旅行の始まり
メアリ王女は私より1歳年上の現在17歳。あと1年でこの国の成人である。ポート王国の貴族には魔法使いが多い為、魔力が安定し学園を卒業する18歳で婚姻が可能になる。学園に通うことのない魔力のない子は特に制限はない。メアリ様は既に国王並みの魔法の使い手で四大魔法の土、風、火、水の攻撃魔法を使う事ができる。1つの属性を極めれたら出世が望める魔法使いとされているので、メアリ様は桁違いの魔法使いなのだ。
それとは別に公爵てある我がキャンベル家は治癒と防御魔法に特化している。これはどちらも珍しく、稀有な能力の為王族とは度々政略結婚が行われている。
そのせいなのか、メアリ様の祖父と私の祖母が兄妹だからなのか、実は私とメアリ様は風貌がどことなく似ているのだ。金色のウェーブのかかった髪は後ろから見ると双子の様である。顔の作りは、メアリ様は瞳は大きく少しつり目の勝ち気な美人なので、あまり似てないがぱっと見は似ているのである。
だから今回の旅行で私がお供に選ばれたのだ。
そう、いわゆる身の危険がある時に、代わりになる為である。王女の意思とは関係なく、最終的に私が選ばれたという事は今回はその危険に遭遇する確率が極めて高いという事だ。
そんな事を馬車の中で向かい合って座る王女様の横顔を見ながら考えていた。
「リーシア、あなたアルフォンスと結婚することに疑問はないの?」
メアリ様が唐突に尋ねる。
「特にないですね。何年も前から決められていたことですし。」
いきなりそんなことを聞かれても困る。10歳の頃に王家から第一王子アルフォンス様との婚約を申し込まれた。当時からメアリ様の遊び相手として王宮には出入りしていたが、一度も面識のないまま婚約者となったのだ。メアリ様は第一王妃の娘であり、アルフォンス様は第二王妃の子である為幼少の頃に住んでいる離宮が異なっていた。王妃同士が仲が芳しくないのだは、大体どこの国でも同じ理由である。
アルフォンス様は、私が大怪我をして寝込んでいた時知らずに突然家に訪ねてきて初めて出会ったのだ。私は子供ながらに、婚約者が心配して会いに来てくれたのだと思ってドキドキしながらベットで体を起こした。そんな傷だらけのお前が私の婚約者となのか?だから条件付きなのか?と。挨拶もせずにいきなり不機嫌な顔で不躾に尋ねてきたのは幼心に衝撃だった。年齢を重ねれば、普通はその様な令嬢を王族の婚約者にしないことは解る。王子の言い方も子供だったから配慮が足りなかったことも。
それ以降は、王宮で行われる式典で年に2,3度顔を合わせる程度だった。年に1回程度父の領地へ数週間の療養という理由で帰っていたため病弱認定されいると思う。アルフォンス様とは15歳から学園入学してからは毎日挨拶はしていたが、お互い学科が別の為授業で顔を合わすことは無かった。
毎日、体調は大丈夫か?と腫物を触るように聞かれ、大丈夫ですと答えることだけが二人の会話であった。
そう、私たちは婚約者同士でありながら挨拶以外の会話を一切したことがない完全に義務的な関係なのだ。
「・・・・・・・・ごめんね。」
「一体何がでしょうか?」
「私のせいだから。」
「・・・何のことでしょうか?」
「・・・」
メアリ様は先ほどから何かを言いたそうに、核心を突くことが出来ず申し訳なさそうにこちらを伺っている。
―ガラッ。いきなり馬車の窓が開き護衛中の兄が覗き込んできた。
「メリー姫もリィもちょっと暗くないですか?折角の外国旅行ですよ!どこ行きたいとか、何食べたいとかワクワクしてくださいよ。周りを護衛してるこっちも気分が落ち込んできますって。ずっと馬車に乗っててお尻が痛いかもしれませんが後1時間もすれば、鉄道駅に到着します。」
