寺魔王様の、サトイモのそぼろ餡かけ
二話更新しております。
(朝7時更新、夕方4時更新の2回です)
食欲の秋、読書の秋、運動の秋、料理の秋。
春夏秋冬、料理は常に楽しい。何せ季節の野菜と言うものが沢山あるからだ。
この世界では、旬の野菜でなくとも保存技術レベルが高い為、いつでも何でも美味しく食べられるが、やはり旬の物は旬なうちに食べたい魔王心。
キノコにサトイモ、根菜類は正に今が旬。
ポテチも今が旬、違うか。
何はともあれ、旬のモノを食べれば寿命が伸びると言われている。食べない手は無いだろう?
「やはりここはサトイモにすべきか」
勇者に料理を教えるべく、色々と頭を悩ませつつも暫くは冷凍食品という強い味方を使おうと決めた我は、スーパーの冷凍食品売り場で頭を悩ませていた。
今ではお馴染みとなった作務衣姿でのスーパー巡り。
チラシと睨めっこしながら自転車で買い物に行くのは面倒ではあるが楽しい時間だ。
無論、エコバックを数枚持ち歩いている我に隙は無い。
「よし」
今日は【サトイモのそぼろ餡かけ】を作らせよう。
週2回料理をさせると決めた我は、買い物籠に必要な材料を入れ込んでいく。
冷凍食品のサトイモを2袋、ひき肉はあっさりと鳥に決めた。
我の好物であるキノコも入れると今日の料理の準備は万全だ。
たったこれだけの素材しか使わない料理――さて、美味しくできると良いが。
「ただいま! 魔王何か食べ物を寄こせ!」
「お帰りなさい、準備は出来ていますよ」
「流石だな!」
ニコニコと笑顔を振りまきながら台所にやって来た勇者に、我は割烹着を手渡した。
頭にクエスチョンマークを出す勇者に微笑むと、既に用意してある素材を見て笑顔が固まった。
「今日はサトイモのそぼろ餡かけですよ」
「……あぅ」
「空腹は何にも勝るスパイスです」
「だが私はお腹が減って……」
後ろに一歩、また一歩と逃げようとする勇者の肩を掴み、そのまま台所へと連行すると勇者は観念したように項垂れた。
「まぁまぁ、料理をする者の特権を教えましょう」
「……なんだ?」
「味見です」
この一言で勇者は有無を言わさぬ速さで割烹着を装着し、三角巾を装備した。
「さぁ作ろう魔王!」
「やる気があるのは良いことです」
なんとも現金なヤツだと思ったがやる気があるならそれでいい。
今日は包丁を使う事も覚えさせようと我は昨日の夜に包丁を研いでおいた。
無論、その姿を見た魔法使いは腰を抜かしていたが気にすることではない。
「さて、今回は2つの工程があります」
「ほう」
「まずは餡を作るところ、そしてサトイモです」
「ふむふむ」
「まずは餡を作っていきましょう」
既に必要な材料であるサトイモは元より、キノコもひき肉も用意してあり、尚且つ使う調味料であるごま油、出汁、ショウガ(チューブ入り)みりん、酒、醤油も出しておいた。
ここまでされていれば文句も出まい。
「では、今日も沢山作るので大きなフライパンで行きます」
「了解だ」
「重いですが、貴女の非力な腕で出来ますか?」
「出来るに決まっている! 私は勇者だぞ!」
こうやって煽っておけば文句は後では言うまい。
疲れたから交代……なんて事は、料理中は出来ないのだ。
「ではまず、材料を切っていきましょう。今回のキノコはえのきにしています。まずはこちらを三等分に切ってください」
「三等分だな!」
「石づきの部分、ここですよ。切って捨てましょうね」
「お、おう」
下手をすれば石づきまで料理に使いそうだったので前もってクギをさしておいた。
まぁ、包丁を使うといっても、えのきを切るだけの作業なのだが、それでも慣れない手つきで包丁を握り、無事三等分に切ることができた。
「今日も貴女が作りやすいように、冷凍食品のサトイモを用意しています。そうですね、材料にしてサトイモ500、鳥ひき肉200、キノコは人によってお好みでくらいでしょうか」
「ふむ」
「と言う事で、まずは温めたフライパンで取りひき肉を炒めましょう。目分量でも今回は構いませんが、私が今回は鳥ひき肉を入れますね」
こうして、熱したフライパンにごま油大匙1を入れると、我が鳥ひき肉を目分量で200入れ込み勇者が炒める。
この際、ひき肉が大きなダマにならないようにするのがポイントだ。
炒めたら次はキノコを投入して少しシンナリするまで炒めさせると、水300を入れて沸騰させる。
「今回も灰汁を取るのか?」
「ええ、取ります。灰汁は敵ですから」
「そうだな、悪は敵だ」
そう言うと、勇者はお玉を手に沸騰して出てくる灰汁を頑張って取っていた。
灰汁の響きがきっと別のものに変換されていたであろうとは思うが気にしてはならない。
料理を作る上では些細なことだ。
「灰汁を取り終われば、次はスティックタイプの出汁を半分だけ使います」
「何故半分なんだ?」
「残りの半分をサトイモに使うからですよ。出汁は美味しいですが入れすぎは厳禁です」
――素材の味を生かす。
これはとても大事な事。
他の調味料で味が死んでは元も子もない。
「出汁を入れたら、ショウガ(チューブ)を小さじ1、みりん大匙1、酒大匙1、醤油大匙1を入れて下さい」
「わかった」
