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寺魔王様の、けんちん汁

「転生魔王は寺に生まれる―外伝― 寺魔王様の寺料理」は、

「転生魔王は寺に生まれる~「魔王様、現在のお仕事は?」「異世界で僧侶してます」~」の

外伝小説です。


寺料理に興味がある、または「てらまお」待ってた! と言う読者様お待たせしました。

実際に寺生まれ、寺育ちの方よりレシピを聞いて、実際作者が作った料理を掲載しております。

(最後の部分にレシピあり)

両作品とも、どうぞ応援宜しくお願いします(`・ω・´)ゞ

 オル・ディールの世界に君臨していた魔王が、今、正に封印されようとしている。

 幾つもの国を滅ぼし、数え切れぬ程の残虐を起こした魔王ダグラスは、勇者達と共にやってきた聖女により身動きが取れない状態にあった。

 満身創痍(まんしんそうい)の勇者達。聖女もまた、息も切れ切れになんとか封印を施そうとしている。



『ほう……我を封印せし聖女を連れて来ていたか……余程人間どもは必死と見える』

「黙りなさい! 沢山の人々を苦しめた貴方は私が封印してみせるんだから!」



 魔王もまた、殆どの力を使いきるほど魔力が枯渇していた。

 だからと言って、何も出来ないわけではない。

 自分の後ろに大きな空間の歪みを感じて後ろを振り向くと、どうやらこの先に封印されるのだと確信する。

(ふむ、良い案が浮かんだぞ?)

 口角を少しだけ上げ、今にも倒れそうになっている聖女を見つめた。

 囚われてはいる、だが手首から先は動くのだ。

 魔王は聖女の足元に自分の影を這わせ、彼女の両足首に絡みついた。



『独りで封印されるのも、お前達をただ喜ばせるだけだろう……ならば聖女も共に、我と行こうではないか』



 魔王の言葉に勇者達は顔を上げる。



「聖女様!!」

「――だったら、一緒にいってやるわよ!」



 止めようとする仲間を無視し、聖女は全ての力を使いきると同時に――魔王と共に黒い空間の歪みの中へと消えて行った。







 元魔王は異世界転生して寺に産まれ、勇者を含む聖女達と共に日々、仏の教えを身につけている……。



 そして――。



 寺魔王は、料理に目覚めていた。





 寺の料理と言えば、精進料理(しょうじんりょうり)を思い浮かべるだろう。

 簡単に説明するならば、動物性の食材は禁忌とされているのが有名だろうか。

 しかし、それはごく一部の厳しい寺に課せられた内容であり、田舎に行けば行くほど、そういった厳しい縛りは無くなってくる。

 元より、時代に合っていないのだ。

 今の時代、肉も野菜もバランスよく食べなくては体を壊してしまう。

 特に食べ盛りの子供がいる寺などは寛容になってくるだろう。

 そう言ったことあり、厳しい決まりがあるわけでも無いが――寺の味付け料理で、肉も野菜もバランスよく食べている。

 また、寺の味付けは体に良いのも含めてだが、浮腫み対策にもかなり有効だったりするらしい。





 *





「何事も栄養バランスは大事ですね」



 そう口にして割烹着(かっぽうぎ)を装備する我は台所へと向かう。

 勇者もとい、妹の小雪のお弁当作りにも昔励んでいた身としては、朝から厨房に立つ事は日課であり、男子厨房に入るべからず――なんて時代遅れの考えは持ち合わせてはいない。

