ある日、森の中―2
「お兄ちゃんを探しに、ねぇ……」
少女のその答えは答えになっているようで、答えになっていない。
兄を探しに飛び出してきたなんておかしくないか?なんでこの少女が探しに来ないといけない?
この少女の格好を見るに、身分が低いということはないだろう。なおさらおかしい。
身分があるのなら、まずは召使たちにでも探させるはずだから。
もし仮に、この少女はお兄ちゃんだかを探しに飛び出してきたとする。そうすると、新たな疑問が浮かんでくる。
どこからどうやってこの少女は来たのか。なんで誰もこの少女を追ってこないのか。
森の中にしてもなんにしても、あまりにきれいすぎるし、疲労も見えない。靴は磨かれているのだろう、うっすらと光っている。
何かに乗ってここまで来た、というのもなぜここで降りたのか、だったら、誰か他にいてもいいんじゃないか、という疑問点に否定されてしまう。
「はい。……どこから、来たのかはまだ、言えません。……すいません」
オレの考えを読み取ったかのように、少女はオレの心の中の問いに答えた。
なにか、わけがあるんだろうな。オレにだって言えないことはたくさんあるから。
「これからどうするの?お兄さんを探すんだっけ?」
「そうですね、探すんですけど……なんといいますか、その……」
何も考えていなかったわけか。
だったら――
「学園都市までいっしょに行くか?」
少女が絶対に訳ありで、なんか気になったからで、決して、変なことをしようと言うわけではない。
そして、言ってしまってから気づいたが、初対面の人間と街の外で一緒に行動するというのは、危険極まりない行為で、普通の人間なら、絶対しない行為である。まるで、オレがこれから襲うよ!なんていう合図をしているようなものじゃないか。
「え、いいんですか?お願いします」
少女の顔が明るい笑顔になり、俺に対しての警戒なんかは一切感じられない。
そんなんだと、逆にオレのほうが心配になるんだよな。親目線というか、なんていうか。
「ほんとにいいのか?オレ、悪い人間かもしれないぞ?」
オレは少女に最終確認をする。この少女がうっかりそういう判断をしてしまったのかもしれないのだから。
まぁ、この少女じゃなければ、こんな確認はしない。
「はい!」
オレの最終確認に元気の良い返事をした。
いや、あのさ……本当にいいわけ?
「……なら、いいんだが」
この少女、誰かついていないと、本当の悪い人間に騙されて、探すどころではなくなってしまいそうだ。
「お願いします。えーと、」
オレの名前、名乗っていなかったな。
こんなことになるなんて思ってもいなかったし、しょうがないか。
「リーデル•スカイ。家名はあるが、家を出たからないものと思ってくれ」
ほんとは、家を出たなんていう生ぬるいものじゃないんだが、この少女に教えるにはあまりにも酷というものだからな。
それに、少女に教える必要性もないわけだ。
この少女とは、長くても学園都市までの付き合いになるんだから。
「スカイさん、ですね」
少女はオレのスカイという名前を一文字一文字、口から大切に紡ぎだした。それから、少女も名を名乗る。
「私は、家名は言えませんが、コアといいます。スカイさん、これからよろしくお願いします」
少女――コアは身なりにふさわしい上品なお辞儀をして、名乗った。
名前が出ました。