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大怪盗サンチェスの冒険記  作者: 村右衛門
サンチェスの逃亡劇
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9.サンチェスと詐欺師

サンチェスと詐欺師


刑務所からの脱獄を果たし、レオパルドやエクトル警部、そして国家警察のエドワード警視らと対峙してもなお逮捕されなかったサンチェスは、意気揚々と隠れ家に帰ってきていた。サンチェスは自分からレオパルドらに立ち向かったのだったが、無事逮捕されずに帰ってこれたことに安堵していた。もちろん、わざわざ自分から逮捕されるかもしれないというようなリスクを冒す必要はない。サンチェスはただ、レオパルドを、そして国家警察を出し抜くのは簡単なのだということを示したかったのだ。そして、その作戦は大成功だった。サンチェスはエドワード警視を煙に巻いた後、現場に残ったままのレオパルドを陰から見ていたのだが、

「やっぱり、サンチェスのほうが上手だったみたいだ。」

レオパルドがつぶやいたのを聞いて、サンチェスは無意識に笑みがこぼれた。レオパルドはサンチェスも認める名探偵だ。そのレオパルドに認められたのだからサンチェスもうれしかった。サンチェスはうれしさがこみあげてくるのを感じながら、レオパルドをそのままにして隠れ家に戻って行った。

バフッ

一気にサンチェスが倒れこんだため、ソファーは大きくへこんだ。サンチェスはそのまま寝てしまうのではないかというほど疲れていた。しかし、そのまま寝ることも、疲れをいやすこともサンチェスは許されなかった。

コンコン

サンチェスはソファーに体をめり込ませながら隠れ家の扉が叩かれるのを聞いた。サンチェスは疲れていたが、せっかくの客人を待たせるわけにもいかず、すぐに外に出た。すると、そこにいたのは60歳ほどの老人だった。サンチェスは大した用件でないのなら早めに済ませて休もうと思ったが、その願いも叶わなかった。

「私はもともと貧しい生活をしていたのですが、少し前泥棒に入られ、家に置いておいた金品をすべて盗まれ、しかも、その後出かけたときに所持金も全部ひったくりに盗まれたんです。それで、今では一文無しになってしまったんです。こんな状況ではお金を貸してもらうこともできません。1ユーロでも貸していただけませんか?」

老人は軽く挨拶を終えたのちにそう言った。サンチェスはこの老人を放っておくことが出来なかった。自分も借金に追い詰められた両親が自殺したことがあるため、お金に絡むことで苦しむ人を見ると、どうにも助けたくなるのだった。サンチェスは、その老人を一度さえ見たことがなかったが、一度隠れ家に入り、100万ユーロほど持ってきてそのまま老人に渡した。老人はその巨額を受け取り、その額の大きさに驚きながら何度も何度も礼を言って帰っていった。サンチェスは一度に財産のほとんどが消えたと考えれば困ることではあったが、そのお金が困っている人を助けるために使われたのだと考えればそこまで気にしなくて済んだ。サンチェスはこの時、老人の真の姿を知っていれば100万ユーロも渡さなかったのだろう。


「ここまで上手くいくとは…」

老人はサンチェスからもらった金をそばに泊めておいた車に乗せて置き、微笑を浮かべながら高級そうな煙草に火をつけた。所持金をすべて失ったような老人が、そんなことをするだろうか、というよりもできるのだろうか。この老人はそのまま煙草を吸い殻入れにいれ、次の家に向かった。


翌日 サンチェスの隠れ家にて

「あれ、これってもしかして…」

サンチェスは朝の紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。そしてある記事を見つけた。その記事には詐欺の疑いがかけられているアンブレシオ氏のことが載せられていた。そして、アンブレシオ氏の画像も載っていた。その画像に映っているアンブレシオ氏が昨日サンチェスの隠れ家に訪れた老人にそっくりだったのだ。というよりも同一人物だ。サンチェスは昨日の老人の言葉を思い出した。昨日の老人は一文無し。アンブレシオ氏はそこまで有名ではないが、一般人よりはお金持ちの人物。その二人が同一人物だったのだ。サンチェスは普通に怒りを覚えた。サンチェスが同情した老人は普通に金を持つ金持ちだったのだ。サンチェスは少し怒りながら続きの文章を読んでいった。すると、ある文が目に入った。

「なお、国家警察は私立探偵であるレオパルド氏を家宅捜索に同伴させるつもりであることを表明した。レオパルド氏は近頃騒がれている泥棒、サンチェスの逮捕に一役買った人物であり、国家警察の信頼を受ける希少な人物であった。」

サンチェスは記事の文章を読み上げた。サンチェスはただ淡々と読み上げていたが、本当はかなり驚いていた。レオパルドは今まで一応はただの私立探偵だった。しかし、今回は国家警察が担当する事件の家宅捜索に同伴することになったのだ。ただの私立探偵ならばそんなことはあり得ないだろう。つまり、レオパルドがそこまでの信頼を受けてきたということだ。サンチェスにとって、それは感慨深いものだった。

『サンチェスが怪盗になるというなら、僕は探偵になる!サンチェスを止められる探偵に、そして父さんや母さんの仇も打つ!』

サンチェスは昔のレオパルドの言葉を思い出した。サンチェスが怪盗になるという話をレオパルドにしたときのことだ。レオパルドはサンチェスが怪盗になるなら、自分は探偵になり、サンチェスを自分自身で止め、自分の両親、サンチェスの両親の敵討ちをしようという、強い覚悟が現れた言葉だった。そして、今はそれも叶うほどに国家警察の信頼を得てきているのだ。しっかりとこれから先も国家警察に協力していけばかたき討ちも夢ではない。サンチェスはレオパルドがそこまでのし上がってきたことに驚いていた。そして、競争心を燃え上がらせた。レオパルドが自分を越えてくるなら、それをさらに越えたくなる。それがサンチェスだ。ところで、サンチェスはレオパルドに競争心を燃え上がらせるだけでなく、アンブレシオ氏には怒りを燃え上がらせていた。それで、サンチェスはあることを思いついた。そして、サンチェスはレオパルドに電話を入れた。


レオパルドの探偵事務所にて

レオパルドは依頼人からの依頼内容に目を通したり、報告書を作ったりしていた。今のところは目立つような依頼はないため、レオパルドが意識すべきは国家警察からの依頼だった。今回初めて正式に依頼されたのだ。しかも、今回の担当刑事はエクトル警部でも、エドワード警視でもない。ほかの刑事だった。しかし、レオパルドでもその名は聞いたことがある、というよりもスペイン市民ならば知っている人がほとんどだろう。エクトル警部に並ぶベテラン警部、

スペイン国家警察知能犯担当部署所属

セフェリノ・オルティス・ネバレス警部だ。

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