T字路
歩行者信号が点滅している。他に車がいないのをいいことに、自転車で渡り、右に転回する──
──と、そのすぐ近くでしゃがみこんで手を合わせている2人がいた。
1年前くらいからだろうか。もっと前からだったかもしれない。そのT字路の隅に花や飲み物、食べ物が供えられるようになった。おそらく、事故があったのだろう。
でも、その場面は見ていない。なんなら、ニュースも見ていない。平日は毎日その道で通学していたし、花などが供えられるようになったころは部活もあったから土日も通っていた。何かあったら、というかそんな重大な事故があれば警察車両が止まっている場面とか、ガラスだったり部品の欠片が転がっているくらいのことはあってもおかしくなさそうだけれど。
ニュースだって、夕食の時とかには地方のニュースが流れているからさすがに気付くはずだ。
そんなわけで、少しその場所は気になっていた。
実は、この場所の謎(あくまで勝手にそう呼んでいるだけ)はこれだけではない。その花や飲み物、食べ物は、見た限り一度も途切れず置かれているのだ。しかも、小さな酒のパックが1つ置かれているとか、そういうレベルではない。まるで昨日事故が起きたような量が毎日置かれているのだ。
たいていこういうものは警察か、道路を管理しているところが回収していくものだとばかり思っていたけど、そうでもないんだろうか。さすがにそんなことを調べる気にもならない。
まだ謎はある。ここで事故が起きすぎているのだ。
見たなかで一番大きい事故は、登校時に見た。まだ警察が着いておらず、すぐ横を通ることが出来た。地面には赤い染みが出来ていた。
そしてなにより、自分もここで事故を起こした。
とはいえ大したことではないのだが(普通に学生してるのがなによりの証拠)、少しの間よそ見をしながら自転車を運転していたら、前から来た自転車とぶつかってしまったのだ。幸い、お互いパッと見怪我もなく、その後学校に電話が掛かってくることもなかったのでまだよかったのだが。
ただ、そのよそ見をしていた、というのが、1本の倒れたポールを見ていたのが原因だった。その倒れ方は、事故によるものに見えた──
手を合わせていた2人。その手を合わせている先には誰がいるのか、どんな人物だったのか。少し、気になる。
ただそれだけ。
とりあえず、もうちょっと安全運転をした方がいいかもしれない。