シリウス兄様は幼少期に私と一緒にメアリ様の遊び相手として一緒に王宮へ通ってたこともあり、メアリ様のことを妹のように扱う唯一の人物でもある。一足先に学園に入学した為子供の頃の印象が抜けないのだと言っていた。
「シリウス・・・今回は私の婚約者との顔合わせと婚姻に向けての打ち合わせに行くんですのよ?一体何を浮かれているのか・・・」
「向こうについてもずっと籠りっぱなしじゃないですって。自由時間ぐらいありますよ。ほらリィも無表情辞めて、楽しんで。じゃっ。」
ちょっと暗くなってしまった車内の雰囲気をスパッと切り替えるように兄が声を掛けては小さな窓を閉めた。
「そうね、暗い顔で会いに行ったらまずい・・・わよね。」
「はい。第一印象悪いですね。」
「うーん・・・・楽しいことか。どこか見たい所ある?」
「私は、魔道具屋さんに寄ります!」
「魔道具屋?一体何が売ってるの?」
「うーん機械?というか、トランセット王国で販売している魔術道具が欲しいんですよ。メアリ様の部屋はランプに火の魔法で灯りをつけるじゃないですか。私火の魔法が使えないので、毎回火付け石や、侍女に頼むしかできないんです。向こうで売ってるランプにはただスイッチを押すだけで灯りが付いたり消したりいるものや、色々な道具があるんですね。」
「貴女...一気にそんなに話すことができたのね。」
「え、驚くところそこですか?」
メアリ様があまりにも吃驚した顔で私の顔を見るので、思わず二人でちょっと笑ってしまった。
「そういえば貴女は魔道具科だったわよね?貴女が作った熱風がでる道具で侍女が髪を乾かすのが楽になったと言っていたわ。」
「はい。私は四大属性どの魔法も全く使えないので、魔法科にも通いにくいですし。せめて便利な道具を開発できれば使えるんではないかと思いまして。」
「それだと、これからいくトランセット王国は貴方にとって中々に楽しい場所かもしれないわね。」
我が国とは違い科学大国と言われるトランセットは、様々な燃料で動く機械や装置を作っている。燃料が魔力であれば、それは魔道具である。出不精である私は自宅に籠って魔道具の開発するのが趣味である。実はこっそり国内に出回っているトランセットとの共同開発された魔道具をコツコツ収集もしている。そんな私にとっては夢の国なのである。
馬車が止まり、外から護衛が声を掛けてきた。
「鉄道駅に到着しましたが、二人とも着替えは済んでいらっしゃいますか?」
「大丈夫です。ドアを開けてもらって問題ありません。」
ここからはメアリ様より豪華なドレスを私が着用している。お忍び旅行ではないので、大っぴらに影武者をするわけではなく、一見すると私の方が身分が高そうだと思える程度だ。後ろから見れば確実に私がメアリ様に見えるだろう。これは、幾度となく行われた王女暗殺未遂を防ぐためである。身動きの取りにくい動く列車内で少しでも王女の安全確保する為である。
先に馬車を降りると空に向かって伸びをし、満面の笑みで駅から少しのぞいて見える鉄道に好奇心を抑えれないメアリ王女。その微笑ましい姿を見ながら気を引き締めゆっくりと馬車を降りる。
シリウス兄様もここまでの道中とは違い、顔が少し緊張気味になる。ここからは国外へ出るため護衛の数が減る。今回護衛として入国許可が落りたのは5人。騎士が2人に魔法騎士が兄を含め2人、魔法使い1人だ。王女の侍女2人に私の侍女1人、そして王女と私の計10人へ入国予定である。
トランセット王国とは同盟国の為、厳戒体制をとる必要がない。むしろ同盟国だからこそ不必要に騎士や魔法使いを連れて行く事ができないのだ。
どんな内装なのかしら?車内で寝るのよね。早く乗りましょうよと楽しそうなメアリ王女に近づきながら相づちを打つ。
我が公爵家に対し内密に王命により下されている指令
――第一王女メアリの王位の継承まで第二王妃の刺客からメアリ様を守り切ること。