 さて、今は小学校から帰宅してからの夕食作り。

 どんな料理を作ろうかと冷蔵庫を開けていると、勇者が駆け込んできた。



「魔王よ! 私に何か食べ物をよこせ!」

「勇者の台詞じゃありませんね」



 小学校三年生……育ち盛りは良いことだが、言葉使いを正さねば勇者は寺の娘として恥ずかしい思いをするのでは無いだろうか。

 寧ろ、料理一つ出来ない勇者は将来困った事態に発展するのでは無いだろうか。

 兄心が複雑に揺れ、我は勇者に向き合った。



「勇者よ、いい加減貴女も料理を覚えるべきです」

「私にはまだ早い」

「早くありません。私が簡単な料理を教えますから料理を覚えましょう。手作り弁当なんてアキラに作ればポイント高いですよ」



 この一言にピクッと止まる勇者。



「男性とは家庭的な女性を好みます。貴女はアキラの大好きな ()()()() が無いんですから、家庭的なところから責めるべきです」

「小さいとか言うな! ()()()()()()()()()()()()だって誰かが言ってた!」

「的を得てますが虚しくはなりませんか?」



 誰だ勇者にそんな言葉を教えたのは。

 まぁ、言うまでも無く魔法使いでしょう、余計な事を教えるなと後で釘をさしておきましょう。



「でも本当に料理を覚えなくて宜しいのですか? 今なら時間に余裕がある間に私が教えることが出来ますよ」

「……確かに料理は覚えたいが」

「何も行き成りハードルの高い料理を貴女には作らせませんよ。冷凍食品も使いますし時間もそうは掛かりません」



 貰った野菜が多い為、出来るだけ貰ったその日に使うか、その日の内に冷凍野菜に加工しているのもあり調理は短時間ですむ。

「最初から手間隙かけて作るのが料理だ」と喚くような男がいたとしたら、それは時代錯誤と言うものだ。

 ()()()()()()()()()()()()()



「……でも、エプロンとか持ってないし」

「私の割烹着を貸しますよ。必要ならエプロンくらい縫って差し上げます」

「クソッ 魔王の癖に女子力高いな!」

「オカン力が強いと言ってい頂きたいですね」



 こうして、初日の今日は勇者に私のお下がりである割烹着を着させ、初めての兄妹(魔王勇者)での晩御飯作りを始めた。

 味付けは無論、()()()()()

 一般家庭の味付けよりはかなり味が薄いといわれても仕方が無いかもしれないが、素材の味を楽しむのも大事だと我は思う。

 魔王時代の我では信じられない事だろう。



「さて、今日は少し肌寒いですので【けんちん汁】を作ろうと思います。他にも色々作りますが、貴女に教えるのは【けんちん汁】です」

「汁物か……確かに料理としては入りやすいかも知れんな」



 材料は、木綿豆腐、コンニャク、長ネギ、大根――と、最初から全ての素材を切っていたりしたら時間が幾らあっても足りない。

 ゆえに、時短をするとすれば、スーパー等で売っている【()()()()()()()()()()()()()()】だろう。

 お値段も手頃で色々必要な野菜は揃っているので時短に命をかける者にとっては、何にも勝る味方だろうと思われる。

 それに、豚汁セットを使う場合、スーパーの商品によるが、大根が入っている場合もあり必要になる材料は更に少なくなる。



「と言う事で、今回はこのスーパーの豚汁セット(冷凍食品)を使おうと思います」

「おお! これが主婦の強い味方というヤツだな!」

「昔の冷凍食品は不味いや体に悪い等と色々言われていましたが、冷凍食品を舐めてはなりません。近年、野菜を買おうとすると高い場合が多いんですが、そう言う時こそ冷凍食品の出番だと思います」



 そう、猛暑だ日照不足だと野菜が高い。

 スーパーに必要な調味料を買いに行く際そのあたりのチェックも入れているのだが、季節の野菜、旬の物だというのに値段が高いと感じることが多くなった。

 何より、モヤシが10円も値上がりした時は驚きを隠せなかったものだ……。

 ――さて、気を取り直して。



「まずは下準備です。頭が混乱しないように必要なものを出しておきましょう」



 そう言うと、ごま油、コンニャク、木綿豆腐、スーパーで売っている豚汁セット、酒、醤油、出汁一本を取り出した。



「魔王よ、たったコレだけの材料なのか?」

「たったコレだけです。何せ冷凍食品を使いますからね、お手軽なものですよ」

「この出汁は?」



 そう言ってスティックタイプの出汁を手にする勇者。

 コレこそがある意味、味の決め手なのだが……今まで気がつかずに食べていたのか?



「作りながら説明しましょう。ではまず、ザルに木綿豆腐を十字に手で割って入れてください」

「木綿豆腐なんて、直ぐに使ってしまえば良いじゃないか」

「いいえ、木綿豆腐からはかなりの水分が出るんですよ。この手間を惜しむと汁の味に濁りが出てしまいます。コレは()()()()()()()()()です」



 我が説明すると、勇者は納得したようなしてないような……多分まだその辺りが理解出来ない表情で十字に割り、ザルに入れた。



「確かに水分多いな……」

「ええ、コレを取ってないと味が綺麗に整わないんです。確かに時短は大事ですが、肝心なところを手抜きしては素材に失礼ですからね、充分に水気が取れるように、ある程度水分が取れたら更に手でちぎって……そうですね、少し大きめの一口サイズにちぎって下さい」



