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プロローグ
周りの大人たちが何を話していたのか、そこでどういう儀式が執り行われたのか、そのときの幼すぎた私はほとんど覚えていない。
僅かばかりの記憶も、フィルムが劣化した白黒映画のように不鮮明だ。
覚えているのは、数人の男性に抱えられどこかに運ばれていく長方形の黒い箱。そして、それを見送りながら姉と交わしたいくつかの言葉。
「お母さん、どこかに行っちゃうの? もう帰ってこないの?」
問いかけた私をそっと抱きしめ、姉は囁いた。
「大丈夫、私がいるわ。私がずっとあなたの傍にいるから」
姉の声はとても優しくて、腕の中はとても温かくて、だけど、姉は少し震えていた。耳元で聞こえる声も、小さな私を包み込む身体も……。
私は姉に支えられて大人になった。親よりも長い時を姉と共に生きてきた。
何よりも大切な人。誰よりも大好きな人。子供の頃からずっと変わらない。それは私が胸を張って言えるただ一つの真実。
両親がいなくても、姉さえいてくれれば私は幸せだった。
幸せだったのに。
どうして。
どうして。
どうして。
お姉ちゃん――