「ここでのポイントは、一度沸騰させてから弱火にして5分煮込むことです。その5分の間に水溶き片栗粉を作りましょう」
「とろみと言うヤツだな!」
「その通りです」
意気揚々と口にする勇者に片栗粉を手渡し、片栗粉大匙1をお椀に入れさせ、水大匙2杯で溶かせると、丁度良くキッチンタイマーが5分を告げてくる。
「では火を止めて水溶き片栗粉を入れて混ぜましょう。のの字に入れてから混ぜると良いですよ」
「のの字だな!」
「多少ダマになっても構いません。初心者の貴女ではダマが最初出来るのは仕方ないことですから」
安心させる為にいったが、勇者には癇に障ったらしく、頑張ってダマにならないように水溶き片栗粉を入れ混ぜきった。
ほう、初心者にしてはやりよる。
「お上手ですね」
「勇者だからな!」
「では弱火にして軽くとろみをつければ、餡は完成です」
――此処までが第一工程。
次はサトイモが待っている……とは言っても、サトイモの方は簡単過ぎる訳だが。
「ではお次はサトイモの工程に入りますが、今回は冷凍食品を解凍せずそのまま使います」
「解凍しなくていいのか?」
「その為の作り方ですから、まずは冷凍食品のサトイモを2袋、餡の入っていない別のフライパンに入れて下さい」
「分かった」
「終わったときに餡を入れるので、少し大きめのフライパンでお願いします」
「了解した」
我が家の少し大きめのフライパンを取り出すと、少し温めたフライパンに冷凍食品のサトイモを2つ入れ込んでいく勇者。
「ではそこに、水大匙4を入れて、先ほど使った出汁のスティックの残り半分を入れて下さい」
「ここで使うのだな」
「出汁のしみたサトイモは美味しいですからね。入れたらフライパンをゆすりつつ、全体に出汁が行き渡るようにして下さい」
ここで初めて勇者は筋肉を必死に使ったようだ。
まだ小学三年生には少々重いフライパンを必死にゆすりながら、ブツブツと「美味しくなれ美味しくなれ」と呟いている。
そんな姿は、妹としてみれば可愛らしいのだろうが、妹なのに勇者が故にあまり可愛いとは思えない我がいる。
「水気が無くなって、サトイモがほっこりしたらOKですよ」
「もう少し掛かりそうだ」
「では焦げ付かないように頑張ってゆすってください」
それでも、そう時間が経たない内にホッコリ出来上がったようで、今度はサトイモの入っているフライパンの中に、作っておいた餡を流し込んでいく。
これは流石に重いだろうと我が入れ込んだが、軽く絡めて完成となった。
「……なんか餡のとろみが薄い気がする」
「今回はトロットロな餡にはしなかったんですよ。とろとろの餡にしたい場合は、片栗粉を大匙2にすると良いですよ。では最後に味を確認しましょうか」
ここに来てやっと味見を思い出した勇者。
まぁ、調味料を入れ終わってからコッソリ味見をしておいたので問題は無い。
勇者もその時に気付けば良かったんだが、水溶き片栗粉を作るのに必死だったようで気がつかなかったようだ。
「……うまい」
「ええ、素材の味もしっかりと、優しくも美味しい味ですね」
「はは! 魔王の台詞じゃないな!」
「フフ、貴女は私の料理で育ってきたじゃないですか。どの口が言います。貴女の血肉は私が作った料理で出来てますよ」
その一言に一瞬固まる勇者。
ある意味勇者を育てる魔王……と言う何とも言いがたい事実が此処にあった。
まぁ、兄妹なのだから仕方ないのだが――。
「……魔王に内側から侵食されてた」
「失礼ですね。何時も美味しい御代わりと言っていたのは貴女です」
そんな言いあいをしながらも、今日の夕飯の一品は出来上がり。
夕食では今回も家族は勇者が作った料理を褒め称え、勇者も無い胸を張って嬉しそうに微笑んでいた。
しかし――。
「小雪はボクの所にお嫁さんに来る為の修行をしてくれているんだね! ボク嬉しいよ!」
魔法使いのその一言で、今まで見たことも無いほど顔を歪めている勇者を見ることになるのだが、そこはスルーしつつ皆で食事を楽しんだ夜の事だった――。
■■ 寺魔王様の味付け、サトイモのそぼろ餡かけレシピ ■■
冷凍食品のサトイモ2袋
鳥ひき肉200
キノコお好み
①ごま油大匙1で、鳥ひき肉を炒める
②キノコをしんなりするまで①に入れて炒める
③水300を入れ、沸騰させて灰汁を取る
④出汁を2分の1入れる
⑤しょうが小さじ1(チューブ)、みりん大匙1、酒大匙1、醤油大匙1を入れる
⑥沸騰させてから弱火にし5分煮込む。
⑦煮込んでる間に、片栗粉大匙1を、水大匙2でとく
⑧火を止めて、水溶き片栗粉を入れて混ぜる。
⑨弱火でとろみを軽くつける。
①さといもをフライパンに入れ、水大匙4、出汁2分の1を入れる
②ゆすりつつ全体に出汁が行き渡るようにする
③水気がなくなってほっこりしたらOK(水気を無くすのがポイント)
④さといもに作った餡を入れて軽く絡めて完成
サトイモ美味しいですよね、今の時期は旬ですし(`・ω・´)
料理初心者マークの作者でも美味しく作れますので、試してみようという方はどうぞ!
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