 指示を出すと勇者は「一口サイズより少し大きめ……」と呟きながら木綿豆腐をちぎっていく。無論ボロボロと崩れる木綿豆腐に困惑しているようだが、それらも全て料理に使うのだと言うと納得してちぎっていた。



「では、コンニャクもちぎりましょう。 手でちぎったほうが美味しいと個人的には思うのですが、慣れていない場合はスプーンで一口サイズにしていくのが良いでしょうね」

「なるほど」

「ワイルドに行くなら手でちぎりますか?」

「ワイルドに行こうじゃないか」



 そう言うと私からコンニャクを受け取り、手で必死にちぎっていく勇者。

 全てのコンニャクを一口サイズにちぎり終えると、私はコンニャクをボウルに移し、塩を少し振って揉みだした。



「……何をしているんだ魔王」

()()()()()です。コンニャクはこうしてヌメリを取っておくことで美味しく頂けます」

「色々手順があるのだな……材料は少ないのに」

「色々とは何です。まだたった二つじゃないですか。美味しくなる為の必要工程です」



 ヌメリがある程度取れたところで水洗いすると、鍋を取り出しコンロに火をつける。

 勇者も気合を入れる為だろう、三角巾を調えるとコンロの前に立った。



「さぁ魔王よ、まずは如何すればいいんだ?」

「まずは大匙1のごま油を入れてください」

「了解した!」



 勇者は大匙を取り出し、几帳面にごま油を注いで鍋に落とした。

 ごま油が温まると、次は木綿豆腐を投入する。



「木綿豆腐からは水分が結構出るかと思いますが、まずはごま油が木綿豆腐によく絡むまで炒めて下さいね」

「了解した!」

「木綿豆腐にごま油が程よく絡んだら、コチラの別皿に木綿豆腐をお願いします」



 そう言って皿をコンロの隣に置くと、勇者は慣れない手つきで木綿豆腐と格闘している。

 その間に我は別の料理を作るわけだが――勇者は度々「これくらい?」を連呼してくる。

 料理初心者らしい質問で思わず苦笑いと言うべきか微笑ましいと言うべきか。



「魔王――! コレ位で良いのか!?」

「ええ、それくらいで丁度良い感じです。上手ですよ」

「当たり前だろう! 私は勇者だぞ!」



 ()()()を張ってはいるが、何度も何度も「これくらい?」を連呼した事など覚えていないのだろう。

 生暖かく微笑む我を見る事も無く勇者は別皿に木綿豆腐を移した。



「では、ここからはとても簡単です。スーパーの力、主婦の強い味方……冷凍食品を使います。まずは先ほどの鍋にごま油を大匙1入れてください」

「わかった!」

「そこにこの豚汁のセットを2袋入れます」

「魔王よ、人数は何人分なんだ?」

「そうですね、大体多めに作っているのですが……二人暮らしなら二日分くらいと思っていただければ解りやすいかと」

「なるほど」



 そう言うと勇者はごま油を大匙でこれまた几帳面に入れ、袋を破り冷凍の豚汁のセットを鍋に入れ込んだ。



「今回は冷凍の豚汁セットに大根が入ってましたが、大根が入ってない場合は、大根をいちょう切りして入れてください。いちょう切りとは大根を輪切りに切って、十字に切ればいちょう切りです」

