ある日、森の中
夏休みが終わってしまう。
暇だな、すごく暇。
憎い魚が大量に取れたから、しばらく食料の心配はなくなった。ざっと考えて、一週間は持つだろうな。一週間も魚が続くなんて考えたくもないけど。
今から出発するが、まずは街道にでないとな。道なき道を行くっていうのも悪くはなさそうだけど、学園都市に向かうには、街道を通って行くのが効率いいしな。
もちろん、日中は歩いていくけど、夜の間は多少魔法をがんがん使っても大丈夫なはず。ずっと歩いていくなんて嫌なこった。
だから、オレは唱える。
「飛行」
久しぶりかもしれないな、魔法を使うのも。最近は死のう、死のうと思っていて、移動には危険な馬車とか、飛行船とかに乗って移動していたのである。
今は、目的がむやみに死にに行くことじゃなくて、効率的にいかに確実に死ぬかということが目的だからな。
しかしこれは快適だな。でも、今は日中だからそろそろ降りないと。誰かに見られたらへんなことになりそうで……。
飛行は超級魔法だったか、帝級魔法だったか……、なんにしろ一般的な魔法じゃなかったはずなのだから。
オレは静かに地面に降りていく。
「っ!?」
かさり、と森から音がした。けものの気配はないはずだ。ということは、人間か?
見られたとなると面倒くさいことになるな。
例えば、お前はなぜこんなところにいる?こんなところで何をしていた?なんていうふうに聞かれてしまうからな。
しかも、近くで事故があったんだ。疑われるだろう。
「誰だ?」
警戒しながらも、威圧感を与えないように注意しながら音を出した奴に声をかける。
「え、あ、その。ごめん、なさい」
そう言って、森の中から出てきたのは可憐な少女だった。
少女の服装は旅をしているという風ではなく、森の中にふさわしくないきらびやかなワンピースを着ていた。金色の髪は艶があって、その髪を緩く三つ編みをしてまとめていた。
「え?」
そんな少女の登場に間の抜けた声を出してしまう。
「うああ、見ちゃだめ、でしたよね。ごめんなさい」
オレが、少女のあまりにも場違いな服装に驚いて、声をあげたのを、少女はしどろもどろになりながらも、謝り続ける。
すごく気になるんだよな。この少女。
「見てしまったことは別、気にしていないから。だから質問いい?」
あ、少女がキョトンとした顔でオレを見つめている。失敗したか?
いきなり聞かれちゃ、誰でも驚くし、不審におもうよな。
「えと、はい。大丈夫です……!」
「ほんとにいいのか?」
「はい」
少女はしばらく驚いていたが、快諾してくれた。
オレは早速、疑問に思っていたことを少女にぶつけてみた。
「君はどうして、こんな場所にそんな格好でいるんだ?」
「……」
少女からかえってきたのは、俺が全く予想していなかった答だった。
「お兄ちゃんを探しに行くために、さっき森の中から出てきたんです。飛び出してきたので、服は着ていたものなんです」
地獄がはじまる。