文芸少女、異世界転生物に挑戦する
*感想、要望、お題があれば次話の参考にします
*ブクマ、評価で美栞ちゃんのやる気が上がります
*レビューを頂けると美栞ちゃんが脱ぎます
「やっぱり時代は異世界転生物だと思うの!」
「……最近は多過ぎる気がするけどね」
ある日の放課後。
文芸部の部室で幼馴染の美栞ちゃんの言葉に僕は苦笑気味に答える。
「それだけ受け入れやすいジャンルって事だよ!
主人公が日本人だったら、異世界物でも主人公に共感し易いし!」
「まぁ、一理あるかな」
「でねでね! 私も試しに異世界転生をテーマに小説を考えてみたんだ!」
「へぇ、どんな感じ?」
「俺TUEEE! とかチートとかだとメジャー過ぎるから、主人公は逆に天才とかチートはなしの方向で考えてみました!」
「ない訳ではないけどマイナーだね」
「でしょ! チート関連を外すとなると、剣と魔法の世界だけど、ある程度文明は進んでた方がいいと思うの。
知識チートとか内政物にならない様に、そんな事誰でも知ってるよぐらいの勢いが欲しいよね」
「ふむふむ」
「魔法も特別じゃなく誰もが使える設定で、歩く程度の感覚で火が出せて、全力疾走程度の感覚なら焚火レベルの火を出せるまでが理想かなぁ」
「焚火って絵面はパッとしないけど、あれって地味に熱くない?」
「うん。昔、宗ちゃんの家族と一緒にやった焼き芋パーティーの焚火は本当熱かったよね」
「ああ、あれか懐かしいな」
「ねー。熱々の焼き芋は凄い美味しかったなぁ」
当時の味を思い出したのか、美栞ちゃんが瞳を閉じてぽわんとした表情を浮かべる。
うん、今日も美栞ちゃんは可愛い。
「あっ、話が逸れた!
それでプロットなんだけど、主人公は雨の日に暴走する痛トラから少女を助けようとして、少女と一緒に死んじゃうの」
「えっ、そこ痛トラの意味ある?
しかも、助けきれてないし」
「様式美を守りつつアレンジを加えてみました」
「アレンジし過ぎ」
「それで主人公は異世界に転生して、俺TUEEE!になろうと頑張るけど、大人なるにつれ主人公は気づくの。
自分には特別な才能がないって。
俺TUEEE! にはなれないって」
「……」
「勉学は学校で1番になれず、魔法の模擬戦では天才少女にボロボロのけちょんけちょんにされる主人公」
「作者が主人公に冷た過ぎる」
「それでも主人公は雑草魂でなんとか王国のエリート集団である騎士団に入団するの」
「おお、少しデレた」
「騎士団は王国でも特別で、入団時から特殊な武器を貸与されるの。日本で言うなら警察の拳銃の保持かな」
「ふむ。特殊な武器って?」
「本人の資質や魔力に応じて形や性能が変わるユニークウェッポン」
「BLEA◯◯?」
「主人公は入団式で他の新入団員に貸与され剣や弓に変化する武器を見て期待に胸を膨らませるの。
これで自分は俺TUEEE! になれるかもしれないって。
そして、待ちに待った主人公の番になり、武器を受け取ると武器が光り変化を始める」
「おおっ」
「そして、変化した武器は何の変哲もない木の盾だった」
「そこはせめて武器であって欲しかった」
「軽く絶望する主人公」
「だろうね」
「そして、始まる地獄の訓練の日々。
今までの努力や頑張りを越えた極限の訓練。
騎士団序列5位の指導にボロ雑巾の様になる主人公。
それを見て高笑いする序列5位」
「どこの悪役令嬢ですか?」
「序列5位の二つ名は『白剣女王』」
「あっ、女王様でしたか、はい」
「でも、1年間の訓練生としての日々が終わる頃に主人公は己の変化に気づく」
「おお」
「綺麗に割れる腹筋。
盛り上がる上腕二頭筋。
タイヤの様に太い太腿」
「えっ、そっち?」
「あっ、もちろんそれだけじゃあないよ。
魔力は一般人の10倍以上になり、盾も進化して表面に模様がついて綺麗になるの」
「おお、ファンタジーっぽい。……木の盾だけどね」
「そう、その見た目はまるで主人公の割れた腹筋」
「期待を裏切らない主人公に対する作者の冷たさ」
