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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスと決別の刻
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99.サンチェスと種明かし


「盗聴器だけなら、簡単でいいね」


「簡単……ではないと思うけど、貴方にとってはそうなのかもね」


 サンチェスとフィリアルの作戦会議は、続いた。アレキサンドラが爆弾と盗聴器を取引によって手に入れた、との報せをフィリアルが持ってきたことにより、作戦会議も踊るのだ。



「さて、ここに用意しましたのは音質にこだわった音声レコーダー。何をするかは、皆様おわかりですよね?」


「盗聴器に拾わせる偽の音源を作るんですね」


「三駒、大正解!」


 アレキサンドラが盗聴器を用意した、と聞いてからずっと考えていたことである。

 脱獄して間もないアレキサンドラが、そこまで高品質な盗聴器を手に入れられるとは思えない。

 ならば、盗聴器ごしの相手を音声レコーダーで騙すのもできない話ではないのだ。



「よし、少しやってみようか。この音声レコーダーが爆弾だと思って」


「分かりました」


「じゃあ、私が音声レコーダーのスイッチ押すわ」


「頼んだよ、フィリアル」



―――ピッ



「―――いやぁ、いい天気だね、気を紛らすには丁度いい」


「そうですね……」


「うん? おやおや、折角の青空には似合わないものがあるね」


「爆でゃん…………すみません」



―――ピッ



「「あはははは!!」」


「笑いすぎでしょう……頭から後ろに転げ落ちそうな勢いですよ、二人とも……」


「ごめんなさい、いやでも、あれは……笑うわよ……」


「はい、もう一回やりましょう!! 次は噛みませんから……!!」


「分かったわ、もう一回ね」



―――ピッ



「―――爆でゃん」


「ちょっと!!!」


「あっはははは!!」


 結果、23テイクを終えた頃にやっと音声レコーダーが用意できた。


 これで爆破生き残りの計画はほぼ成功したと言える。あとは、実行に移すのみ。



  ◇



「―――よし、じゃあ行こうか」


 その夜、サンチェスと三駒は二人して出かけた。

 これはアレキサンドラが隠れ家に爆弾を設置するだけの隙を作るためであり、同時に計画の準備をするためでもあった。


「選択肢を限り無く絞ることで相手の行動を制限し、予測しやすくする……爆弾魔相手にここまで出来るのは流石ですね」


「ははは、褒めたって何も出ないよ? あ、溶けかけのチョコレートならあった」


「……いただいておきます、溶けかけくらいが好きなので」


「おぉ……はねつけられるかと思っていたんだけども……また意外な好みだね」


 サンチェスはそう言いながらポケットからチョコレートを一つ取り出し、三駒に渡した。

 三駒がチョコレートを軽くつまんで押してみると、ぐにょりと少しだけ凹む。確かに溶けかけなのを確認して、上機嫌のままにそのチョコレートを頬張った。

 サンチェスはその様子を苦笑しながら見届け、視線を正面に戻す。



「こんばんは、夜に会うのは珍しいね」


「ええ、こんばんは。夜でないと相手も動けないものね」


 わざわざ出かけたのはアレキサンドラの動くタイミングを今日に限定するためだけではない。

 フィリアルと会い、最後の仕上げをするためだ。


「本当に、『フィリアル軍団』は多岐にわたる仕事をしているんだねぇ。まさか、動物園で働いてるとは」


「元裏稼業の人以外もいるのよ」


 夜の動物園が見えてくる。

 門に到達すれば、フィリアルが門の警備員に一言二言話し、簡単に通してもらうことができた。


「人の関わりは持っておくものね」


「本当に、頭が上がらないよ」


 門を抜け、整備された道を歩く。

 お土産屋さんの並びを抜けて、フクロウの檻の横を通り、眠るライオンの上を歩く。


「なんだか、普通に観光していないかい?」


「向かう場所に対しては回り道してないわ。だけど、夜の動物園というのも楽しんでおいたほうがいいでしょう?」


「―――それもそうだね」


 夜の動物たちを横目に見ながら、サンチェスらは動物園の事務所へと到達した。

 そこに、『フィリアル軍団』であるという男が待っている。




「お待ちしていました、ボス」


「……ボスはやめて、もう怪盗じゃないの」


「まだ、我々の中で貴女をボスと呼ばない人はいませんよ」


「……今はいいわ。それで、約束のものは?」


「こちらに用意しています」


 そして、男に案内されるまま、サンチェスらが連れられた先に、それはあった。

 両手で抱えるくらいの木箱が、大切に保管されている。


「先日、肝不全で亡くなり、火葬された猿の遺骨です」


 サンチェスは、男から手渡された小箱を受け取る。この中に、もともとは命であったものが入っているのだ。

 そして、自分たちはそれを利用する。


「この動物園では火葬までしか出来ず、本来ならこのままゴミ捨て業者に引き渡され、ゴミと同様に処分されます。ならせめて、ボスの役に立つなら……」


「大切に使わせてもらうよ、絶対に、無駄にはしないさ」


「ええ、頼みます」


 目的を完了し、サンチェスらは男と別れ、動物園をあとにした。

 譲り受けたサルの遺骨。それを現場においておくことで、サンチェスは死んだ、と国家警察なり、アレキサンドラに勘違いさせるのだ。

