100.サンチェスの冒険記
遂に完結、最終話です〜〜〜!!!
しかもサンチェスシリーズ、三周年の記念の日でもあります!!しかもしかもで100話記念!
被りすぎて我ながら驚きです……
シリーズの清々しい最後を是非、見届けて下さい!!
サンチェスの腕に、手錠がかけられる。
サンチェスは、全くの抵抗をしなかった。
「―――そんな不安そうな表情しないでくれよ、レオパルド」
「それは……そうだけども……っ」
「こうなるのは必定だったんだ。僕が義賊を名乗る、最低条件だ。仇敵、アレキサンドラを倒したのだから、もう僕は怪盗である必要がない」
サンチェスの言葉に、レオパルドは小さく、何度も頷いた。少しだけ瞳が潤んでいる。
自分たちは、仇敵を倒したのだ。
最後こそサンチェスに見せ場を取られたが、ずっと、三人で戦ってきた。
その努力と苦難が、ついに報われたのだ。
そのことを改めて実感してか、サンチェス、レオパルド、そしてセフェリノ警部も涙を流すまでいかずとも、表情筋に力が入る。
「チャールズ・サンチェス・ロペス、数々の窃盗の容疑で、逮捕する」
「―――ちょっと……っ、待って下さい!!」
闖入者、来たる―――。
◇
「さて、三駒―――今際の、際だよ」
「―――え……?」
隠れ家を爆破され、サンチェスと三駒は、今際の際から脱却した―――そのはずだった。
今放たれるべきでないサンチェスの言葉に、三駒が困惑の表情を浮かべる。
「どういうことです……今丁度、今際の際から抜け出した、はずでは―――」
「また別だよ。物質的な今際の際からは確かに抜け出した。しかし、僕らは新たな今際の際へと足を踏み入れたのだ」
サンチェスの表情は、嘘をついているようには全く見えない。からかいの言葉であったり、いたずらの言葉であったりもしない様子だった。
だからこそ、三駒もただ真剣に、今の現状を振り返る。そして、やはり理解できないサンチェスの言葉を脳裏に残した。
「僕は―――、トランキーロ長官と会おうと思っている」
「トランキーロ長官と……? 国家警察の、ですよね……」
「その通り。先んじて、僕の計画の一端を話しておく。いざとなった時、国家警察を協力者に引き込めるようにするためだ」
「それは計画に必要、ですからね……それが、どうなって、今際の際に繋がるんです」
サンチェスは少しずつ、三駒に理解させるための言葉を紡ぐ。
何故、自分たちは今際の際にいるのか。折角の脱出劇に反して、何故またそんなところに足を踏み入れてしまったのか。
「そこで、僕は約定を交わす。『事が済んだら、自首する』との約定だ。だから―――、三駒は今すぐに、逃げろ」
「…………っ!!」
三駒は、一気に状況を理解した。
今、自分達は確かに崖っぷちなのだ。
怪盗サンチェスと、その仲間。その肩書は、社会において酷く目立つ。怪盗サンチェスが義賊であったとしても、窃盗犯であることに変わりはない。
今、彼らは社会に生きるものとしての今際の際に、立たされているのだ。
「―――私は、日本で……何を要求しましたか」
「…………」
「仲間になること。私が要求したのはその一つです。責任を片翼に押し付けて逃げるのが、仲間だと?」
「……えん、そういうと思っていたよ。―――オルムンド城跡。そこが、最終決戦の場だ。僕は少し用事があって、決行日までは一緒にいられない。だから、当日にそこに来てくれ」
「分かりました、くれぐれも、見つからないで下さい」
「任せて、誰に言ってるんだい」
サンチェスが、そう言って、手をひらひらと振りながら歩き去っていく。
三駒も、決行日当日までは身を隠すため、サンチェスとは別方向に歩いた。
―――これで、良かった
◇
サンチェスが逮捕された瞬間、闖入する者がいた。
本来なら、ここにいないはずの人間。
闖入者は、三駒だった。
「三駒……!? なんでここ、に……っ」
サンチェスは、咄嗟に叫ぶ。
しかし、それが失策だったとすぐに気づいた。
三駒を今際の際から引き出すには、ここで三駒を知らない、という演技をしなければならなかったのだ。
「私は三駒、怪盗サンチェスの仲間です!!」
サンチェスの叫びに続いて、三駒の叫びもまた響く。
「三駒……逃げれば、良かったのに―――」
「仲間に入れろ、と。私はそれを望んだと言ったでしょう。そして、仲間とは片方を残して逃げるものでない、とも」
「そうだ……確かに、そうだね―――」
サンチェスが、小さく項垂れながらも頷く。確かにそうだ、と納得している自分がいた。
そして、怪盗である自分に、仲間がいたのだと、今更ながらに理解した。