「それで1年の訓練期間が終わると、それまでの経過から騎士団での序列が決まるんだけど、最終訓練で事件が起こるの」
「ザ・テンプレ」
「最終訓練は魔物が蔓延る悪夢の森でのキャンプだったんだけど、功を焦った新入団員の1人が天災級の魔物を刺激しちゃっうの」
「そう言うキャラって大抵貴族で嫌なキャラなんだよね。物語りから退場すればいいのに」
「うん、その新入団員は天災級の魔物にあっさり殺されちゃうんだけど、怒りの収まらない魔物は悪夢の森の魔物を全て暴走させちゃうの」
「……なんとも言えない」
「事態を重くみた騎士団は団を小隊に分けて、悪夢の森の魔物殲滅に動き出す。
白剣女王を筆頭に暴走する魔物を殲滅するんだけど、主人公は殲滅作戦から外されちゃうの」
「まあ、盾だしね。タンクぐらいは出来そうだけど、殲滅には向かないのかな?」
「それもあるんだけど、悪夢の森に隣接する街への厳重警戒命令と街が要する冒険者ギルドに救援要請の伝令として走らされるの」
「あっ、冒険者ギルドとかあるんだ」
「宗ちゃんもおかしい事言うね。
剣と魔法の世界で、危険な森が近くにあるのに、なんでないと思ったの?」
「伏線なしでそれは理不尽過ぎる……」
「それで主人公は強靭な肉体と魔力強化で瞬く間に森を駆け抜け、街に到着すると門番に用件を伝えるの。
それを聞いた門番は至急厳重警戒の鐘を鳴らし、腕利きの冒険者達が森へと駆け出して行き、そこで主人公の任務は完了」
「えっ、まさかの主人公出番なし?」
「頑張って走ったんだからもういいかなって」
「主人公が報われなさ過ぎる」
「まぁ、勿論冗談だよ。
主人公はその後、万が一に備えて数人の冒険者と一緒に街の門を守るんだけど、そこに災害級の魔物が現れちゃうの」
「おっ、やっと主人公の見せ場だね」
「うん、主人公がタンクになって、前衛の冒険者達が攻撃するんだけど、前衛の冒険者達の攻撃に合わせた魔物の見事なカウンターに前衛の冒険者達は瞬殺されちゃうの」
「おい、冒険者達よ仕事しろ」
「一体で街を壊滅させる事が出来る災害級は伊達じゃないって事だね」
「思ったより大惨事だった。
そして、それを超える天災級ってどんだけなの?」
「ん? 天災級は一体で国を壊滅できる設定だよ?」
「えっ、それってもう詰んでない?」
「大丈夫! 騎士団の序列5位以上は世界を滅ぼせる程の力を持ってる設定だから!」
「予想以上に女王様が危険過ぎる!!
てか、チートとかはなかったんじゃなかったの?」
「あれ? 私はそんな事言ってないよ?
チートがないのは主人公だけだもん」
「主人公ぉぉおおお!!!」
「まあ、設定は一旦置いといて。
物語りを続けると、主人公は後衛の冒険者を門の向こう側に下がらせてたった1人で応援が来るまで魔物の攻撃を盾で防ぎ切る事を選択するの」
「一緒に守ったら駄目だったの?」
「うん、後衛の冒険者はまだ幼さが残る少女でヒーラーだから」
「あぁ、なるほど」
「それに主人公も伊達にユニークウェッポンを持ってる訳じゃないからね。
災害級以上の魔物の攻撃なんて、普通の盾だったら簡単に壊されちゃうよ」
「見た目は木の盾なのに」
「見た目は木でも、地獄の訓練を乗り越えた主人公の盾はその世界で決して傷つく事のない、世界誕生からあり続ける世界樹と同格だから」
「予想外の所から主人公が報われてて、視界がボヤける」
「でも、破壊不能の盾とは言え、それを扱うのは主人公だから体力、集中力にも限界があるの。
痺れる腕、軋む足腰、止まらない脂汗、ヒーラーの援護があっても溜まり続ける乳酸」
「…………」
「そんな極限の中で主人公の思考はたった1つの事に埋め尽くされていくの。
『守らなきゃ』って」
「……………………」
「『守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ、護らなきゃ
今度こそ絶対に守らきゃ』って」
「……………………」
「転生物は当たり前だけど、主人公はみんな一度は死んでるだよね。
誰もが一度は自分の命を守れず、この主人公は転生前に少女も救えなかった。