「解りやすい」

「でしょう?」



 そんな会話をしながらある程度、サトイモがホクホクになるまで炒めると、今度はちぎったコンニャクを追加で入れ込み炒めていく。



「良い感じになりましたね、では勇者がちぎって炒めた木綿豆腐を戻しますよ」

「了解した」



 別皿に移していた木綿豆腐を鍋に入れると、ここからは調味料の出番だ。



「まず、水を800入れて下さい」

「軽量カップに800っと……入れたぞ」

「次に出汁を一本」

「了解」

「そして、酒大匙2入れて煮込みます。お酒は調理酒が無い場合は日本酒でも構いません」

「ほお……」



 関心したようにその肯定を見た勇者を他所に、キッチンタイマーを20分にセットお玉を手渡し、皿に水の入ったボウルを手渡した。

 ここからも味を整える為に必要な事があるからだ。



「魔王、これは?」

「今から、このけんちん汁から灰汁(あく)が沢山出ます。灰汁はしっかり取っておかないと味に雑味が出ますのでシッカリと取って下さい」

「お、おぉ……」

「心配しなくとも、もう直ぐ出来上がりますからね。ここで手を抜かないようにして下さいね」



 そうクギをさすと、我は勇者にけんちん汁を託し別の料理を作り始めた。

 今日はけんちん汁に合う、ホウレンソウのおひたしとブリの照り焼きを作る。

 一汁三菜(いちじゅうさんさい)……これはとても大事な事だ。

 健康的に過ごす為には、やはり偏った食事より一汁三菜。

 この世界の人間とは早死にしたいのかと疑いたくなるほど偏った食事に塩分の多いものを好む傾向がある様だ。

 嘆かわしいことだな……外に出ればモンスターがいる訳でもあるまいに……。

 そんな事を思いつつも隣を見れば灰汁をシッカリ取っている勇者がいる。

 オル・ディールの世界ではきっと料理などしたことが無いのだろう、実に楽しそうな表情で灰汁を取っていた。

 そしてキッチンタイマーが鳴ると、取れた灰汁をニコニコ笑顔で我に見せてくる。



「どうだ! シッカリと灰汁を退治してやったぞ!」

「素晴らしいですね。ではそれは流しに捨ててください」





 そう指示を出すと勇者は流しに灰汁を流しボウルを軽く水洗いした。

 うむ、ちゃんと出来てなければ声をかけようと思ったが出来ているではないか、関心関心。



「では、醤油を大匙3入れて下さい」

「大匙3だな!」

「これは使っている醤油で味が随分と変りますが、我が家で使っている醤油は大匙3で充分です。ご家庭にある醤油は各家庭で違いますからね」





 そう説明しつつも、勇者は「ほうほう」と心此処にあらずで大匙3の醤油を入れ込んだ。



「此処で更に10分煮て、長ネギ……あ、長ネギを忘れてましたね。今回は長ネギ無しのけんちん汁にしましょう」

「ウッカリしたな魔王!」

「誰にでもウッカリはあります、無くとも問題はないので良いでしょう」



 ニヤニヤする勇者の頭をパンと叩き、お玉を受け取ると味見をする。

 素材を生かした優しい味……やはり料理とはこうでないと。



「どうだ? どうだ!?」

「落ち着きなさい、実に雑味もない良い味です。後は10分煮込んだ後、ごま油を小さじ1入れて全体を混ぜて強火でひと煮立ちさせれば完成ですよ。簡単でしょう?」

「簡単かどうかは置いておくとして美味しそうだ!」

「そうですか、では後で今日作った料理のメモを手渡しましょう」



 こうして、無事に勇者初料理となる【けんちん汁】が出来上がった。

 味付けは素材の味を楽しめる優しい味。

 夕食の時、父と祖父は勇者が作ったけんちん汁を「美味い、美味い!」と何度も口にしながら食していた。



「こんなに喜ばれるなら、また作っても良いな!」

「それは良いですね、私が教えて差し上げましょう」

「祐一郎は料理が得意だからねぇ。小雪もきっと料理上手になるわ!」



 母の嬉しそうな表情と言葉に、勇者は「任せろ!」と、また()()()を張った。

 ふむ、次はどんな料理を教えてやろうか……工程が多い料理はまだ早いだろう。

 とにかく簡単に終わる料理から慣れさせて行こうと決めた。



 その晩、風呂も終わり今日作った料理の工程を勇者に手渡し――





「しっかりファイリングして置きなさい。貴女が嫁ぐ時に役立ちます」

「……何も筆で書かなくても……ってか達筆だな!!」

写経(しゃきょう)のついでだったので」





 こうして、妹としての小雪が嫁ぐまでの間に寺の料理を叩き込もうと決意した夜でもあった。







 ■■ 寺魔王様の味付け、けんちん汁レシピ(四人前くらい)■■



 ①鍋にごま油をしいて温める

 ②木綿豆腐を手でちぎって全体に油が回るまで炒め、別皿に取る

 ③冷凍食品+大根をごま油で炒める(大根いちょう切り、見た目三角)

 ④コンニャクを3に追加して炒める

 ⑤3に豆腐を戻して、水800、出汁1本、酒大匙2を入れて沸騰させる。

 ⑥灰汁を取りつつ20分煮る

 ⑦灰汁が取れたら、醤油大匙3を入れて、10分煮る

 ⑧長ネギを刻んで入れて、ごま油小さじ1を入れて全体を混ぜ、強火でひとにたちすれば完成


出来るだけ不定期更新にならないようにしたいですが

子供がまだ小さい為、そこはご了承下さい。


ポチッと応援があると頑張れます(`・ω・´)ゞ

感想等もありましたら、宜しくお願いします(*´∀`*)


二話更新していきます。

(朝7時更新、夕方4時更新の2回です)

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