、「いえいえ、サンチェスを逮捕するくらい簡単ですよ。」などとはさすがに言えない。サンチェスはどのように返答したらいいのか、とどうでもいいところで頭を悩ませた。

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