「しかし……どうやってここへ? 三駒にはオルムンド城を集合場所に言っておいたはずだけど」
「元々、貴方が本当の場所を言っているとは思ってませんでしたよ? 最後の会話だけ、急いで詰め込んだ感じがありましたし。でもまぁ、そこで問い詰めても恐らく躱されるだろうと思い、一旦そのときは別れて今日、候補地を回って探してたんです」
まさか、三駒に集合場所を伝えたタイミングから既に嘘がバレていたとは、とサンチェスは苦笑を漏らす。
「短い付き合いだからと侮らないで下さい」
「そうだね、すまなかった……」
「それでいいんです」
サンチェスが頭を下げ、三駒がそれを受け止めて許す。
なにげに、初めてのことだった。
爆弾の爆発直前、サンチェスは三駒と仲間となった、と話した。しかし、それは言葉にしただけで、実際にはそうなっていなかった。
今確かに、彼らは名実ともに仲間となったのだ。
「―――ふむ、あとから探す手間が省けたようで何よりだ。詳しい話は、国家警察で聞こう」
トランキーロ長官はそう言うと、エクトル警部に連行の指示を出した。
「じゃあね、レオパルド、面会、また来てくれよ」
「分かった、また行くとするよ」
遂に逮捕された大怪盗、と言うにしては何とも朗らかな最後であった。
しかし、確かにここで、怪盗サンチェスはその最期を迎えたのだ。
◇
「―――お、来てくれたんだね、レオパルド」
「後始末も大体終わってやっと時間ができたよ」
「大変そうなものだね、お疲れさま」
「刑務所の中の人間にそんなことを言われる日が来るとは思いもよらなかったよ」
この日、レオパルドは約束どおりにサンチェスのもとに面会に来ていた。
サンチェスは刑務所の中で過ごしている人間とは思えないほど元気な様子で、少し心配して訪れたレオパルドとしては拍子抜けであった。
「いやぁ、僕らの悲願を達成した、というのは非常に喜ばしいことだけれど、燃え尽き症候群に近いものも、なくはないんだよね」
レオパルドがそう言って愚痴をこぼす。
レオパルドはこれまで、アレキサンドラ打倒のために、探偵として仕事をしていた。
勿論、アレキサンドラ社壊滅のタイミングでも似たような燃え尽きに近い感覚はあったのだが、そのときは虫の知らせのようなもののせいで、緊張が抜けなかった。今思えば、アレキサンドラの脱獄をどこかで懸念していたのかもしれない。
しかし、今回こそは本当に終わった。
だからこそ、何とも次にやるべきことを見つけられずにいるのであった。
「なるほどなるほど、それは大変なお悩みだ。悩める君には解決策をあげねばなるまいね」
「おっ、サンチェス、なにかいい案でも?」
「いやね、僕は将来、怪盗をやめたあとの人生を振り返って、自叙伝でも書いてみようかと思うんだ」
「うん……? それはいいと思うけれど……僕の悩みは?」
レオパルドの悩みに対しては特に関係の無さそうな話を始めたサンチェスに、レオパルドが指摘を差し込む。
しかし、サンチェスはまあまあ、とレオパルドを宥めた。
「その作品の題名は『サンチェスの冒険記』というものにしようと思うんだよ」
「なるほど、無難ではあるけれど素直で良いタイトルじゃないか。それで、僕の悩みは?」
「焦らないでくれよ。燃え尽き症候群、ってのはね、やることを見つければ解消できるわけだろう?」
「まぁ、そうだろうね」
「ということで、君には一つ依頼したい。僕を一番近くで見てきた、幼馴染であり親友である君に―――」
サンチェスは、そう言って立ち上がる。
腕についた逃亡防止の手錠がガチャリと金属音を鳴らした。
「僕の怪盗人生を描いた大作を書いてくれ」
「なるほど? それは、たしかに面白そうだ」
「だろう? かの軍医殿さながらに、いいものを頼むよ」
サンチェスの挟む小ネタに笑いながら、レオパルドは頷き、それもまた、いいかもしれないな、と思った。
「それで、タイトルはどうするんだい?」
レオパルドが、ふと尋ねる。
サンチェスは、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの笑顔を見せて、一拍おいて。
「『大怪盗サンチェスの冒険記』でいこう」
「……っふ、はは、そりゃいい。―――大きく出たね」
「僕は昔から、大怪盗だよ」
遂に完結です!!
これまでご愛読くださった皆さん、本当にありがとうございました!!
作品全体を通してのあとがきも気合を込めて書きました。今話と同時投稿ですので、そちらも是非ご覧ください!!
あとがきを読んだあとはいいね、感想、ブックマーク、折角ならこの機会にイチオシレビューなど合わせてお願いします!!
村右衛門でございました!!また会いましょう!!