 一匹の命だったものが、二人の命を救う。




「絶対に、失敗できなくなったね」


「そうですね……元々、失敗したら死ぬんですから、失敗できませんでしたが」


 行きは夜の動物園を楽しんだサンチェス一行も、帰りは静かだった。



 計画の最終段階が、近づく―――。



  ◇



「何から何まで、協力感謝するよ」


「アイドルの悪報を聞きたいファンがいるかしら?」


「それでもだ。本当に感謝する」


 遂に、このときがやってきた。

 爆弾の存在も、音を立てないように確認済みだ。計画は、順調に進んでいる。


 フィリアルが隠れ家を出ていく。

 そして、サンチェスは三駒とともに、机を挟んで腰掛けた。



「ほら、三駒。今際の際だよ」


 サンチェスは、三駒と語る。

 これまでの関係を明文化するための、避けては通れない道を通るのだ。


 そして、話し終わり―――、計画を実行する。



―――トッ


 サンチェスが音声レコーダーを持つ。

 三駒はサンチェスとは反対側、玄関へと繋がるドアへと歩く。



―――カラ


 サンチェスが、庭へとつながるガラス窓を開けた。

 大丈夫、相手はまだ起爆スイッチを押さない。二人が爆弾の近くにいるという確証を得るまでは、押さないはずだ。



―――ピッ


 音声レコーダーの再生スイッチを押す。

 今の電子音が、盗聴器に拾われていないことをただ祈る。



ガタリガタ―――


 急ぎ気味に、サンチェスが玄関へと駆ける。今の足音だって、盗聴器に拾われていないだろうかと怖くなる。



―――ガチャリ


 そして、三駒とサンチェスは、玄関の扉を開け、そのまま外に走り出た。

 周りの住民は仕事に出ている時間で、周りには誰もいない。



 そして、数秒後―――、爆発音が、響いた。





「―――いやぁ〜、危なかったね」


「ほんとに……死んでないのに感覚的には命一つ消えましたよ」


「じゃあ残機はあと二つだ」


「ゲームじゃないんですから……」


 三駒は安堵のため息を付く。

 ふと後ろを振り返れば、自分たちが先程までいた場所が破壊され、燃えていた。




「さて、三駒―――今際の、際だよ」


「―――え……?」



  ◇



「―――と、いうことで、大体分かってもらえたかな?」


 サンチェスは一通りのことを語った。

 フィリアルに関連することは口外しないことがフィリアルから言われた条件であったので、アレキサンドラの取引について嗅ぎつけたのも、サルの遺骨を用意したのも、全てサンチェスがやった、ということで話した。

 そして、三駒についてのことも、隠しきった。


 ずっと、国家警察の面々はサンチェスの話に耳を傾けていた。

 質問の一切を挟まず、ただ、聞き入っていた。



「―――なるほど……うん、分かったよ。一部始終は理解した。まずは、改めて、君が生きていてよかった」


 サンチェスが口を閉じてから場を支配していた沈黙を、最初に破ったのはレオパルドだった。

 その言葉は、幼馴染としてのレオパルドが口にしたものだ。


 レオパルドがそう言って、サンチェスの生を素直に喜べているのを見て、自分にはできないことだな、とエクトル警部は思う。

 国家警察である自分が、犯罪者が生きていることを、()()()()()出来ない。


「君が、これまでしてきたことを考えれば、窃盗犯担当部署の人間として素直に良かった、とは言えない。言えない―――が、今回のアレキサンドラ逮捕は、その多くが君のお蔭だ。礼を言わせてもらう」


「アレキサンドラは我々知能犯担当部署の管轄でした。なので、私からも―――」


「私からは国家警察を代表して、礼を言わせてもらう。アレキサンドラは、国民の安寧を脅かす存在だった。その逮捕は、君の手柄だ」


 怪盗を相手に、国家警察の三大巨塔が頭を下げた。このようなことが、今まであっただろうか。

 レオパルドも、目の前の様子を前に驚きで言葉を失った。



「そういえば、あれも君の計画の一つかい?」


「あぁ、病院の襲撃事件……」


 レオパルドと、セフェリノ警部が、ふと思い出したようにサンチェスに問いかける。

 彼ら二人が過労により倒れ、病院で療養中のことだ。病院に刺客としてエネミーゴが現れた。

 しかし、通報されていないはずの国家警察が応援に来たために迎え撃つことに成功したのだ。


「あ〜、それね。少しばかりエキストラの方々に頼んだんだよ」


 実際にはフィリアルとその軍団に依頼しておいたことだったのだが、フィリアルとの約定を守ることを優先する。


「何かと、我々は助けられていたのだな、君に」


 トランキーロ長官が感慨深そうに呟く。

 そして、残念そうに表情を少しだけ歪めてから、言葉を連ねた。




「―――だからこそ、残念だよ」


 トランキーロ長官が、そう言ってエクトル警部に視線を飛ばす。

 エクトル警部はトランキーロ長官の視線を受け、小さく頷いて―――、






―――サンチェスの腕に、手錠をかけた


完結まで、ついにあと1話!!!!!

リアルタイムでいいね、感想、ブックマークなどできるのも、もうあと数日です……!!

まだしたことないや、という人は是非、この機会にお願いします!!

勿論、完結したあとでも感想は読みますし、基本返事もしますので、完結していても是非!!


次回「サンチェスの冒険記」

※次回最終話は初投稿と日付を合わせるため、6月7日に投稿予定です

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