だから、二度と後悔しないように。
主人公のユニークウェッポンは異例の盾なんだよ」
「……………………」
「それに主人公は気づいて、無意識に盾の名前を呼ぶの『アイギス』って」
「……………………」
「ユニークウェッポンには段階があって、手に持ち形を変えるのが第1段階。
本人の資質を高め武器を進化させるのが第2段階。
ユニークウェッポンに込められた想いを知り、武器の名前を本能で知ることが第3段階。
この第3段階に至ってようやくユニークウェッポンは本領を発揮出来るの。
ちなみに、武器に込められた想いは本人が気づくしかないから教える事も教えられる事もない。
第3段階に至れて、ようやく序列100以内に入れるまでが設定」
「それでも100人はいるんだ」
「主人公はチートじゃないからね。
主人公に出来る事は他の誰かが出来なきゃおかしいもん」
「そのブレなささには好感を抱くよ」
「で、アイギスの名前を呼んだ主人公なんだけど、アイギスの盾は伝説のまま石化能力を持つメドゥーサの目を嵌めた敵を石化させる盾ね。
転じて、今だと無敵の目=レーダーとしてイージス艦や無敵の防御として使われる事もあるけど。
それはさておき、災害級の魔物がアイギスに石化させられて闘いは終結。
と、同時に限界を迎えた主人公は気絶しちゃって、次に目が覚めた時には、騎士団と冒険者達が悪夢の森の魔物を全て殲滅させてた所で物語りは一応完結かな」
「ん、お疲れ様。
個人的には面白くて良いと思うよ。
何より主人公が報われそうで何より」
「あはは、ありがとう。
でね、一応、エピローグとしては2パターン考えてて、活躍が認められて、上位の序列を貰って王族の護衛としての部隊に配属させられて王女様の命を守る事で王女様とラブコメする二部に繋がるパターン。
もう1つが、冒険者のヒーラーの少女も実は転生者で主人公が救えなかった少女という事が分かって、その少女にベタ惚れされてその街に配属されるパターンなんだけど、宗ちゃんはどっちがいいと思う?」
「何故かエピローグで主人公にデレたね。
女の子に惚れられないパターンはないの?」
「えっ、そんなのないよ。
だって男の子から護ってもらっちゃうんだよ?
惚れないのは女の子として逆に不自然じゃない?」
「そういうものなの?」
「うん、絶対そう!」
断言する美栞ちゃんに僕に悪戯心が芽生える。
「そっか、じゃあもし美栞ちゃんに何かあっても僕が絶対美栞ちゃんを護ってあげるね」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「「……………………ボッ」」
僕と美栞ちゃんは同時に赤面した。
「あはは、なーんちゃっ「宗ちゃんのバカーー! 女ったらしーー!!」って……」
僕が笑って誤魔化そうとしたが、恥ずかしさMAXの美栞ちゃんは恐らく本人にとっても意味がない言葉を叫び、部室を後にした。
「あー、しまった、いい過ぎた」
僕は天井を仰ぎ見て、軽く反省する。
美栞ちゃんが可愛すぎてついつい弄っちゃうのは僕の悪い癖だ。
あの状態の美栞ちゃんを通常に戻すのはやや骨が折れる。
まあ、それでも1日経てばコロっと忘れて、放課後には僕に新しく考えた物語りを笑顔で語り出す。
そう、今日考えた物語りを小説に起こして何かに投稿する事はない。
一度、僕という読者に話す事で満足するのか、それとも新しく話がポンポン出て来てしまうのか。
恐らく両方だろう。
美栞ちゃんの物語りは常に未完で完結することはないのだ。
ふと気づけば、余程慌ててたのか椅子には美栞ちゃんの鞄があった。
そして、窓を見れば予報外れの雨がいつのまにか降り出していた。
「……………………」
嫌な汗が僕の頬を伝う。
「美栞ちゃん、待ってーー!!」
僕は2人分の鞄を持ち慌てて教室を飛び出した。
帰り道、痛トラには気をつけなきゃと肝に命じて。
*感想、要望、お題があれば次話の参考にします
*ブクマ、評価で美栞ちゃんのやる気が上がります
*レビューを頂けると美栞ちゃんが脱ぎます